リアルとデジタルで新しい体験をつなぐ

2016年11月半ば、東京・汐留の日テレホールCにて、スポーツの未来を体験する展示が披露された。中でも大きな人気を博していたのが「VR Dream Match-Baseball」と名付けられたVR野球体験。ヘッドマウントディスプレイを装着して楽しむものだが、眼前が仮想空間で満たされた状態でプレー用の小型バットを持ち、実際にバットを振りながらVR上で球を打つという「仮想と現実をまたぐ」仕掛けが施されている(写真3)。

(写真3)VR野球体験を楽しむ参加者(NTV SPORTS LABの展示より)

ユニークなのは、実存するプロ野球選手のデータに基づいた球速・軌道を提供している点。国内最速165キロメートルをキャッチングしたり、バットが変化するなど、単なるVRゲームを超えたアクティビティとして成立させている。

コンテンツを開発したのはバスキュール。同社は先進的なWebコンテンツ制作で名を馳せてきたが、近年はこうした、リアルなデータとデジタルの融合が生み出す「体験型コンテンツ」の制作にも注力している。

※ VR DREAM MATCH - Baseballは、バスキュールとAOI Pro.の共同開発コンテンツです。投球データ監修:データスタジアム(株)

同社取締役・クリエイティブディレクターの原ノブオ氏は、「リアルデータとデジタルのかけあわせで新しい体験を生み出そうというのが会社の大きな目標」と話す(写真4)。原氏は昨年、パナソニックが運営する人気サッカー選手・ネイマールJr.をテーマとしたインタラクティブなWebサイト「NEYMAR JR. CRAZY SKILLS」を手がけて話題を呼んだ。そこではサッカーブラジル代表のネイマールJr.がこれまでに魅せた超絶テクニックをリアルなデータに基づいて3Dデータで再現するだけでなく、スマホの3軸センサーと連動して動きのアングルを変えられるWebGLの描画性能を生かしたインタラクティブ性も盛り込み、スクリーンの向こう側にいるユーザーがのめり込む体験を提供する。

(写真4)バスキュールの原氏。バスキュール社内にて撮影

スクリーンを介しながらも、スクリーンから飛び出すような体験が次世代エンターテインメントの鍵を握る。原氏はこの面白さに気づき、自らが中心となってタッチパネルを用いた電子チェスを試作した(写真5)。

「盤面はタッチパネル。しかし、実物の通電性の駒を利用する。駒があることでユーザーの体験性が変わるからだ。チェスなど王道のゲームをデジタル化してスクリーンに閉じ込めることは簡単だが、そこに閉じ込めてしまうのをもったいなく感じた。スクリーンを使っているのに、実体験はスクリーンの外にあるようなコンテンツを提供したかった」

なぜチェスだったのか。それは「新しい体験だからといって見たことも、聞いたことも、想像したこともないものを生み出そうとするのではなく、我々がアップデートしてアレンジすることで、全く新しい体験になる」(原氏)との考えが根底にあるからだ。

(写真5)試作した電子チェス。駒が光る仕組み

例えばそれは何百年も続くご当地の祭りでもいいし、普通に生活に根付いているじゃんけんのような動作でもいい。「既にみんなが知っているものをバージョンアップさせることで、さらにみんなを喜ばせたい思いはある」(原氏)。

VR野球におけるデータ利用も、昨今流行のデータ解析に軸足を置いたものではなく、データを使って、エンタメやコンテンツを作ることが第一の目的だ。「例えば既存のエンターテインメントに実データが入ってくることで、むちゃくちゃ面白くなる可能性もあるのではないか。さまざまなデータが取得できるようになり、眠っているデータや、みんなが何かを行ったデータを蓄積して、それをエンターテインメントに変換することもできる。さらにはデータを蓄積するために参加する行為もエンターテインメントとして楽しんでもらうことができる」(原氏)。こうしたクリエイターたちの発想や努力が、次の時代のエンターテインメントを生み出していく。