わずか5分の待ち時間で乗れるオンデマンドの無人タクシー、クルマやバイク・自転車のシェアリング、街を見下ろして移動する“空のエレベータ”、そして渋滞知らずで街を走り抜ける新交通――。我々の身の回りにある移動手段は、より便利で快適、そして安全に進化する。本稿では、2020~2030年ころを想定し、どのような技術やサービスが求められ、モビリティがどのように変わり得るのかをリポートする。

どこにいても、ボタンを一つ押せば、わずか5分でクルマが到着し、定額制の路線バスと同程度の料金で、目的地まで時間厳守で連れていってくれる――。

街の上空を行き来する「空のエレベータ」に乗り、渋滞する道路を眼下に見ながらとなり街まで移動する――。

買い物を頼むと、自分が指定した時刻・場所にタイムリーに商品を届けてくれる――。

自動運転、クルマやバイク・自転車のシェアリング、オンデマンドタクシー、駅から自宅までの短距離向け公共交通、既存の公共交通の隙間を埋める新交通。こうした先端技術や新サービスによって、いまよりも進化した、より便利で快適、かつ安全な、モビリティ社会が実現に近づきつつある。

例えば、自動運転を前提としたサービス提供に向け、ロボットタクシー、SBドライブなどの企業が活動を始めた。ロボットタクシーは2016年2月に藤沢市で、自動運転によるタクシーの実証実験を実施(写真1)。2020年のサービス開始を目指し、千葉市の幕張新都心をはじめ他の地域でも実証実験を展開していくという。SBドライブも2016年4月に北九州市と、自動運転技術を活用した地域密着型のコミュニティモビリティに関して連携協定を結んだ。

(写真1)ロボットタクシーは2016年2月、藤沢市で初めて実証実験を実施した
(写真提供:ロボットタクシー)

一方、東京は都心と臨海副都心を結ぶ新交通としてBRT(Bus Rapid Transit)を導入することを決めた。バス車両を使って、より時間が正確で、大量に人を輸送できる交通手段である。事業者として京成バスを選定。2019年の運営開始を目指し、準備を進めている。

ほかにも、クルマや自転車のシェアリングサービスが充実するなど、様々な動きがある。理由はもちろん、より移動しやすい環境を整えること。特に動きが目立っているのが、2020年にオリンピック開催を控える東京近郊におけるスムーズな移動手段と、中山間地など過疎化に悩む地方での移動手段の確保である。

都市開発や高齢化によって顕著になってきたモビリティの課題

2016年3月、北海道新幹線が開通し、九州から北海道まで日本列島を縦断する高速鉄道網が完成した。日本では、遠距離を移動するモビリティに関しては着々と利便性が増してきている。ただ、我々の生活に密接に関係する、中近距離のモビリティに関しては、都市部、地方部ともに様々な課題を抱えている。

都心では、JRをはじめ各種鉄道が通り、そのほかにも地下鉄や路線バスが運行され、移動手段には事欠かない。利用客が多いことから、タクシーもたいていの場所でつかまえられる。それでも利用者からすると、移動時間を含めると生活全体での生産性には不満が残る。自動車の移動に関しては渋滞や駐車場不足が恒常的に発生しているし、鉄道・地下鉄・バスは必ずしも行きたい場所までの路線があるとは限らない。さらに言えば、路線が複雑になって、地下鉄がどんどん地下深くに敷設されたことで、乗り換えにかかる手間や時間が増え、逆に不便さ・不快さを感じさせられている面もある。

こうした状況に加え、海外からの旅行者が増えていることで、よりスムーズで便利な移動手段が求められるようになってきている。とりわけ2020年のオリンピック開催地となる東京近郊では対応が欠かせない。

一方、中山間地などでは交通手段が乏しく、「高齢者を中心とする“移動弱者”たちがソリューションを切望している」(ロボットタクシーの中島宏社長)。地方においては、人口減による公共交通の利用者減少、公共交通の採算性悪化、その結果としてのサービス水準の低下、利用者のさらなる減少、そして路線廃止といった現象が連鎖的に生じる例が少なくない。こうなると生活者は、近辺への移動に自家用車を利用せざるを得ない。

中山間地ばかりではない。都市部の近郊でも、新興住宅地として開発されつつも近隣の商店街などが充実していない地域では、生活者は日常の足として自家用車に頼ることになる。そして、こうした地域では際立って高齢化が進んでいる。高齢な住民は、運転に不安を感じながら、日々、運転を余儀なくされているわけだ。こうした高齢者ドライバーによる自動車事故の増加は、既に顕在化し、社会問題になりつつある。

自治体によっては、税金でオンデマンドタクシーなどの仕組みを整え、運営しているケースもある。ただ、そのオンデマンドタクシーを運転するドライバーも高齢化が進み、就業人口が減っているのが実情で、継続性は大きな課題になっている。

こうした課題解決に向けて注目されるのが、自動運転など解決策をもたらす技術や、ロボットタクシーやSBドライブなどによる新たなサービスの実用化である。移動の利便性を高めるうえでは、ほかにもBRTや水上交通網、都市型ロープウエイなど、いろいろなソリューションがある。以下では、それぞれの動きを紹介するとともに、2020年以降の社会にどのようなモビリティが浸透していくのかを探る。

クルマ×ICTフル活用で“移動弱者”問題を解消

モビリティの課題解決に向け、ひときわ注目度が高いのが、自動運転技術やICTを活用した新しいサービスだろう。具体的には、米Uberや米Lyftが海外を中心に提供している配車サービスがその一つ。そしてもう一つが、ディー・エヌ・エー(DeNA)とZMPが合弁で設立したロボットタクシーや、ソフトバンクと先進モビリティが設立したSBドライブが実現しようとしているロボット型の無人運転車を使ったサービスである。

これらのサービスが登場・浸透することで、利用したい時に即座にクルマを呼び寄せてストレスなく移動できる環境が整っていく。サービスの利用料も現在の一般的なタクシーと同程度、場合によってはもっと安く済む。これにより、クルマに関する「所有から利用へ」の流れが加速度を増すと見ていいだろう。社会的な課題となっている“移動弱者”に便利な手段を提供することになるし、無人運転により運輸業界のドライバー不足の解決にもつながる。

実際のところ、現時点ではサービス提供には課題がある。配車サービスでは、Uberがタクシー会社と連携するなどしてサービスを提供しているが、法規制により、海外のようにタクシー会社以外の契約ドライバーを自由に利用することはできない。ロボット型無人運転については、ようやく実証実験の段階に達したばかりである。それでも、課題は徐々に解決していく。5~10年先、これらのサービスは日常生活の中で珍しくないものになっているはずだ。