建物と建物、まちとまちをつなぎ、クルマや人の往来を生み出す道路。クルマが大きな進化の時期を迎える中で、道路そのものはどのように変わっていくのだろうか。答えは一つではない。デジタル技術などにより今までの道路にはなかった機能が加わる可能性もあれば、使い方・役割が変わる可能性もある。あるいは、今までは道路ではなかったところが道路になるかもしれない。そんな道路の未来を考えてみよう。

日本では2020年の東京オリンピック開催に向け、さまざまなインフラが新設、再整備されている。主にデジタル技術の活用により利便性を高めた、いわば“スマートロード” に向けた取り組みといえる。

もともと、1964年に開催された東京オリンピックの時も、高速道路や都市高速道が次々と新設され一般道路の整備が加速化した。それによって、自動車による移動に関してはいろいろと便利になった。一方では、交通事故による死亡者が急増し、高度経済成長期になると交通戦争と呼ばれるようにもなった。そんな道路が、ITによってさまざまな機能を持とうとしている。

1990年代から推進されてきた高度道路交通システム(ITS)は、渋滞や交通事故を防ぐことを目的としたシステムだ。当初のITSの構想では、自動車同士が通信を行う車車間通信や道路と自動車が通信を行う路車間通信などによって、自動車事故や人身事故を防ごうとしていた。近年では携帯情報端末の普及によって、人と自動車が通信を行う歩者間通信も事故防止に役立てようとしている。

さらに、第5世代移動通信方式(5G)などといった大容量・低遅延の無線通信や、AIなどの技術が進化した今では、事故が起きそうな状況を予測してリアルタイムに注意を促してくれる交通支援システムも考えられている。

危険を予測して知らせてくれる道路

NTTドコモは住友電気工業と共同で、5Gによる交通状況データ活用に向けた実証実験を進めている(図1)。実験では、5Gの基地局と端末を搭載した自動車を住友電工のテストコースに持ち込み、自動車に積んだセンサーと信号機などに付けたセンサーの情報を送受信している。将来的には、道路や自動車からのセンサー情報を無線や有線のインフラによって交通センターに送信し瞬時に解析する。その時、運転に注意が必要な状況にあると判断されれば、関係しそうな自動車のドライバーに注意喚起する。

例えば、横断歩道で青信号を待っている歩行者の姿は見通しの良い道路では問題なく確認できるが、渋滞中の道路では自動車の陰に隠れてその存在に気が付かないことがある。また、自動車のセンサーも間に障害物があると死角ができてしまう。そのような状況では、歩行者も渋滞で死角になっている自動車を見落とし、信号が青に変わる前に飛び出したりすると人身事故が起きかねない。

そこで、自分が運転している自動車のセンサーだけでなく、周囲にいる自動車や道路、信号機などに設置されたセンサーの情報も統合的に収集すれば死角を減らすことができる。さらに、歩行者がどこから来てどの方向を見ているのか、どのくらいの速度で歩いていたのかなどの情報まで収集して解析すれば、歩行者側の信号が青に変わった後の歩行者の行動パターンが推測できる。

また、渋滞中の車両の隙間から道路を渡ろうとしている歩行者の情報がセンターに送られると、その隣の車線を直進してくる自動車に歩行者が飛び出してくるかもしれないと注意を促す。その際、直進してくる車の後方を走っている車にも、前の車が急ブレーキをかける可能性があることを伝える。

現時点でNTTドコモと住友電工がテストコースで行っている実証実験では、自動車と交通インフラに設置したカメラやLiDAR(レーザーレーダー)などのセンサーが使われている。これらに、歩行者が持つスマートフォンからの情報も加えることができれば、さらに道路上でのさまざまな予測が可能になる。「例えば、歩行者が行き先をスマートフォンに設定していれば、その人が次にどの横断歩道を渡りそうかが推測できる。成人や子供、高齢者などといった歩行者の属性によっても、横断歩道の渡り方などの行動パターンが変わってくる」(NTTドコモ 5Gイノベーション推進室 5G無線技術研究グループ 安川真平氏)。

そのように、あらゆる情報を収集してAIなどで解析すれば、次に起きることを予測して周辺の自動車や歩行者に注意を促してくれる道路が実現きそうだ。

(図1)ドコモと住友電気工業による5Gによる交通状況データ活用に向けた実証実験

海外では、すでに国内のすべての自動車からさまざまな情報(プローブ情報)を収集している国がある。1975年に世界で初めてロードプライシング制度を導入したシンガポールでは、1998年から自動料金徴収システムERP(Electronic Road Pricing)を導入している(写真1)。自動車の位置情報は、ドライバーのスマートフォンのGPSを使って収集されており、一般車両のプローブ情報のすべてを国が管理している。

シンガポール国立大学や三菱重工と共同で次世代のバス向けの情報提供システム開発に関わっている、慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任准教授の佐藤雅明氏は「これからの道路に求められるのは、モビリティが健全に動いているのかがチェックできる機能。道路がモビリティを監視する役割を持つことになるかも知れない」と語る。

(写真1)シンガポールでロードプライシングに利用されているERPシステム
(写真提供:慶応義塾大学)