フランスの国民食が日本の食卓を明るくする

餃子、コロッケ、ミニカツ……日本人が想像する冷食は、そのほんとんどが惣菜のたぐいだ。しかし、先ごろ日本に本格上陸したフランスの冷食専門店「Picard(ピカール)」は、惣菜はもちろんのことメインディッシュや凝った調理素材を数多く取りそろえる。

日本の窓口は流通大手、イオンが新たに設立した「イオンサヴール」が手がける。同社社長の小野倫子氏は「ピカールはアソートメント(商品の取りそろえ)が素晴らしい。食のシーンをきちんと考えており、食卓に必要なものがすべてそろう。冷凍食品だけで、上質な食事を完結させられる」とピカールの魅力を語る。約2年にわたるイオン郊外店でのテスト販売を経て、2016年12月に青山骨董通り店、麻布十番店を立て続けにオープン。2017年に入ってすぐ、3店舗目となる中目黒店も始動した(写真3)。

(写真3)ピカール中目黒店の店内。カテゴリーごとに食品が冷凍庫内に並べられている

冷凍庫の中に商品が並べられただけの店内はあまりに機能的に見えるが、物珍しさも手伝って青山骨董通り店などは関東近郊から足を運ぶ客も多くいる。人気商品の一つ、冷凍クロワッサンやエクレアをはじめ、全商品が想定以上の売れ行きを示していると小野氏は話す。生地の状態で購入したパンを自宅で焼いたり、自宅でデザートを解凍して食べる習慣は日本では馴染みがないが、「多彩なジャンルの食品がそろっているので、客は店内を見ながら発見しているようだ」(小野氏)。クロワッサンはオーブンで約25分焼いて完成。ベーカリーで購入したものと何ら変わりないクオリティの味が楽しめる(写真4)。

(写真4)オーブンで25分焼き上げた「解凍クロワッサン」。味は通常のクロワッサンと変わらない

地元フランスでは「国民食」とまで呼ばれるほど普及しているピカールの冷食。「日本の冷食がお弁当の惣菜由来で時短かつ便利な点に主眼を置いているのに対し、ピカールの商品はスーパーマーケットの食材が凍っているようなもの。その捉え方が大きな違い」と小野氏(写真5)。

(写真5)売れ筋の冷凍クロワッサンをアピールする小野社長

さらに、「ピカールを通じて、フランスに行かなくても手軽にフランスの家庭料理の体験を提供できればうれしい。イタリアンが普及しつつあるように、日本の食卓にも入る可能性はある。潜在的なニーズやバリエーションを引き出してあげたい」と続ける。

遠くフランスから極東まで運ぶためには、徹底した低温流通技術(コールドチェーン)と品質管理が求められる。運搬時間を細かく管理し、拠点ごとの温度を厳しく定め、「倉庫に入った時点から店舗に引き渡すところまで、徹底したコールドチェーンの体制を敷いている」(小野氏)という。フランス本社から派遣された指導員は、日本の従業員に対し「冷凍は菌を殺しているのではない。眠らせているだけだ」との科学的な教育も行った。

食卓が華やぐ以外に、廃棄による食品ロスの削減効果もある。高齢者の中には“もったいない”という感覚からピカールの食品を求める向きもあるそうだ。「利便性だけを追求するのではなく、エコな側面もアピールしたい。ピカールが市場に加わることで新たな冷食市場も大きくなる。そうなれば面白い」(小野氏)。ピカールが日本の冷食文化をどのように塗り替えていくのか、今後の動向にも注目である。

“食の楽しさ”を冷食で復活させたい

旬のこだわり素材をあえて一度凍らせ、上級なレストランで饗するのが「TOKYO BREJEW HOUSE(トーキョーブレジュハウス、以下ブレジュハウス)」。東京・二子玉川駅前のショッピングセンター「玉川高島屋S・C」に店を構え、周辺のミドル~アッパー層をターゲットとしている。

入口に冷凍庫が鎮座しているが、それ以外に取り立てて冷食をアピールするものはない(写真6)。「普通のレストランだと思って来店するお客様もいて、会計の際に“この冷凍食品は何ですか?”と質問して、ようやくここが冷食レストランだと理解する。それくらいお客様の舌にとっては、通常の食事と差異はない」(ブレジュハウスのマネージャー、内藤領氏)。

(写真6)トーキョーブレジュハウス入口に並ぶ持ち帰り用の冷食

メニューには島根県の奥出雲和牛、岩手県の佐助豚、ふかひれの姿煮など、冷食の常識を打ち破るような高級食材・食品がそろう。レシピは和、中、そしてフレンチがメイン。フレンチは「マキシム・ド・パリ」料理長を務めたダニエル・マルタン氏が一部を監修する。しかもスタッフと一緒に協力工場に足を運び、作り方を指導するという徹底ぶりだ。内藤氏は同社のアプローチを「良質な素材の美味しさを封じ込めるための冷凍」と語る(写真7)。

(写真7)冷食の新たなアプローチについて語る内藤氏

主な協力工場は国内にあるため、コールドチェーンに関してはさほど神経質ではない。また、冷凍技術にこだわっているわけではなく、それぞれの工場の特性を生かした製造手法を尊重している。「肉が得意なところもあれば、魚の産地に近いところもある。それぞれの得意分野を生かし、最終的にお客様にとってベストな味が提供できればよい」(内藤氏)。

実は同社にとってレストランは副産物で、もともとは高級冷食を多店舗展開して世に広めていこうというコンセプトを持っていた。ブレジュハウスはその啓蒙の場であり、その先には「冷食の負のイメージを払拭したい」との思いがある

「忙しいことなどを理由に、 “とりあえず食べられればいい”と、日常の食事をまるで作業のように考えてしまう人は少なくない。弊社の商品はレンジでチンというよりも少し手間をかけなくてはならないものもあるが、添加物や保存料を使用していない。安心、安全なもの、そしておいしいものを、いつもより手軽に味わえる機会となる、冷食を一つのメジャーな調理方法の選択肢に育てたい」。内藤氏はこう話す。

“食事は楽しいもの”との思いを復活させることも目標だ。