進化が続くろ過技術、究極は「動力なし」での処理

実際のところ、ろ過膜技術は既に工場排水や下水処理用のほか、浄水器などにも利用されている。特に後述する逆浸透の仕組みを利用したRO膜は、海水淡水化プラントとして世界中で実績がある(写真1)。前編で紹介した膜分離活性汚泥法(MBR)では、活性汚泥法にMF膜を組み合わせて用いられている。

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(写真1)RO膜による海水淡水化プラント
トリニダード・トバゴのポイントリサにある西半球最大の海水淡水化プラントでは、RO膜を使用した水処理が2002年から稼働している。写真提供:東レ

海水淡水化だけでなく、半導体製造などで求められる超純水製造や、排水処理の分野へも用途が拡大。環境省が実施した環境ビジネスの市場規模予測では、水処理をはじめとした環境用途のろ過膜の市場規模は2010年の約80億円から2020年に約130億円に達するとされる。

ただし、RO膜はいくつかの課題も抱えている。一つは製造コスト、そしてもう一つが、圧力をかけるためのエネルギーである。水を抽出した残りである高濃度排水の処理技術高度化も欠かせない。

現在、その対策の技術開発が急速に進んでいる。ダーバン市の海水淡水化・水再利用統合システム実証事業の事例で紹介したような、前段で再生水混入するなどの運用技術がその一つ。ほかに、膜表面を解析して微細構造制御による新しい膜成型技術を開発して生まれた世界初の低圧RO膜(写真2)や、高温耐性に優れるRO膜も登場している。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)環境部の石井紳一統括主幹によると、「低圧RO膜はほぼ実用段階にあり、5年後には商用化できる」。

(写真2)低圧海水淡水化RO膜表面の微細構造
電子顕微鏡サイズの微小な突起を膜表面に形成することで、有効面積を飛躍的に増大させる。他に細孔径や内部空孔率の制御により、塩分除去能や水透過率が最適化される。写真提供:NEDO環境部水循環グループ。出典:平成26年度NEDO環境部成果報告会 発表資料「省エネルギー型海水淡水化システムの開発と海外展開(サウジアラビア王国)」 原著論文:「高効率・大型分離膜エレメント・モジュール」辺見昌弘/他、『膜(MEMBRANE)』Vol.40,pp60-66(日本膜学会 2015)』

さらに現在、究極のろ過膜処理ともいえるFO膜(正浸透膜)の可能性も検討されている。これは外部圧力(すなわち動力)が必要なRO膜と異なり、原水と駆動溶液(DS:Draw Solution)と呼ばれる液体とを膜で隔てるだけで、自動的に水分子が分離される。DSを低エネルギーで駆動できる再生装置で処理することで、淡水を分離する仕組みだ(図3)。消費エネルギーはRO膜による処理の約4分の1以下であるため、光や低温廃熱などの未利用エネルギーを用いた電力で駆動できる。

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(図3)FO膜処理の仕組み
FO膜処理では圧力をかけずに水処理が可能。FO膜を隔てて原水とDSを循環させ、再生装置によりDSから淡水を分離する。出典:NEDO『エネルギー・環境新技術先導プログラム2017』P34

DS材料としてはいくつかの候補があるが、イオン液体を用いて60〜70℃程度の温度で水と分離する溶液での原理検証が進んでいる。また、ろ過膜も従来のRO膜は流用できないため、水だけを特異的に透過する生体細胞膜の特性を化学的に再現した生体模倣膜に期待が集まっている(図4)。

(図4)生体模倣膜
リン脂質2分子膜である細胞膜に類似した構造を化学的に再現し、特異的に水だけを透過する特性を創出する。出典:NEDO『エネルギー・環境新技術先導プログラム2017』P34

もちろん、まだ技術的な課題は多く残っている。例えばFO膜は、単独での稼働には20年以上が必要と見られ、当面はRO膜など他の技術と併用したシステムを開発していくことになりそうだ。

とはいえ、もたらすインパクトは大きい。これらの新技術が実用化されれば、外部からのエネルギー供給なしに自立した運用が可能な海水淡水化プラントを実現できる。動力不要で稼働できるので災害時などに給水する非常用システムとしても有用である。また、ろ過膜技術全般の高度化は、工業用純水製造の大幅な効率化や、透析など医療分野にも寄与する。