消費者ニーズの多様化や技術革新の加速によって、商品のライフサイクルは年々短くなる一方である。これに伴い、ものづくりの現場も大量生産から多品種少量生産、さらにはマスカスタマイゼーションと呼ばれる個別大量生産が求められるようになっている。こうした変化に対応するために、製造業ではスマート工場への取り組みが進む。今回は、工場の中で何が、どのように変わっていくのかを見ていく。

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未来の工場のイメージの一つは、前編で紹介したような、社会にモジュールとしての工場が広がった「つながる工場」だけではない。個々の工場の内部でIoT(Internet of Things)など先進技術の適用が進み、より効率的で変化に柔軟な、“スマート工場”へと進化していく。当然、自動化や無人化も一段と浸透していく。例えば日清食品は、滋賀県にカップ麺・袋麺工場を建設する。同社は2019年12月の稼働を目指すこの工場で、IoTをフル活用してリアルタイムな工場の見える化を進める。これにより、人とシステムと設備の最適に融合し、最大のコスト効率を図るという。

日清食品に限らず、先進的な工場では、IoTを活用した見える化は広がり始めている。例えば製造装置などさまざまな場所にセンサーを取り付けて実現する稼働監視。センサーからのデータはリアルタイムにクラウドに吸い上げられ、マシントラブル時のアラート発信や故障予測などに使われる。前編で紹介した「つながる工場」を目指す業界団体のIndustrial Value Chain Initiative(IVI)にも、「予知保全」ワーキンググループがある。製造装置に音響センサーを装着し、音の変化から装置の異常や不良品を見つけ出す。故障を未然に防ぐ、あるいは故障時に素早く対処することができ、生産性を高めやすい。最終消費者による購買の機会損失も避けられるはずだ。

スマート工場の特徴は稼働監視や故障予測のほかにもある。例えば1台の機器での複数品種の製造。多品種生産に対応するには欠かせない仕組みである。さらに、最小限の設備での多品種生産を実現するには、複数の機械を組み合わせを変えながら連携稼働させる必要がある。そのためには、製造装置の種類・メーカーの壁を越えた、製造装置の相互運用性が求められる。

実はこれも、解決策は形をとりつつある。ファナックはシスコシステムズ、ロックウェル、Preferred Networksなどと協業し、ロボットや工作機械、FA(ファクトリーオートメーション)機器、センサーなどをネットワークでつなげるプラットフォーム「フィールドシステム(FANUC Intelligent Edge Link and Drive System)」の構築を進めている。複数機器の協調制御や予防保全を実現し、多品種少量生産に対応しやすい環境を整えようというわけだ。そこで、構築するプラットフォームにさまざまな製造装置メーカーが相乗りできるよう、インタフェースを公開する。2016年11月に開催された工作機械の国際見本市JIMTOFでは、アマダや牧野フライス製作所など国内メーカー80社の機械をネットワークにつなげるデモを行った(写真1)。

(写真1)JIMTOF2016でファナックが行ったフィールドシステムのデモ
ファナック以外にも、オークマ(写真下)など会場内にある80社250台の設備をつなぎ稼働状況(写真上)を表示させた。

ディスプレイ技術との組み合わせで“見える化”がさらに高度に

工場内の見える化の仕組みは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を併用することで、さらに進化する。センサーで収集したデータを、バーチャルの世界に融合する。これは「デジタルツイン」と呼ばれる手法で、未来の工場を実現するためのコア技術として注目されている(写真2)。例えば工場内で動いている機械の動作状況を、遠隔のコンピュータ画面からリアルタイムに確認できる。

(写真2)シーメンスのソフトウエアによるデジタルツイン
ロボットの動きが、バーチャルモデルによってリアルタイムに再現される。

デジタルツインは、単に機械の物理的な動作を確認するシミュレーションとは異なる。従来のシミュレーションは、コンピュータ上に作成されたバーチャルモデルに対して、作業負荷や室温、電力変化などといった外部要因のみをパラメータとして動かしていた。この場合、一度作成されたバーチャルモデル自体は変化することはない。

これに対してデジタルツインでは、実際に動いている機械に取り付けた各種センサーからリアルタイムにデータを収集し、バーチャルモデルの内部にあるモーターやギヤ、軸などに反映させる。継続使用によって部品が摩耗したり、温度上昇によって膨張したりするといった物理現象も取り込み、動的にシミュレーションに反映できるわけだ。外部要因だけでなく、バーチャルモデル自体の物理的な変化もリアルタイムに反映させることで、現実世界で起きている現象を忠実に再現できる。

デジタルツインを導入することで、機械にトラブルが起きた際の内部要因を詳しく知ることができ、部品の劣化や摩耗による故障が発生する前にメンテナンスを行うという、高精度の故障予見が可能になる。また、より現実に近いシミュレーションを行うことが可能になるので、製品設計や製造ライン変更などさまざまな用途での利用に期待されている。ゼネラル・エレクトリック(GE)では、ジェットエンジンのオーバーホールの適切時期を調べたり風力発電の効率化を図るなどといった取り組みも、デジタルツインによって行われている。