2020年以降のモビリティ環境は、クルマの自動運転や配車サービス以外の面でも様相が変わってくる。とりわけ都市部では、公共交通が充実していく。それも、道路、空中、水上と、様々な交通手段の選択肢がそろい、より一層移動しやすい環境が整っていく。

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都心など都市部では、渋滞緩和、定時性の確保、移動効率の向上などが課題になる。解決手段となるのは公共交通、それも既存のものとは異なる「新しい乗り物」だ。具体的には、東京臨海部に導入が予定されているBRT(Bus Rapid Transit)や水上タクシー、大深度地下を移動する水上交通、都市型ロープウエイ、乗り捨て可能なカーシェア、サイクルシェアといった手段である。

都市部で「新しい乗り物」が登場、“かゆいところ”に手が届く

現在、東京都区部を結ぶ鉄道路線は、JR12線、地下鉄13線、私鉄27線の計52線あり、その他にもゆりかもめや東京モノレールなどといった交通網がある。これだけ鉄道網が発達しているにも関わらず、いまだに鉄道利用が不便な地域がある。

例えば中央区の東に位置する勝どきや晴海といった地域。東京や新橋などの都心から6km圏にありながらも、直通する鉄道がないために15~20km圏に位置する地域と同等の距離感がある。タクシーなどを使う手もあるがが、費用はかかるし、都心部では渋滞が激しく到着時刻を読めない。「想定した時間どおりに移動できる選択肢があることが大切だ」(公共交通に詳しい横浜国立大学の中村文彦・副学長)。

一方で、この地域は都心に近接する住宅地、MICE(Meetings, Incentives, Conferences and Exhibitions)の開催地、さらには国際的な行楽地など、活発な経済活動を担っていく地域として期待されている。さらに、オリンピック閉幕後には選手村跡地の住宅利用が見込まれ、将来的には地域全体で常住人口、就業人口ともに10 万人以上の増加が見込まれている。「魅力を損なわないためにも、都心部への近さを確保できる公共交通の強化は避けられない」(東京都都市整備局都市基盤部の松本祐一・交通計画調整担当課長)。

鉄道よりも安価かつ短期間で構築できるBRT

こうした都心におけるモビリティの課題を解決するシステムの一つと考えられているのが、次世代型路面電車システムとも呼ばれるLRT(Light Rail Train)や、既存のバス車両を利用するBRTである。いずれも、現存する道路をインフラとして使うため、既に多様なインフラや建造物があって軌道敷設が困難な場所には導入しやすい。鉄道や地下鉄よりもコストも抑えられる。大規模な道路工事がほとんど発生しないBRTは特にそうだ(写真1)。

(写真1)BRTでの利用を考えている京成バスの連結バス。最大で129人の乗客を輸送することができる。

実際、東京都は臨海地域と都心部の移動の利便性を高めるべく、BRTを採用した。運行事業者として京成バスを選び、2019年の運行開始に向けて準備を進めている。計画では、2019年には新橋駅~勝どき、新橋駅~豊洲駅の2系統で運行を開始し、2020年のオリンピック終了後は虎ノ門~国際展示場を加えた3系統、その後の選手村再開発後には虎ノ門~選手村の4系統で運行する(図1)。

(図1)東京都が計画しているBRTの運行ルート(停留施設名や所要時間は予定)。

BRTは通常の道路を走行する点、車両にバスを使う点は、路線バスと大差ない。ただ、「到着時刻が読める」「多数の利用者が短時間で一斉に乗り降りできる」「車椅子やベビーカーでも乗降しやすい」といった特徴があり、利用者のイメージは鉄道に近い。東京都はこれに加えて、「車内転倒事故ゼロ」「初めての利用者でも使い方が直感的にわかる」仕組みを目指している。

実は、これらの仕組みを実現するために、随所に先端技術がつぎ込まれる。その一部は、国が進める「戦略的イノベーション想像プログラム(SIP)」のなかの一つである次世代都市交通システム「ART(Advanced Rapid Transit)」の技術である(図2)。

(図2)内閣府が発表した、次世代都市交通システムを実現する技術開発(ART)のイメージ 
図は内閣府の資料より引用。

例えば到着時刻を守れるよう、チケット購入の決済にはプリペイド型ICカードなどを採用する。バリアフリー実現のためには、停車時に操舵支援の仕組みを使い、プラットフォームに隙間なく車両を寄せられるようになる。走行時には、アクセルとブレーキを自動制御でアシストすることで、車内の揺れを新幹線並みに抑えて転倒事故を防ぐ。さらにバスロケーション管理システムや決済システムは、多言語対応により、海外からの旅行客でも簡単に利用できるようにする。

こうした工夫によって、輸送力については、2019年の運行開始時で600人/時程度、選手村再開発後は平日ピーク時で全線合計2000人/時、将来的には需要に応じて5000人/時程度を目指すという。また車両は、いずれはすべて燃料電池車にする予定である。

現時点での大きな課題は、いかに定時運行性を確保するか。計画ではバス車両は既存の道路を通行するため、道路状況が大きく影響する。そのため、優先信号制御で連続する信号をスムーズに通過させるPTPS(公共車両優先システム)などの適応検討を進める。さらに、「時間帯を決めて一般道に専用・優先レーンを設ける」などを警察庁に提案していく意向だ。