昭和30年代以降、人口増加や経済成長を背景に、都市を水平に、垂直に展開させていこうとする「未来都市」が構想されてきた。しかし、人口減少や成熟経済の時代を迎えると、都市が対応すべき社会課題はがらりと変わる。キーワードは、構造の転換から価値の創出へ――。未来都市の系譜をたどり、都市の未来と可能性を展望する。

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まち開きから20年余り。幕張新都心が再び、未来都市としての存在感を放ちつつある。ドローン(小型無人機)を用いた宅配サービスの検討が始まるなど、近未来技術の実用化に向けた実証の場として機能し始めた。

仕掛けたのは、千葉市。ドローンを用いた宅配・セキュリティーサービスの提供や自動運転技術を用いた無人タクシーの走行など近未来技術の実証に幕張新都心で取り組むことを、国家戦略特区に関する提案として2015年10月に打ち出した。翌16年1月、千葉市は東京圏国家戦略特区に正式に追加される。

2016年3月には、東京圏国家戦略特別区域会議の下に国と千葉市と民間事業者の3者で組織する「ドローン宅配等分科会」を設置することが決まり、同年4月には第1回を開催。6月からは、その下部組織にあたる「技術検討会」で具体策の検討に入った。国は分科会での検討を通じて、制度改革・規制改革のあり方を見定める狙いだ。

地元市としては、検討にいち早く取り組むことで関連産業の集積を狙う。「都市間競争の中、市を持続的に発展・成長させていく必要がある。幕張新都心のコンセプトを引き継ぎながら、新しい価値の創造につながることをほかの都市に先駆けて実践していく」。千葉市総合政策局幕張新都心課課長の中台英世氏は取り組みの背景を説く。

視線の先には、2020年東京オリンピック・パラリンピックをにらむ。競技会場の一つに幕張メッセが選ばれたことから、開催期間中は世界中から多くの人が訪れる。その機会をとらえ、近未来技術を活用した未来都市の姿をアピールする。

近未来技術の実証に幕張新都心で取り組むのには理由がある。ドローン宅配を例に取れば、まず物流倉庫が数多く立地する東京湾臨海部に近いこと。さらに輸送ルートの大部分は東京湾や花見川といった水域の上空であるため、落下によって市街地側で事故を起こすリスクが小さいこと。そして幕張ベイタウンの北側に広がる住宅地区(写真1)では計4500戸を超える超高層住宅群が2019年入居開始を目指し、順次整備されること。水平移動だけでなく、垂直移動に関する実証実験も可能なのである。

(写真1)ドローン宅配の実証実験の舞台になる幕張新都心の若葉住宅地区。超高層住宅の設計段階から対応していく予定(画像提供:千葉県企業土地管理局、2013年度撮影)

ドローン宅配では実証すべきテーマはいくつかある。都市側から注目したいのは、ドローン宅配に対応した住宅や都市のあり方。住宅や都市の設計者・計画者は設計・計画段階でどのような対応が求められるのかという点だ。例えば住宅の造りでは、住戸バルコニーや各階のポートなど宅配物を受け取る場所を設計段階から想定しておく必要がある。バルコニーはどのような造りにすべきか、各階のポートはどのようなものがいいのか、……。それらの点を検討する必要から、「技術検討会」には住宅地区を開発する企業体の代表を務める三井不動産レジデンシャルがオブザーバーの立場で参加する。

近未来技術の実証とはつまり、その技術を用いた新ビジネスの実証への第一歩である。幕張新都心ではドローンを用いた宅配サービスの実証が先行して始まったばかりで先行きはまだ不透明だが、実際に新ビジネスを展開できれば、そこで新しい価値を生み出せるようになるのは間違いない。そうした将来への期待感こそ、幕張新都心が再び放ち始めた未来都市としての存在感なのである。

Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(神奈川県藤沢市)「くらし起点」で新ビジネス創出へ

2010年前後の時期に未来感を持って登場してきたまちは、エネルギーの最適利用を通じて二酸化炭素(CO2)の排出削減を図る環境配慮型のスマートシティ・スマートタウンである。これらのまちではエネルギーの最適利用やCO2の排出削減に向けて先端技術を用いる。それが、従来のまちにない未来感を醸していた。これらもまた、未来都市の一つと言える。

