糖尿病の薬が長寿薬に?

「不老長寿の薬」に関しては、ほかの取り組みもある。近年、抗老化作用があるとして注目されているものの一つが「メトホルミン」という糖尿病治療薬だ。1960年代から処方されている息の長い治療薬だが、英カーディフ大学の研究者が2014年に行った研究では、メトホルミンで治療した患者の生存率が非糖尿病患者のコホートに比べて改善したという。また、米国国立老化研究所(NIA)でもメトホルミンを投与したマウスの寿命が伸びる実験結果が報告された。

米国では、メトホルミンの長寿効果を調査する「TAME(Targeting Aging with Metformin)」を予定している。American Federation for Aging Research(AFAR)の支援を受けたこの調査は、65~80歳の3000人を対象に実施するもので、メトホルミンが老化の遅延に役立つかどうかを長期的に調べる。老化研究を専門にする米アルバート・アインシュタイン医科大学のニール・バルジライ(Nir Barzilai)教授は、この研究結果からポジティブな結果が生まれれば、将来的には老化予防薬の道筋が立つ可能性があると指摘する。

一方、食のアプローチから注目されているのがポリアミンである。ほとんどすべての生物に含まれるこの物質は、プトレッシン、スペルミジン、スペルミンといった物質の総称を指す。

ポリアミンは豆類、貝類、魚類などに含まれる。自治医科大学付属さいたま医療センターの早田邦康教授は、長寿の多い地中海沿岸と日本人が好む食物にポリアミンが数多く含まれることを指摘。ポリアミンが長寿に関係しているのではないかとの仮説を立て、マウスに高濃度のポリアミンを与え続けたところ、寿命を延ばすことに成功した。さらに高齢になっても活発で毛並みが良いなどの効果が見られた。

ポリアミンの中でも最近は、とりわけスペルミジンが注目を浴びている。精液(sperma)の材料であることに名前が由来する物質だが、長寿作用があることがテキサスA&M大学の研究により明らかになった。実験によれば、スペルミジンを投与したマウスの寿命が約25%も延伸したという。スペルミジンはヨーグルト、味噌、チーズなどの発酵食品に含まれており、とりわけ納豆の含有率が高い。

そしてスペルミジンは、「オートファジー」を活性化させる働きがある。2016年、東京工業大学の大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことも記憶に新しいオートファジーは、細胞の自食作用を指す。簡潔に言えば古くなった細胞をリサイクルし、細胞内のゴミを除去する働きのことで、これにより細胞の老化が遅延するとされる。細胞自体の寿命が延びることで老化を防ぐことになる。

(図2)JST ERATOに採択された水島教授のオートファジー研究
(JSTの発表資料より)

ノーベル賞に先立つこと1年前の2015年、かつて大隅栄誉教授に師事した東京大学大学院医学系研究科の水島 昇教授が、オートファジーの研究で「第 1 回日本抗加齢医学会学会賞」を受賞している。また平成29年度のJST ERATO(科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究)に採択された。このようにオートファジーは抗老化研究において鍵を握ると見られており、健康寿命延伸の面からも大きな注目が集まっている。