車椅子ユーザーを中心に据えたパレードが見せる可能性

主催者らが錦糸公園をスタート地点とするパレードの実現に当たって苦労した点の1つは、多数の車椅子ユーザーが通れるルートの確保。地元警察からはパレードに対して強い共感と支持を受けたものの、出発地点である錦糸公園から終点となるマルイ錦糸町店までのルートを決めるまでには、苦労の連続だったようだ。

国宝氏は「これまで日本で車椅子ユーザーによるパレードが開催されなかった理由がよく分かった」と振り返る。車椅子は、歩行者なら気にならない道の勾配や段差を苦手とする。また一人当たりの所有面積も歩行者より大きい。そのほかユニバーサルトイレの位置や、行進時における移動速度、公園にある車止めの間隔幅、雨天時に発生する水たまりの具合など、配慮すべき事項が多々あったという。

「車椅子が1台、2台なら街中の移動は問題ない。けれども、それ以上の数が集まって、しかも街を行進するとなると、なおさら条件が難しい。様々な課題をクリアするべく、調査と検討を重ねた」(国宝氏)。

記事の冒頭でも触れたが、車椅子や杖のユーザーを主役に据えたインクルーシブパレードは、日本でも例を見ない取り組みだ。主催者らがこのパレードの実現に向けて取り組んだ事項は、近未来の街区に求められるモビリティ(移動)の在り方を示唆しているとも言えそうだ。

これまで、日本ではバリアフリーやユニバーサルデザインというキーワードを通じて、車椅子ユーザーなどに配慮した街づくりや施設づくりが進められてきた。また近年、日本政府は「スマートシティ」の実現に向けて各種の実証実験を続けている。その中には、少子高齢化を見据えて、電動車椅子などのパーソナルモビリティの実証実験も多くある。

国宝氏は次のように語る。「産業分野で重視されてきた効率性、生産性、合理性などの考え方は、障がいや病気がある方々とは馴染みにくい。しかし、そうした少数派とされる人を除外せずに実現の方法を考えていくと、イノベーティブな商品やサービスの可能性が見えてくる」(国宝氏)。

具体的な方法論として国宝氏が挙げるのは、インクルーシブデザインである。インクルーシブデザインとは、障害者や高齢者、あるいは外国人などいわゆる少数派の意見を商品・サービスの企画・設計に取り込むことで、新たな価値創出を狙うデザインの考え方のこと。

インクルーシブデザインは英国が発祥で、欧州を中心に実践例が増えており、日本でも少しずつ広がりを見せている。国内における実践例としては、セブン銀行のATM、花王の洗濯洗剤「アタックZERO」のパッケージ、また羽田空港の国際ターミナルなどが知られている。

欧州ではインクルーシブデザインをサービスの再設計に適用して効果を上げた例がある。欧州の通信会社が視覚や聴覚が不自由な人にも把握しやすいようにメニューを編成し直した結果、高齢者も含めた一般消費者にも支持され、契約数を伸ばしたという。

「障がいや病気がある人にも優しいモノやサービスの在り方を探ると、一般の人にも使いやすいものに磨き上げられることも多い」と国宝氏は説明する。国宝氏が代表理事を務めるインクルーシブデザイン協会では、インクルーシブデザインに関する障害者と企業のマッチングおよびコンサルティング事業を進めている。同団体では衣服や鞄のデザインへの適用実績がある。

インクルーシブデザインの考え方に基づけば、インクルーシブパレードは移動しやすいまちづくり、あるいは新しいモビリティツールとの親和性が高いまちづくりに向けてのヒントを探る取り組みとも考えられそうだ。

「少子高齢化が進むと、より多くの人が車椅子を使うようになる。またモビリティが多様化することで、今後は一般の人も車椅子型のモビリティを活用するようになることが予想される。つまり、近い将来、街区に求められるハード面の課題を、車椅子ユーザーが教えてくれていると考えられる」(国宝氏)。

インクルーシブパレードの発端は、「車椅子ユーザー1000人で銀座の歩行者天国を埋めたい」という仲間同士の何気ない会話だったという。インクルーシブパレードは今後も継続的に実施し、5年目に当たる2026年頃には「1000人の車椅子ユーザーのパレード参加」を目指しているという。

2日目に行われたCYBERDYNEによる解説とデモンストレーションのワンシーン。同社が開発・提供している医療用ロボットスーツ「MEDICAL HAL」の説明。同製品の動作原理の説明に加えて、リハビリに適用したことによる身体機能の改善効果の事例を紹介した(写真撮影:筆者)
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3日目に行われたデジタルリハビリツール「デジリハ」の体験会の様子。デジタルアートやゲームの要素を取り入れることで、リハビリの必要がある子どもが楽しみながら取り組めるようにした。写真はセンサーを付けた腕を素早く振ることでリハビリ効果を狙った利用シーン(写真撮影:筆者)
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