海から遠い陸上でも魚を養殖

タンパク質として、日本人には特に馴染み深い海洋水産物も、変化しつつある。例えばサケやウナギ、マグロなど、漁獲量が年々減少しているものがあるからだ。日本人の需要にさえ十分に対応できない中で、海外での消費量が増加傾向にあるため、抜本的な対策が欠かせない。これはもう目の前に迫っている課題だ。

そこで期待がかかるのが養殖、それも海上などではなく、陸上での完全養殖である。植物工場ならぬ、水産物工場だ。従来の海洋での養殖は、天候や水質汚染の影響を受けやすいなど、課題が残る。そこで、漁業資源の減少や温暖化の影響を受けにくく、より安定的に水産物を供給できる方法として、「陸上養殖技術」の研究が進んでいる。陸上養殖とは、海や河川などの天然水域で行う水面養殖に対し、陸上の施設で養殖を行う養殖方法だ。

陸上養殖には海から海水を引き込んで飼育水として使用する「かけ流し式」と、ろ過システムによって飼育水を浄化しながら循環利用する「閉鎖循環式」がある。閉鎖循環式は海から離れた場所でも利用でき、これが広がれば世界中に広がっていけば山間部などどこででも新鮮な養殖魚を食べられるようになるかもしれない。

閉鎖循環式陸上養殖は天候に左右されず、飼育環境が維持・管理しやすいこと以外にも、水質汚染の影響を受けにくいことから魚の病気を予防しやすく、温泉や工場などの廃熱利用で季節を問わず魚が成長できるなどのメリットがある。一方で、実用化に向けては施設整備や維持管理に多額の費用がかかるなどの課題があり、研究が進んでいる。

魚類の中でもサケ類は海水温が高いアジアでは夏季の海面養殖が難しく、養殖は大半がノルウェーやチリなどの寒冷地で行われている。陸上養殖では水温コントロールにより、アジア地域でもサケの養殖が通年で行えるようになり、消費地近郊にプラントを作れば、鮮度のよい商品を安い輸送コストで流通させられるようになる。三井物産が出資するFRDジャパンは、木更津市にサケの飼育設備などを備えた研究施設を建設し、2018年夏からの稼働を目指している(図2)。

(図2)FPDジャパンが建設を進めている閉鎖循環式陸上養殖プラントの完成予想図(三井物産のホームページより引用)

味を錯覚させる食器が「おいしい」を演出

従来の農畜産物に頼らない人工的な食品は、やはり味気ないものになるかもしれない。食料不足のことを考えれば我慢しなければならないところだが、人間の欲求は贅沢なので、やはりおいしいものを食べたい。そこで開発が進められているのが、人間の味覚を錯覚させる技術だ。

人間が食べ物や飲み物の味を認識するのに必要なのは、舌にある味覚が感じる情報だけではない。それ以外にも外観や香り、食感など、さまざまな情報が統合されて一つの味として認識される。たとえば、目をつぶり鼻をふさいで食べ物を口に入れると、それが何かすぐには認識できない。

慶應義塾大学とシンガポール国立大学による共同プロジェクトKeio-NUS CUTE Centerは、水を飲んでいるのにカクテルを飲んでいるように感じる仮想カクテルシステム「Vocktail(Virtual Cocktail)」を発表した(写真5)。人間の味覚、嗅覚、視覚を錯覚させる。バーチャルカクテルの味はBluetoothで接続されたスマートフォンでコントロールできる。RGBの光が液体にカクテルのような色を付け、味は舌の先端を電気で刺激する。それらに、マイクロエアポンプによって放出される匂いの刺激が組み合わされ、脳の中で仮想的な味覚が形成される。

[画像のクリックで拡大表示]
(写真5)スマートフォンでさまざまな味が設定できる仮想カクテルシステム(VocktailのYoutubeより引用)

高血圧などの理由で塩分の摂取を控えている人にも、塩味が効いた料理を楽しんでもらうために開発された「電気味覚フォーク」も、舌を電気で刺激することで実際には無塩の料理に塩味を感じさせることができる(写真6)。フォークには、東京大学大学院の中村裕美氏が研究する「電気味覚」の技術が利用されている。柄を握ってスイッチを押した状態で、食べ物と一緒にフォークを口の中に入れると、フォークの柄に内蔵された電池から一定の電流がフォークに流れる。

(写真6)食品にバーチャルな塩味を加える電気味覚フォーク(NO SALT RESTAURANのホームページより引用)