この課題をクリアするのがディープラーニングである。猫の例で言えば、AIに多数の猫の写真を分析させると、自身で学習を重ね、猫の特徴点を抽出する。人間が無意識に行っている学習法によく似たアプローチである。

人間の子供は、物心がついてから絵本の中や身の回りにいる猫を目にするたびに、大人からそれは猫であると教わる。ところが、その時に猫の顔や体形についての特徴を教えてもらうわけではない。しかし、いつのまにか子供は自分から猫を指さして、猫と呼ぶようになる。すなわち人間は、実際に目で見たさまざまなものに関する特徴を自ら発見して学習する。

最近になってディープラーニングが注目され始めたのは、コンピュータ技術や半導体技術の向上によるところが大きい。従来よりも安価で、かつ高速に画像解析できるGPU(画像処理ユニット)、テラバイトという膨大なデータを1枚のディスクに保存して読み書きできるストレージユニットといったものだ。これにより、実用レベルでディープラーニングを実現できるようになった。

画像認識だけではないディープラーニングの活用

ディープラーニングによるAI技術が活用される分野は、画像認識だけではない。さまざまなデータを解析し、自ら特徴を見つけ出してグルーピングしたり、新たな推論や予測を導き出したりと、ディープラーニングの活用は分野を問わない。

例えば、2016年、AI技術を音声認識や自然言語処理に活用したチャットボットのサービスが続々と登場した。チャットボットとは、オンラインのチャットサービスを使って利用者が話しかけてきた言葉をコンピュータが解析して適切な返答を行うことで、まるで人間と会話しているように感じるサービスである。

2017年1月には、アプリ経由の注文サービス「モバイルオーダー&ペイ」を全米で展開しているスターバックスが、チャットボットを利用した注文アプリ「マイ・スターバックス・バリスタ」のベータ版を発表した(写真2)。スターバックスにはドリンクの種類、サイズ、エスプレッソのショット数、牛乳の種類、シロップの種類、ホイップクリームの有無、その他のオプションなど、カスタマイズできる組み合わせが無数にある。これによって、例えば「アイス・トール・ヘーゼルナッツ・2%・モカ(アイスのトールモカを低脂肪乳にしてヘーゼルナッツシロップを追加)」など、メニューが長くて複雑になりやすい。この点、マイ・スターバックス・バリスタでは、アプリから音声で伝えればAIがメニューを解析し、チャットの画面に内容を表示してくれる。店頭で直接店員に伝えると聞き直したりして時間がかかるが、事前にアプリで注文して商品を用意してもらえばスムーズに受け取ることができる。今年の夏には順次米国でサービスを展開していく予定だ。

(写真2)チャットボットを利用したスターバックスの注文アプリ
音声によるオーダーを解析し、近くにあるショップですぐに受け取れるように手配してくれる。
(スターバックスが公開したデモンストレーション動画より引用

また、「なにかおいしい料理を食べたい」「どこかへ旅行に行きたい」と思った時、少し前まではまずGoogleなどの検索サイトを使って、グルメ情報や旅行情報を掲載する専門サイトを探した。グルメに関する情報が必要ならば、そこで「渋谷」「イタリアン」などといった検索条件を選んでレストランを探す。

しかし、最近は「渋谷で雰囲気のいいイタリアンレストラン」など、最初から探して欲しい条件を羅列してGoogleから検索すれば、グルメ情報サイトなどから条件にあうお店の情報を直接探し出してくれる。キーボードを使って文字を入力しなくても、スマホのマイクに向かって音声でも希望を伝えることができる。Googleはそれまでにユーザーが検索したさまざまなサービスや商品などの情報も蓄積している。実際には、そういったユーザーの履歴もAIによって解析され、好みに合った検索結果が提供されていると思われる。

AIはディープラーニングの実用化によって短期間に飛躍的な進化を遂げ、今後は冷蔵庫や洗濯機、自動車など我々の生活にとって身近なものにも組み込まれようとしている。後編ではそれらに加えて、さらに自動翻訳やインフラの維持管理など、幅広い分野に取り入れられようとしているAIの姿を紹介する。

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