工業用や生活用の水需要の増大により、世界が抱える水ストレスは未来に深刻化する。地球上の限られた水資源を有効に使っていくには、工業廃水や都市下水を処理して水を再生したり、海水から利用可能な淡水を生成する、つまり「造水」の技術が不可欠である。究極の姿は、家庭や地域内で水をつくり、消費し、再生する「水の地産地消」だ。

≫前編はこちら

水は一般に、消費あるいは使用する都市から遠く離れた場所で生産され、水道というネットワークインフラを通じて都市に供給される。この点は電力など他のユーティリティサービスも同様で、その供給網が生活や産業に欠かせないライフラインになっている点も同じである。形態はどうあれ、未来の社会においても、安全に使える資源を、安定的に消費者に届け続ける仕組みは欠かせない。

ただ、長大な水道網の建設や維持には、膨大な費用とエネルギーを要する。これをサステナブルな仕組みにする方法の一つが、高度な造水技術により効率的に水の再生や海水淡水化を行い、これを前提にして都市に循環型水管理システムを構築すること。消費地域に隣接した造水施設で水をつくり、再生して地産地消を実現すれば、コストがかかる水道インフラを使わずに、水問題を解決できる可能性がある。

地産地消の基礎となる“造水”、実証が世界で進展

世界で拡大する水関連設備投資の中でも、再生水製造と海水淡水化を併せた造水は成長ゾーンと呼ばれ、世界のあちらこちらでプロジェクトが進められている。

ポイントになっているのは、コストを抑えつつ安全な水を生み出す「ろ過膜」の技術だ。前編でも紹介したように、現在の水処理、特に排水処理で代表的な技術は活性汚泥法である。ただ、利用する好気性細菌のための酸素供給(曝気、ばっき)に大量の電力を消費する課題がある。これに対しろ過膜は、特殊な膜を用いて、文字通り水の汚れをろ過して取り除く技術。活性汚泥法に比べると曝気の電力消費がないうえ、管理工程が少なく、操業が容易であるなど多くの利点がある。

水処理に用いられるろ過膜は、数千分の1mm〜数万分の1mmという極微の細孔を持つ特殊な膜で、多くは酢酸セルロースや芳香族ポリアミドなどの有機高分子素材(一部にセラミックス製もある)。細孔の大きさにより、主に以下の4種類がある(図1)。

・精密ろ過膜(MF膜)…超純水製造や無菌化、大型ウイルス除去など
・限外ろ過膜(UF膜)…製紙パルプの排水処理や、排水からの油分の分離など
・ナノろ過膜(NF膜)…海水淡水化の前処理であるスケール成分(微細な混雑物)除去など
・逆浸透膜(RO膜)…海水淡水化など

[画像のクリックで拡大表示]
(図1)水処理とろ過膜の種類
ろ過膜には細孔の大きさから大きく4種類があり、それぞれ目的が異なる。NF膜やRO膜の細孔は顕微鏡でも観察できない大きさで、いわゆる分子フィルターに近い。図は各種資料に基づき作成

いずれも面積当たりのろ過量は大きくないので、膜を中空糸の形に成型したり、大面積の膜を巻いたユニットの形で用いられる。また、ろ過した物質による目詰まりを防ぐために表面に水流が発生する仕組みが合わせて用いられる。

RO膜や一部のNF膜では「逆浸透」という原理が用いられている(図2)。これには、水は通すが溶けている大きな分子は通さない性質を応用した「半透膜」を使う。純粋な水と不純物が混ざった水を隔てて置くと、濃度が均一になる方向に水分子だけが膜を通って不純物が混ざった“濃い”側に移動する。このときの水が移動する圧力が浸透圧だ。

(図2)逆浸透のしくみ
半透膜は溶液の濃度が薄い側から濃い側に水分子を透過する。これによる圧力が浸透圧で、それ以上の圧力を濃い側にかけることで、淡水を生成する逆浸透が起こる。図は各種資料に基づき作成

この状態で“濃い”側に浸透圧を超える圧力をかけると、水分子は濃い側から薄い(純水の)側に移動するので、水だけを取り出すことができる。これが逆浸透という現象で、汚濁物の混ざった原水から純水を取り出すことができる。現在も盛んに用いられてはいるが、今後の再生水製造と海水淡水化を支えるキー技術である。

こうしたろ過膜を利用して造水に取り組んでいるプロジェクトとしては、例えばサウジアラビア東部のダンマン第一工業団地で2010年から始まっている「省エネ型排水再生システム実証事業」(千代田化工が受託)がある。工業廃水と一般下水の合計5000m3/日から3500m3/日の再生水を生成し、これを工業用水として利用する。これにより従来比で30%のエネルギー削減効果が予想されるという。このプラントで使われている技術は、前編で紹介した膜分離活性汚泥法(MBR)と、ろ過膜の一つである逆浸透膜(RO膜)とを併用するシステムである。

サウジアラビアの「省エネ型海水淡水化システムの実規模での実証事業」(日立と東レが受託)では、2015年から実証前調査が進められている。ここでは、最大65%(日本海水基準)の高収率運転が可能な、世界初の低圧海水淡水化RO膜を用いた独自の低圧多段(2段)システム(LMS)を用いる。これにより、取水&前処理設備の設置面積を30%縮小した省エネ&省コストのプラントを構築する計画だ。

平均降水量が約450mmと世界平均の半分で、蒸発量も多く国全体が水ストレスにさらされている南アフリカのダーバン市では、「海水淡水化・水再利用統合システム実証事業」(日立が受託)のプロジェクトが動いている。これは、日本国内(省水型・環境調和型水循環プロジェクト「ウォータープラザ北九州」)で検証した技術を用いるプロジェクト。海水に下水処理水などを混合して処理することで、RO膜にかかる圧力を低減し、淡水化処理に必要なエネルギーコストを下げる技術が盛りこまれている。RO膜による淡水化で課題となる高塩濃度排水も低減する技術である。

カタールでは「高温排出水を用いた省エネルギー・低環境負荷型造水実証事業」(三菱重工と三菱商事が受託)プロジェクトがある。発電所コンビナートからの冷却水(海水)を原水として、1日1500m3を造水する。既存の放水インフラを使用するため、取水設備の建設費を大幅に抑えられる。これまでの上限(35℃程度)を超える高温排水海水(最高約45℃)でも安定して機能するRO膜を新たに開発した。