深海未来都市構想
深海産業という新しい市場にらむ

深さ3000~4000mの海底に深海プラントを設置し、海面近くには直径500mの透明球体をベースキャンプとして浮かべる。その間を運搬機能と取水機能を併せ持つ、らせん状のインフラ施設で結ぶ。その中では、人、電気、上水、酸素などが、海底に向かって送り出される一方で、人、海底資源、生物資源などが、球体のベースキャンプ近くに戻ってくる――。清水建設が2014年11月に発表した「深海未来都市構想」(写真4)は、人類の活動領域を深海まで広げるという、フロンティア拡張型の未来都市に見える。

(写真4)海面近くのベースキャンプと深海プラントの間に浮かぶ小さい球体は深海音波や深海生物のモニタリング拠点など(画像提供:清水建設)

しかし本質は、違うという。「地球規模の循環再生に深海の持つポテンシャルを活用する提案だ。深海が研究の対象から産業の対象に移った時代の需要を想定している。その時代に入れば、産業用のインフラが必要になる。『深海未来都市』は、そのインフラに相当する」。清水建設コーポレート企画室次世代リサーチセンターで海洋未来都市プロジェクトのリーダーを務める竹内真幸氏は説く。建設技術先行のプロダクトアウトではなく、深海産業という新しい市場をにらんだマーケットインの発想に立つ。

深海力で地球規模の循環再生を図る分野は5つ。「エネルギー」「水」「資源」「食糧」の確保と「CO2」の排出削減である。

「エネルギー」の確保には海洋温度差発電を用いる。海面近くと深さ1000m程度の深海との温度差を利用し、熱機関を動かして発電する。また「水」の確保には逆浸透膜式淡水化技術を用いる。水以外の不純物を透過しない性質を持つ膜に、深海の水圧差を利用して海水を透過させ、不純物を取り除き、淡水化する。ただし、深海力を生かすこうした技術は必ずしも実用化には至っていない。「これらの技術で高効率化や大規模化まで可能になれば、『エネルギー』や『水』の確保は可能になる」(竹内氏)。

一方、「CO2」の排出削減や「資源」「食糧」の確保に用いる技術はこれら2つの技術に比べ、まだ研究途上の段階だ。

例えば「CO2」の排出削減では、CO2を海底の堆積物内に送り込み、海底下の微生物であるメタン生成菌の作用によって短時間でメタンガスに変換させる。これは地球上の炭素循環システムと同じ仕組みを人為的に働かせるもの。「実用化できれば、地球上では5万年掛かるメタンガスへの変換が、わずか5時間で済むようになる」と竹内氏。海洋研究開発機構の研究テーマの一つという。

未来都市としてのこだわりは、純粋に産業用のインフラと位置付けられる深海プラントとらせん状のインフラ施設に、人が活動する球体のベースキャンプを組み合わせた点にある。ベースキャンプの球体は、高強度の樹脂コンクリート製のフレームと、透明アクリル板に半透明のFRP(繊維強化プラスチック)製の補強材を組み合わせた外壁で構成。中心部を上下に貫くように、ホテル、商業施設、オフィス、研究施設、共同住宅など、複合用途の構造物75層を築く。想定人口は居住者4000人に来訪者1000人を加えた計5000人。この直径500mの球体とは別に、より実現性の高い規模のベースキャンプとして直径200mの球体も視野に入れる。

人が暮らし、仕事をする空間としての快適性の確保にも努める。ベースキャンプ周りの海水温度は安定して26~30℃を想定。海面上に顔を出す部分から外気を取り入れ、海水に比べ温度が低いことから生じる下降気流に任せ、それを球体の壁面に沿わせて底にまで向かわせる。その気流を、海洋温度差発電で生じる電力を用いて暖め、中心部の構造物内で上昇気流に転じさせ、海面上に顔を出す部分から排出する、という換気システムだ。外壁用のアクリル板は厚さ3mを確保することから、断熱効果も期待できるという。

竹内氏は「人が暮らし、仕事をするという、都市の器を同時に提供することで、深海という立地を生かしたライフスタイルやビジネスモデルが生まれる」と期待する。それらの例としては、「深海観光ツアー」「深海体験型教育」「高酸素濃度の深海健康法」「深海資源産業」「深海エネルギー産業」「深海観光産業」などを挙げる(写真5)。

