幕張ベイタウンと呼ばれる住宅地区(写真3)では、居住者が同じ水準の公共サービスを望むだけに移管作業は容易ではない。とりわけ問題になったのは、ごみ空気輸送システムである。これは、一定の大きさ以下のごみであれば、住宅地区内の各マンションに設置された投入口に投げ込んで処理するというもの。ごみは管路を伝って住宅地区の一角にある施設に集約される。居住者にとっては通常の拠点回収と違って、いつでもごみ出し可能な便利なシステムである。ところが管路を通してごみを輸送する設備である以上、維持管理は欠かせない。当然、そこにはコストが掛かる。

(写真3)幕張新都心の東側に位置する住宅地区の幕張ベイタウン。千葉県企業土地管理局によれば、計画戸数の供給を終え、2万5700人近くが居住するという(画像提供:千葉県企業土地管理局、2014年度撮影)

市は当初から、市内のほかの地区と同じ拠点回収を前提とした費用負担しかできないという態度を貫いてきた。居住者に応分の負担を求める案も出たものの、地元との協議を経て、市と千葉県企業庁は2014年3月、市が負担できない分は千葉県側で負担するという方向で基本協定を交わす。今年度からは市がその取り決めの下でシステム全体を引き継ぐ。市環境局資源循環部廃棄物施設課によれば、今年度予算ではシステム運営経費総額1億6127万円のうち4070万円を市で負担するという。

この幕張ベイタウンでは計画当初から、先進的な住宅地にふさわしい新しいサービスを実現する狙いで地区全体のトータルな管理・運営体制を築こうとしていた。千葉県企業庁が1990年に策定した事業計画では、県、住宅事業者、公共公益施設事業者らを構成員に想定して組織化を検討すると明記していたほどだ。2007年度には、千葉県企業庁、住宅事業者、居住者代表、千葉市の関係4者で、管理運営機構の創設も視野に入れながら住宅地区の適正な管理運営のあり方を検討した経緯もあるが、当初想定していたような構成での管理運営機構の設立には至らなかった。

未来志向の強い開発プロジェクトほど、そこには新しい試みが散りばめられている。それだけに、未来都市では維持管理にどう取り組むかという視点が欠かせない。プロジェクトにそれをどう仕込んでいくか、その重要性を幕張新都心は気付かせてくれる。

「ファイバーシティ」人口減少下、都市に新しい価値を

2000年を超えると、時代認識はがらりと変わってくる。人口減少社会の到来だ。2005年国勢調査に基づく10月1日現在の人口が、国勢調査に基づく1年前の推計人口に比べて2万人減少したのをきっかけに、一般にも意識されるようになったと言われている。

成長の時代から縮小の時代へ――。そうした時代背景の中で建築家・大野秀敏氏と同氏が東京大学教授時代にその研究室に在籍した学生が提唱するのが、「ファイバーシティ」と呼ぶ構想である。「ファイバー」とは、「境界」や「流路」の形態を取る都市内の線状要素を指す。「ファイバーシティ」はその線状要素、それも比較的小さな要素を操作し、都市の中の「場所」と「流れ」を同時に制御しようとする内科治療的な計画理論という。

根っこには、縮小の時代を前提にした価値観の転換がある。大野氏は「日本はいまだ新築志向が強い。いまあるものを否定して造り替えるのではなく、そこに分け入る『介入』という考え方が重要だ。それは、文化の連続性にもつながる」と説く。建築に置き換えれば、建て替え・新築ではなく、リノベーション。小さな線状要素に「介入」することによって、現実の都市を再組織化していく。

構想の基本的な考え方を最初に打ち出したのは、2005年。その後、検討対象に地方都市を加えたり理論化を深めたりするなどして、2016年8月にはバージョン3.0にあたる著書「ファイバーシティ――縮小の時代の都市像」(東京大学出版会)を刊行している。

理論に基づくデザイン・プロジェクトの具体例をいくつか見ていこう。

まず線状要素として公園(新宿御苑)と市街地の「境界」に着目した例である(写真4)。ここでは公園の面積を一定に保つことを前提に、市街地の一部を公園に造り替え、公園の一部に建物を建てている。そうすることで、公園が大通り側にまで顔を出し、その存在を道行く人に訴える。一方、市街地側からみれば、公園に接する街区が増えることになるので、その環境の快適性は高まる。

