細菌を利用した新しい水処理も登場

その次世代技術の一つといえるのが膜分離活性汚泥法(MBR)である。汚れを細菌の沈殿で分離していた従来技術に対し、特殊なフィルター膜を用いて、より積極的に分離を行う。従来技術よりも省スペース性に優れ浄水効果もはるかに高いが、フィルター膜の洗浄や循環、曝気の電力を必要とするなど、エネルギーコスト面での課題は依然として大きい。

この問題を解決すべく開発されたのが省エネ型MBRである(写真1)。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の省水型環境調和型水循環プロジェクトによるもので、ユニット型ろ過膜の新開発やポンプなど付帯機器の高効率化により、従来型MBRに比べ43%もの省エネを実現しているという。既に実証試験を終え、米オハイオ州の下水処理場に導入されている。

(写真1)兵庫県福崎浄化センター内に設置された省エネMBRの実証試験装置
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(写真1)兵庫県福崎浄化センター内に設置された省エネMBRの実証試験装置
写真提供:NEDO 出典:NEDO FORUM発表資料「NEDOにおける水処理技術への取り組み」

活性汚泥法やMBR、省エネ型MBRも、水中の汚濁物を吸収する好気性細菌の吸収作用が主体である。これに対して、細菌の代謝メカニズムを利用して電力を取り出しつつ、汚濁物の処理を行う技術も研究が進んでいる。東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室の渡邉一哉教授が取り組んでいる微生物燃料電池の「発電型水処理技術」がそれだ。

酸素呼吸する生物は、呼吸で取り入れた酸素と食物の有機物により、生存に必要なエネルギーを得る。この過程の有機物分解で発生した余剰な電子が、酸素と結びついて水が生成される。ただ、微生物の中には無酸素の状態において、発生した電子を金属などの電極に渡す「電極呼吸」を行う種類がある(発電菌、写真2)。これを利用すれば排水中の有機汚濁物を処理しながらの発電が可能だ。

(写真2)発電菌の一種であるジオバクター菌
(写真2)発電菌の一種であるジオバクター菌
この他にシュワネラ菌など多種類の発電菌が、地球上のさまざまな環境に生息している。写真提供:東京薬科大学生命科学部 渡邉一哉教授

現時点での発電量は排水1立方mで数10W程度と他の燃料電池にはるかに及ばないが、5年先の実用化を目指して研究を進めている(図1、写真3)。「高価で特殊な電極を用いれば効率は向上する。だが水処理技術として考えれば、低コスト化と効率化が重要である。狙いは外部からの電力供給なしに処理を行えるシステムを開発すること。現時点で80%の省エネ、発生汚泥の70%低減が見えてきている」と渡邉教授はいう。

(図1)汚水中の電極近傍にいる発電菌が有機物を分解
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(図1)汚水中の電極近傍にいる発電菌が有機物を分解
このときに発生した電子が電極を経て回路に流れる(発電)。発生した水素イオンは液中を移動して陽極で水を生成する。出典:各種資料をもとに作成

(写真3)実験的に製作された容量約1Lの微生物燃料電池
(写真3)実験的に製作された容量約1Lの微生物燃料電池
排水処理を行いながら電力を発生させる。写真提供:東京薬科大学生命科学部 渡邉一哉教授

発電型水処理では活性汚泥法やMBRのような曝気が不要であるため、エネルギーコスト的にはたいへん有利になる。さらに付帯機器を駆動する電力を水処理過程での発電で得ることができれば、電力コストゼロの水処理が可能になる。

「発電菌はごく普遍的に生存している。その有効活用は持続可能エネルギー源の開発だけでなく、これまでにない視点での地球資源活用として重要だ」(東京薬科大・渡邉教授)。

複数の技術を組み合わせて高効率処理を実現

排水処理は、これらの有機汚濁物除去処理だけで完結させるのは困難だ。例えば工場排水に多い有用金属を回収する技術や、洗剤や殺虫剤成分として生活排水にも含まれる難分解性有機物を分解する技術なども求められる。また浄化した水を上水として利用するための高度処理や、海水を淡水化するためのろ過膜の技術なども欠かせない。MBRを含めこれら複数の処理技術を複合することが、高効率&省エネ&資源回収という将来の水循環システムを実現するスキームとなる(図2)。

(図2)有用金属などの分離回収や難分解物質分解などの要素技術と、活性汚泥法を高度化させた膜分離活性汚泥法などの要素技術を組み合わせ、工業廃水や住宅・商業地の下水を処理して河川などに戻す
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(図2)有用金属などの分離回収や難分解物質分解などの要素技術と、活性汚泥法を高度化させた膜分離活性汚泥法などの要素技術を組み合わせ、工業廃水や住宅・商業地の下水を処理して河川などに戻す
浄化した水をろ過膜技術による高度処理で再生水としたり、海水淡水化プラント(主にろ過膜技術)も併用して水資源を創出する。出典:NEDOの資料をもとに作成

だが、複数の技術を組み合わせた総合システムは、都市レベルに適合する大型の実用施設としては日本では実現しにくい。利用可能な淡水量に比較的余裕があることから、ニーズの高まりが十分でないためだ。一方、海外には排水処理と水資源生成の希求が高く、ビジネス的にも可能性の大きな地域が多数あり、NEDOなどによって実証プロジェクトが多数進行中だ。

後編ではこの実証プロジェクトの現状と、基盤技術の一つであるろ過膜水処理について紹介する。


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