急いでいるのに渋滞にはまって動けない――。誰もが少なからず、こんなシーンを経験したことがあるはず。でも、渋滞発生を予測できれば、最初から車での移動をあきらめて電車に切り替えるなど、事前に備えることができる。そのための情報を街自体が自ら把握・予測し、住民に渋滞を回避する行動をとるよう促す。そんな“スマートシティ”が出来上がったら便利だろう。カギを握るのは、街の状態を細かくモニタリング/センシングし、過去の時系列データと併せて分析することで未来をシミュレーションする仕組み、いわば「街のデジタルツイン」である。

リストバンド型のウエアラブル端末を身に付け、普段の生活の中で活動量や睡眠時間をはじめ、血圧や心拍数までも記録してグラフなどにしておけば、健康状態を可視化できる。そのデータを見て、普段と違った変化が表れたら疾病の兆候が予測できるかもしれない。このような、健康状態の可視化と予測を都市に適応しようという取り組みが各国で進められている。

米シカゴ大学とアルゴンヌ国立研究所は2018年末までに、Array of Things(AoT)のノードをシカゴ市内の500カ所に設置するプロジェクトを進めている(写真1)。ノードにはさまざまな環境計測センサーが搭載され、温度や湿度、気圧、光、振動、一酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄、オゾン、周囲の音の強さ、歩行者および車両の交通量や表面温度などのデータを収集することによって、都市の健康状態を見える化する。AoTによって得られた都市の環境、インフラ、アクティビティに関する情報は、国内外の研究機関や大学、企業、行政、市民・起業家など一般に開放される。


(写真1)シカゴ市内に設置されるAoTのノード
(AoTのWebサイトより引用)

デンマークのコペンハーゲン市でも同様に、DOLL(Danish Outdoor Lighting Lab)といった取り組みが進められている。環境先進国であるデンマークでは、消費電力の削減のために積極的に街灯をLEDに置き換えている。DOLLではこれらの街灯にセンサーを内蔵させ、可視光による高速無線通信技術のLiFi(Light Fidelity)を活用した情報ネットワークを張り巡らせて、温度や大気、風、水などの環境データや交通データを収集している。

一方、米NVIDIAは、さまざまな都市に設置され、2020年には世界中で合計10億台を超えると言われているカメラの映像をAIによって解析し、公共安全、交通管理などを支援しようとしている。同社が進めているインテリジェントビデオ分析プラットフォーム「NVIDIA Metropolis」は、映像解析にディープラーニングを適用し、政府施設や公共交通機関、商業ビル、道路沿いなどに設置されたカメラで撮影された動画をリアルタイムにモニタリングする取り組みで、すでに50社以上のパートナー企業が参加している(図1)。

(図1)カメラの映像をディープラーニングでリアルタイムに解析するNVIDIA Metropolisのイメージ
(NVIDIA のWebサイトから引用)

このように、都市に起きていることをセンサーやカメラで取得し、それらの情報を組み合わせてAIで解析すれば、新しいサービスを実現できそうだ。例えば、気温センサーや湿度センサーから得たデータの変化を過去の例と比較し、このままだとある道路が夜間の気温低下によって朝までに路面凍結が起きそうだと予測されたとする。すると、その道路を使って車や自転車で通勤している利用者に対して、翌日は早起きをして備えるようにと就寝前にアドバイスできる。また、最近のカーナビにはリアルタイムに車の渋滞情報を収集して迂回路を教えてくれる機能が搭載されているが、センサーやカメラからの情報で渋滞の発生が予測できるようになれば、その道路の周辺にいる車のカーナビに個別に信号を送り、渋滞が起きないように効率的に車を誘導できる。

電車通勤をしている利用者に対しては、位置情報を取得して自宅への帰宅が深夜になりそうだと予測されると、自宅までの徒歩の道のりで人通りが多くて安全なルートを調べておき、駅に着いたら教えてくれる。そんな、パーソナルな予測のサービスが実現できそうだ。