(写真4)公園(新宿御苑)の境界線をひだ状に変えることで、公園と市街地の接する部分が長くなり、緑が都市に浸透すると同時に、公園に都市的雰囲気を持ち込める(出典:大野秀敏+MPF「ファイバーシティ――縮小の時代の都市像」(東京大学出版会、2016年8月))

プロジェクトの原点には、公園と市街地との関係性がうまく築かれていない現状がある。真っすぐな境界をひだ状に折り曲げることによって、公園と市街地の間で互いの存在が有意義になる関係性を生み出す狙いという。

次は線状要素として首都高速道路という「流路」に着目した例である(写真5)。これは、高速道路の一部の機能を廃止し、その構造体を、複合機能を持つ新しい社会基盤として再生するというプロジェクトである。「流路」はそのままに、流すものを自動車から別のものに置き換える発想だ。

(写真5)首都高速道路から自動車道機能を廃し、空中遊歩道として開放する。災害時には救援用車両の通路に充てる。同時に、沿道の地域冷暖房プラントなどを結び、熱のネットワークをつくる(出典:大野秀敏+MPF「ファイバーシティ――縮小の時代の都市像」(東京大学出版会、2016年8月))

複合機能の一つは、災害時に救援用の車両が通行する通路である。高速道路のうち1車線を常時空けておくことを提案する。一般道路を緊急輸送道路に指定して救援用車両の通行路を確保しようとする取り組みもみられるが、災害時に実際にどこまで機能するか、確実性に欠けるという見方に立つ。

第二の機能は、緑化を施した空中遊歩道である。平常時には、歩行者や軽車両に開放する。さらにこれをネットワーク化し、空中緑地網を整備していく。沿道に立地するビルの中間階に空中庭園を設け、高速道路との間を空中通路で結べば、このビルは地上と高架という2つのレベルに出入り口を持つことになるため、資産価値の向上を図れるという。

第三の機能は、熱のネットワークを築くための管路である。管路で沿道の地域冷暖房やごみ処理施設などを結び、そのネットワーク内で余剰熱を融通し合うことで、熱需要と熱供給のバランスをより広い地域内で確保しようという狙いだ。高速道路の路面上や桁側面に管を敷設することによって、こうした広域にわたる熱のネットワークを、コスト負担を抑えながら築く。

「流路」として、東京湾岸に近い地域を巡る運河にも着目する。JR品川駅港南口とその東側を南北に貫く高浜運河との間の道路を開削し、そこも運河化することで、港南口まで水を引き込む提案だ(写真6)。それによって、東海道新幹線をはじめとする鉄道と羽田空港までも通じる舟運という2つの「流れ」をつなぎ合わせる。

(写真6)JR品川駅港南口側の道路を開削し、近くの高浜運河につなげる。品川駅から船に乗って、羽田空港、東京ディズニーランド、東京ビッグサイト、湾岸のマンションなどに直通で行ける(出典:大野秀敏+MPF「ファイバーシティ――縮小の時代の都市像」(東京大学出版会、2016年8月))

鉄道と舟運を気軽に乗り継げるようになれば、例えば羽田空港からの訪日客を品川駅で出迎え、新幹線で京都に向かう、という旅程も組める。都心の交通ネットワークの冗長性を高めるとともに、東京という都市の魅力を一段と向上させる狙いだ。

「東京は水辺を生かした開発が少ない。居心地いいカフェで過ごせるとか、ホテルの足元にある水辺から船に乗って東京ディズニーランドに行けるとか、水辺をうまく生かすことができれば、都市の付加価値を高めることができる」(大野氏)。

「ファイバーシティ」の考え方に基づくデザイン・プロジェクトはどれも、都市内の線状要素に「介入」することによってその都市の魅力を高めるものにほかならない。縮小の時代、こうした「介入」が意味を持つことになりそうだ。

成長の時代、未来都市は新しいフロンティアを切り開き、都市構造を大きく転換していくという狙いを持っていた。ところがいまは、社会経済環境の変化を背景に、大きな構造転換より新しい価値創造へ、重きは移っている。

それによって未来都市は、ビジネスを生み出す場としても構想され始めるようになった。後編では未来都市のそうした側面に焦点を当てていく。

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