(写真5)球体のベースキャンプ内を巡る深海プロムナード。外壁のアクリル板越しに深海を目の当たりにできる。深海を感じ、楽しみ、学び、語り合う場である(画像提供:清水建設)

新しいビジネスの創出を意図した未来都市構想――。それは、深海未来都市構想にも当てはまる。スペースとしてのフロンティアを拡張しようとする未来都市ではないが、新しいビジネスフロンティアを切り開こうとする未来都市には違いない。空間そのものに価値が認められる時代は過ぎ去り、そこでどのようなサービスコンテンツを提供するかが問われる時代。未来都市の系譜にも、その潮流がしっかり見て取れる。

わたしの「未来都市」
まちOSのバージョンアップを
電通国際情報サービス2020テクノロジー&ビジネス開発室オープンイノベーションラボ部長森田 浩史 氏
技術の押し付けに対する拒否反応を意識してか、未来都市を構想する側は技術先行を否定する。しかし一方で、先端の技術が人間の暮らしや都市をどのように変えていくのかに思いを巡らせるのは、ワクワク感がある。技術と都市とビジネスという3つの視点を併せ持つ電通国際情報サービスの森田浩史氏にこれからの「未来都市」のあり方を聞いた。
これまでのまちは最初にOSをインストールすると、ずっとそのまま。スマホで新しいバージョンをアップロードするといった世界観はありません。いまだにWindows3.1のような古いOSで動かしているまちもあるわけです。しかし今後は、まちに必要なものを必要なタイミングでダウンロードし、サービスをどんどん変えていく、そういう仕組みが当たり前になっていくと考えています。
私たちが開発に携わった「グランフロント大阪」は、まさにそうです。OSをバージョンアップするかのように、そこで提供されるサービスを進化させています。まち開きの3年ほど前から、来街者にどのような情報を提供すべきか、そのためにどういうインフラを整備すべきかを検討してきた成果の一つです。
具体的には、まちが提供すべき情報に関する最上位の概念として、「気付き」と「発見」の演出という観点に着目しました。いまや買い物はネットショッピングで十分です。遠隔会議システムを利用すれば、移動する必要すらない。そういう時代にまちの価値として残るものは何か――。それが「気付き」と「発見」です。
これを演出するには、いろいろな人に出会い、刺激を受け、自らを鼓舞できるような場が必要です。ただ場づくりするだけでは、インタラクション(相互作用)は起きません。テクノロジーで偶然の出会いを演出し、「モノ」ではなく、「コト」を消費してもらう必要があります。
「グランフロント大阪」ではまちとの間で新たな交流を生み出す情報インフラ「コンパスサービス」から得られる来街者の行動情報を分析し、潜在欲求に応える情報をフィードバックしています。来街者に情報提供する際、人工知能(AI)の分析結果も活用していますが、これは過去のデータに基づく一定のルールにのっとったリコメンデーションにしかなりません。そこで、「グランフロント大阪」では属性情報などを基にAIで分析した結果からはあえて外した情報提供も実施しています。
例えば会社員に対して、AIの分析結果からは導出されないサジェスチョン「オモチャを買いませんか」という案内を流します。大部分の人にとっては役に立たない情報かもしれませんが、「このまちって、いろんなことをやっているんだ」「面白いことをやっているんだ」という受け止め方も出てきます。中には、「そうだ、めいっこに何か買って行こう」という反応も出てくるでしょう。あえて外しにいくことでセレンディピティ(偶然の出会い)を演出するわけです。
まち開きから3年。「グランフロント大阪」の来街者数は1億5000万人を超えました。同じ時期にオープンした商業施設が苦戦を強いられる中、集客は順調です。
これからのまちは「自己実現のための場」としての機能が求められてくるでしょう。自らの「気付き」と「発見」を周囲の人に伝えることでまちを自分事化し、次第にそのまちにいると自己実現を図れるようになってくる。まちからすると、それはまちへのコミットメントが深まることにほかなりません。そのきっかけを、場づくりとテクノロジーの発想でどこまで提供できるかが、未来の街を考える上で重要なポイントになってきます。
人間は都市に何を求めるか。人間の欲求から発想し、それを実現するテクノロジーを考える。プロダクト開発ではすでに常識となっていることがまちづくりにも適用されます。まちのOSをバージョンアップするたびにサービスもどんどん進化していく、そういうまちがもっと生まれてくるでしょう。(談)