日本の地盤沈下が止まらない。1人当たりのGDPではOECD加盟38カ国中の23位でありG7内では最下位。このまま何も手を打たずにいれば、事態はさらに深刻化する。現状を打開し、日本の再生・発展を図るためのグランドプランが求められている。この戦略を考える上で最大のキーマンが東京理科大学大学院の若林秀樹教授だ。同氏は経済産業省「半導体・デジタル産業戦略検討会議」や「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」の有識者メンバーであり、「電子情報技術産業協会」(JEITA)半導体部会の政策提言タスクフォース座長も務める。技術のみならず産業動向や投資戦略に至るまで深い知見と広い人脈で知られる日本屈指の論客だ。同氏が唱える日本再生の具体戦略「デジタル日本進化論』について話を伺った。(聞き手:高山 和良、山口 健(日経BP 総合研究所 主席研究員))【全2回、本記事は第1回】

──2021年夏頃から「デジタル版日本列島改造論」として、デジタルによって日本を再生・発展させる具体戦略『デジタル列島進化論』を唱えておられます。まずは、これについて教えてください。

若林教授(以下、敬称略):昨年2021年の春頃から、有識者会議や講演、学会、デジタル産業や半導体関係の方々との会合など様々な場所で、今こそデジタル版日本列島改造が必要だということを唱えてきました。

このまま何も手を打たないでいれば、日本のプレゼンスは低くなる一方です。国内総生産(GDP)や労働生産性の観点から見ると、2030年に日本は、まぎれもなく二流国に堕してしまいます。

プライスウォーターハウスクーパースや経済協力開発機構(OECD)、英エコノミスト誌などが発表した予測をもとに考察すると、ドル建てで物価の違いなどを考慮した購買力平価をベースにしたGDPでは、日本は既に3位ではなく、インドに抜かれて4位です。2030年のGDPランキングでは、1位は中国、2位は米国、3位はインド、日本は4位ですが、5位のインドネシアに肉薄されます。2050年になるとインドネシアやブラジル、メキシコに抜かれ、世界7位に転落します。

さらに問題なのは1人当たりGDPです。G7中では最下位ですし、OECD推計で、2020年は加盟38カ国の23位、韓国やチェコ、スロベニアよりも下です。今後、さらにランキングは下がるでしょう。

東京理科大学大学院の若林秀樹教授。エレクトロニクス産業における元トップアナリストであり、現在は東京理科大学専門職大学院ビジネススクールにて社会人学生に技術経営(MOT:Management of Technology)を教える。若林教授は、経済産業省「半導体・デジタル産業戦略検討会議」や「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」の有識者メンバーであり、「電子情報技術産業協会」(JEITA)半導体部会の政策提言タスクフォース座長も務める(写真:清水盟貴)
東京理科大学大学院の若林秀樹教授。エレクトロニクス産業における元トップアナリストであり、現在は東京理科大学専門職大学院ビジネススクールにて社会人学生に技術経営(MOT:Management of Technology)を教える。若林教授は、経済産業省「半導体・デジタル産業戦略検討会議」や「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」の有識者メンバーであり、「電子情報技術産業協会」(JEITA)半導体部会の政策提言タスクフォース座長も務める(写真:清水盟貴)

今すぐ手を打たなければ日本は泥沼に沈む

若林:こうした数字を客観的に見れば、既に二流国になっているわけです。このままでは日本は間違いなく泥沼に沈みます。国だけでなく、産業・企業もそうです。

そうならないためには、具体的な日本の再生戦略が今すぐ必要です。残された時間は5年もありません。今が最後で最大のチャンスです。政策だけでなく、産業・企業論まで捉えたグランドプランを描く人が、私が知る限り今の日本には誰もいませんでした。ですから私が、自らの浅学非才を顧みず、課題先進国である日本のあるべき姿について論じました。それが今回上梓した『デジタル列島進化論』(発行:日本経済新聞出版)になります。

故・田中角榮 氏が『日本列島改造論』を世に出したのが1972年のことで、今年がちょうど50年目に当たります。50年前の著作ですが、『日本列島改造論』が掲げた安心、安全、生きがい、格差解消、地域疲弊の解消、平和主義は、今も変わらない普遍的なビジョンです。この普遍的なビジョンを実現することが私の戦略の最終目的となります。私の『デジタル列島進化論』という戦略はデジタル版の『日本列島改造論』と言えます。

1972年に発刊された故・田中角榮 氏の『日本列島改造論』と、今回若林教授がデジタルによる日本再生戦略をまとめた『デジタル列島進化論』(発行:日本経済新聞出版)(撮影:高山和良)
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1972年に発刊された故・田中角榮 氏の『日本列島改造論』と、今回若林教授がデジタルによる日本再生戦略をまとめた『デジタル列島進化論』(発行:日本経済新聞出版)(撮影:高山和良)

──具体的にはどのようなことをするのでしょうか。

若林:日本はいわば、ヒト、社会インフラ、企業、制度の4つの老齢化が深刻化している「課題」先進国です。この4つの「老い」が日本の地盤沈下、つまりGDPや1人当たりGDPが伸び悩んでいる原因です。『デジタル列島進化論』では、この4つの老いを、5G、6Gの情報通信網とスマートグリッド網の構築、AIやロボティクスの活用、さらには、それらすべての基盤インフラとなる半導体産業の再生を実現することによって解決します。この課題解決によって日本の地盤沈下を食い止め、再び競争力のある国へと再生させようとするものです。

50年前の『日本列島改造論』との比較で説明しましょう。

『日本列島改造論』では、新幹線、高速道路、橋梁などの交通網整備が日本列島改造の手段でした。『デジタル列島進化論』では、データセンター、5G、6Gの基地局と光電網、EV(Electric Vehicle)充電ステーション、スマートグリッド網などが日本列島再生・発展の手段となります。それらの前提であり基盤インフラとなるものが50年前は鉄とセメントでしたが、今は半導体というわけです。

『日本列島改造論』と『デジタル列島進化論』の内容を比較したもの。『デジタル列島進化論』は、いわばデジタル版の『日本列島改造論』と言える(表提供:若林教授、『デジタル列島進化論』(若林秀樹・日経BP  総合研究所著、日本経済新聞出版)より)
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『日本列島改造論』と『デジタル列島進化論』の内容を比較したもの。『デジタル列島進化論』は、いわばデジタル版の『日本列島改造論』と言える(表提供:若林教授、『デジタル列島進化論』(若林秀樹・日経BP 総合研究所著、日本経済新聞出版)より)