神奈川県藤沢市でパナソニックが同社の工場跡地を開発する「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」(写真2)は、そうした未来都市の一つだ。土地区画整理事業で基盤施設を整備したうえで、戸建て住宅約600戸と集合住宅約400戸で構成する計画人口約3000人のまちを2020年までをめどに段階的に開発していく。16年9月現在、戸建て住宅約350戸が入居済みで、まち中にはライフスタイル提案型の商業施設や医療・福祉の拠点施設もすでに開設されている。

(写真2)「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」の全景。中央に見える円形の広場を中心に戸建て住宅が並ぶ(画像提供:パナソニック、2016年8月撮影)

大規模な開発であることから、計画段階では地元藤沢市はもちろん、まちづくりに関係する民間事業者とも連携を図ってきた。2012年12月には、事業者12社(16年9月現在、17社、1法人)と協議会を組織し、運営段階まで見据えた検討を重ねてきた。

最大の特徴は、「エコで快適」「安心・安全」な暮らしが持続するまちを目指し、そこに必要なサービスの提供をまちづくりの根っこに位置付けた点だ。「まず必要なサービスを想定し、そこから街区設計やインフラ整備を考えた。技術先行型のスマートタウンとは異なる、『くらし起点』の発想とプロセスで臨んだ」。パナソニックビジネスソリューション本部CRE事業推進部藤沢SST推進課の和田昌子氏は強調する。

想定したサービスは「エネルギー」「セキュリティ」「モビリティ」「ウエルネス」「コミュニティ」という5つの分野にわたる。

スマートタウンとして最も分かりやすいのは、「エネルギー」だろう。各家庭でエネルギーを賢く利用できるように、また非常時3日間はエネルギー供給が途絶えることのないように、戸建て住宅は太陽光発電システムと蓄電池を標準装備。戸建て住宅の一部を除き、家庭用燃料電池「エネファーム」も導入する。さらに家庭用エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)を通じてエネルギー使用状況を「見える化」し、その最適利用を図る。家庭内のこうした仕組みは一般的なスマートハウスとそう変わりない。

特徴的なのはむしろ、「セキュリティ」だ。災害時の安全を確保できるように、パナソニックのシステムを各家庭に取り入れ、気象庁からの災害情報を戸建て住宅に標準装備されているテレビに自動的に配信・表示する。例えば気象庁が大雨特別警報を発すれば、テレビ視聴中でも警報が番組を遮るように画面上に現れる。防犯という観点からは、「見守りカメラ」約50台を設置。夜間はセンサー付きLED街路灯・同道路灯と連動し、人や車の通行を感知し照度が上がった場所を録画する。

サービスの提供にあたるのは、協議会に参画する各事業者と、そのうちパナソニックなど9社が2013年3月に設立したタウンマネジメントの事業会社「Fujisawa SSTマネジメント」である。タウンマネジメント会社では14年4月のまち開き以降、居住者で組織する「コミッティ」と呼ばれる自治組織からの委託を受けて、集会施設にあたる「コミッティセンター」や「見守りカメラ」などまちの資産として「コミッティ」が所有する建物・設備の維持管理にあたるとともに、「コミッティ」の自治組織としての運営を支援する。

居住者向けに必要なサービスをまちづくりの段階で検討し、居住者が暮らし始め、まち育てといわれる段階に移ってからは、それらのサービスを協議会の各事業者とタウンマネジメント会社で提供する。その一方で、まちを舞台に新しいサービスの開発にも取り組む。それが、「Future Co-creation」と呼ばれる共創活動。戸建て住宅予定地の一角に専用のゾーンを確保し、「電動アシストシェアサイクルシステム」(写真3)や「宅配ロッカー」の実証に取り組む。

(写真3)「電動アシストシェアサイクルシステム」の実証では、設置・撤去が容易という技研製作所の可搬式駐輪システム「モバイルエコサイクル」を用いる(撮影:茂木俊輔)

言わばまちビジネスの創出である。パナソニックは横浜市で同社事業所跡地を野村不動産とともに、「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン」として開発中。立地特性から施設構成は異なるものの、「くらし起点」の発想という共通の考え方でまちづくりに臨む。海外でも、米国・デンバー、中国・大連などでスマートシティの開発に参画する。「同じ街を丸ごとではなく、現地の文化や課題、ニーズに合わせた提案で水平展開を図っていくことも考えられる」(和田氏)。

未来都市はこうしたまちビジネスを育てるインキュベーターの役割を担い始めた。未来を見据えた都市が、将来の暮らしを見据えたビジネスを育てる。