ウエラブルならぬ“キャビタス”で違和感なくデータ収集

デジタル聴診器やデジタル体温計は、利用者が能動的に利用しなければデータは取れない。便器やにおいセンサーの場合は、家庭内などデバイスの設置場所なら常にデータを取れるが、それ以外の場所ではデータを取れなくなる。刻々と状態が変わるバイタル情報を把握するなら、デバイスを身に付けてリアルタイムに計測データを記録していくほうがいい。

この点、ウエアラブルデバイスなら、常にデータを取得できる。ウエアラブルデバイスというと、手首や腕、腰などに装備する活動量計や心拍センサーを思い浮かべるかもしれないが、もっと細かな情報を取得できるツールがある。代表例が米Vital Connectの「ヘルスパッチMD」。胸部に貼り付けて心電図や心拍数、呼吸状態、姿勢、体表面温度などの生体情報を収集し、ワイヤレスでデータを送信するウエアラブルセンサーである。心疾患を抱えている患者が発作時の心電図を家庭で長期間記録するために使われる。2015年には日本でも第三者認証を取得しており、医療用途にも利用できるようになった。さらに2016年2月には、使い捨て用の新製品「VitalPatch」も発表した(写真4)。

(写真4)VitalPatch 
医療機関やヘルスケアサービスのプロバイダーが購入する、BtoB製品として供給される。(Vital ConnectのWebサイトより引用)

先の便器と同様に、体外に放出される物質の成分を検出するデバイスもある。東京医科歯科大の三林教授は、代謝を測定できるデバイスの開発に取り組んでいる。特徴は生体から放出される物質を測定対象とすることと、それぞれのデバイスがウエアラブルならぬ、「キャビタスデバイス」であることだ。キャビタスとはウエアラブルと人体に埋め込むインプラントの中間で、体内(体腔)に装着するものの人が意図的に取り外せるものを意味する。

一例がコンタクトレンズ型の涙センサーである(写真5)。涙の成分から血糖値を測定する。2014年には米Googleも、涙の成分を常時解析して血糖値を計測する「スマートコンタクトレンズ」の開発を発表し話題となった。コンタクトレンズは、常に涙に触れている。人間の涙には血液中の10分の1の濃度の糖分が含まれているため、そこから血液中の糖分の量を間接的に知ることができるわけだ。コンタクトレンズにセンサーを取り付ければ、装着しているだけでグルコースが酵素に反応して発生する物質を電気化学的に測定できる。糖尿病の患者やその予備軍が定期的に病院に行って採血をすることなく、普段の生活の中で健康状態を確認できる。

(写真5)ソフトコンタクトレンズ型のグルコースセンサー 
(写真提供:生体材料工学研究所)

もう一つ、三林教授が取り組んでいるのが唾液の成分を測定するマウスピース型センサーである。唾液も血液の約100分の1のグルコースを含むため、涙と同じように血糖値を推定できる(写真6)。歯列矯正用のマウスピースと同様に個々人の歯型に合わせて作る。見た目は透明で、装着していても周囲には、ほとんどそれとは分からない。センサーは無線ユニットと一体化され、両奥歯の近くに取り付けられている。現在、共同開発を行う企業を探しており「5年以内に実用化したい」(三林氏)という。

(写真6)歯に被せて血糖値を監視するセンサー
個々人の歯の形に合わせたテーラーメイドの製品。

超音波を使って血圧計測

血糖値と同じように、毎日測定して記録しておくと様々な疾病の早期発見に役立つものに血圧がある。現在、家庭用に電池で使える小型の血圧計も多く普及しているが、一般に血圧の計測は腕や手首などにカフを巻き付けて圧迫する方法が用いられる。これらを使っても、家庭で手軽に計測することはできるが、日常生活の中で無意識のうちに繰り返し血圧を測定することは難しい。しかし、時間的、場所的制約がなく1日のうちに何度も血圧を計測してデータ集積を行うことで、高血圧からくる動脈硬化や脳卒中など命にかかわる大病を初期段階で予防できる。

より手軽に血圧を計測できるウエアラブルデバイスとして東北大学大学院 医工学研究科 医工学専攻の芳賀洋一教授が研究しているのが、超音波を使って計測するシート型の血圧測定デバイスだ(写真7)。手首に貼り、超音波を使って血管径の変化を計算して間接的に血圧を測定する。このデバイスを側頭部に貼れるようにすれば、血栓が血管の中を飛んでいくことも検出できるので、脳卒中の傾向なども発見できるようになる。「胸に貼れるようになれば、心臓の奥の場所をイメージングできるようになるかもしれない」(芳賀氏)。

(写真7)手首に貼って血圧を計測するシート状のセンサー

ここまで紹介してきたのは、主に家庭内に置くか、身に付けておいて健康状態のデータを集めるデバイスである。これらはあくまでも、データ取得用であり、相談や診療用に役立つもの。ただソーシャルホスピタルなら、遠隔で症状を抑えたり改善させたりする仕組みがあってもおかしくない。実は、そうしたウエアラブルデバイス、しかも患者に装着していることを意識させない低侵襲型のデバイスも研究されている。次回は、そういったデバイスと組み合わせて、ソーシャルホスピタルがこれからどのように発展し得るのかを考えてみる。

>>後編はこちら