相互理解を深める狙いでプログラムを用意

インクルーシブパレードの3日間のプログラムにおいては、相互理解を深めるというイベント全体の趣旨に沿って、複数のプログラムが用意された。

その1つが、アーティストの前田健司氏によるライブペインティングである。前田氏は事故により身体が不自由になってから(頸髄損傷、C4完全麻痺)、口によるパソコンの操作でデジタルイラストを描き続けている。

前田氏の作品群には、独特の立体感がある。写真の対象物に見える影に着目し、その影を単純図形を積み重ねながら色の層で描き出すという方法からくるものだ。パラアスリートを描いた作品は、SNSを中心に「躍動感がある」との定評があるという。作品は過去に東京都の「有楽町マルイ」、また横浜市や千葉県市原市の会場などで展示された。

インクルーシブデザイン協会の国宝氏は、前田氏のライブペインティングを企画した意図を次のように説明する。「人は本来、何かをつくって表現したい存在だ。しかし、障がいを持ったことでそれを諦めてしまう人も少なくない。前田さんのイラストの描き方を紹介することで、『自分にもできるかもしれない』と一歩を踏み出してくれる人が出てくるのではないかと考えた」。

前田氏(写真右)は、インクルーシブパレードの会場で自身の絵を描くプロセスの一部を披露した(写真撮影:筆者)
前田氏(写真右)は、インクルーシブパレードの会場で自身の絵を描くプロセスの一部を披露した(写真撮影:筆者)

前田氏は2017年から2020年にかけてはレコード会社のエイベックスと契約し、同社所属アスリートの公式イラストを制作した経験を持つ。契約が終了してからはフリーランスのイラストレーターとして作品の制作を続けている。なお、インクルーシブパレードのポスターなどに使われたキービジュアルには、前田氏によるイラストが据えられた。

インクルーシブパレードのチラシ。前田氏によるイラスト作品がメインビジュアルに使われている(提供:インクルーシブパレード)
インクルーシブパレードのチラシ。前田氏によるイラスト作品がメインビジュアルに使われている(提供:インクルーシブパレード)

「事故に遭ってから2年ほどの間、死にたいとばかり考えていた。だが、家族を喜ばせたいと思って始めたデジタルイラストを通じて、様々な出会いがあった」(前田氏)。前田氏は作品作りを通じて、様々な立場の人を応援しつつ、福祉・介護や障がいに対する認知や理解が広がった「心のバリアフリー」な社会を希求しているという。

「粛々と作品作りをしている」と語る前田氏だが、最近は「誰もが訪問しやすいオープンな場所で作品を制作する」という夢を描くようになったという。前田氏のイメージとしては、平屋などで制作スペースがガラス張りになっており、外からのぞいて気軽に立ち寄れるような場所。「私に会いたい、どうやって描いているのかを見たいという方はいらっしゃるのだが、私からはなかなか会いに行けない。このような場所があれば気軽に寄っていただけるのではないかと考えている」(前田氏)。