陸上養殖の普及のカギは循環水のろ過システム

閉鎖循環式の陸上養殖を実現するうえでのポイントは、水質をいかに保つかだ。水を循環させるだけだと魚の泄物に含まれるアンモニアが生け簀の中に溜まっていき、その毒性によって魚が死滅してしまう。このため、アンモニアなどの不純物を除去し、水をきれいに保つことが重要になる。

FRDジャパンの閉鎖循環式陸上養殖システムでは、工業用水処理プラントのエンジニアリングを行う大洋水研と、水処理に関する水分析や微生物管理を行う環境技術センターが共同開発した特許技術を活用(図2)。バクテリア(好気バクテリア)を付着させたバイオフィルムを使ってアンモニアを毒性が低い硝酸に変え(硝化)、次に別のバクテリア(嫌気バクテリア)を使った装置で硝酸を窒素ガスに変えて放出する(脱窒)。アンモニアや硝酸以外の有機物に関しても、海水を電気分解して発生した塩素ガスで分解するようにした。こうして、「蒸発などによる減水分以外は水を加えない、換水率1%の透明度の高い循環水を実現した」(十河氏)という。

(図2)FPDの閉鎖循環式陸上養殖システムのろ過方式
(提供:FPDジャパン)

一方、海面養殖の事業を積極的に推進しながら、陸上養殖の可能性にも注目しているマルハニチロは、アンモニアの分解をバクテリアに頼る生物学的処理だけでなく、電気的に分解する装置を使ったハイブリッドシステムで循環水のろ過を行っている(図3)。養殖水の管理に必要な各種水質データだけでなく、アンモニアの分解状況や装置の運転状況などのデータをクラウドで管理することで、遠隔での監視や分析なども可能にする。

マルハニチロが2017年9月に山形県で稼働させた陸上養殖設備(写真2)では、海からくみ上げた海水をろ過して循環させており、「今はまだ100%循環はできないが、将来的に換水率5%未満を目指している」(マルハニチロ 中央研究所 副部長兼課長 椎名康彦氏)。

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(図3)マルハニチロの陸上養殖で使用されているろ過装置「KITZ RECIRQUA」
KITZ RECIRQUAを製造するキッツはもともとバルブを中心とした流体制御機器・装置メーカーで、同社が培ってきた流体制御技術をろ過装置に活用している。(資料提供:キッツ)
(写真2)山形・遊佐町のマルハニチロの試験場

陸上養殖の主流はサーモン類

FRDジャパンもマルハニチロも、現時点で陸上養殖を積極的に進めている魚種はサーモン類である。サーモン類は世界的に人気があるからだ。日本でも、マルハニチロが8年前から行っている「回転寿司に関する消費者実態調査」で、ここ5年くらいはサーモンが寿司ネタの人気ナンバー1になっているという。

とはいえ、両社で作っているサーモン類は種類が異なる。FPDジャパンが手掛けているのは、回転ずしなどで使われることが多いサーモントラウト(ニジマスの養殖魚)。現在、埼玉のプラントで卵から孵化させたニジマスを育てているが、2018年7月からは木更津に建設中のパイロットプラント(面積640㎡)に途中まで育てたサーモントラウトを移送する。そこで3kgまで成長したサーモントラウトを年間30トンのペースで生産し、2019年4月から商品として出荷する。その後、年間1500トン生産できる商業プラント(面積4000㎡)を、2020年からパイロットプラントの隣に建設開始する予定(図4)。

2017年末には都内のスーパーでテスト販売を行い、味については一定の評価を得た。商品価値を上げるためには、「身が赤いこと、鮮度がいいこと、脂がのっていることは当たり前だが、サイズが大きなことも大切。これらをコントロールしながら、現在の輸入サーモンと同じ価格で売れる魚を作る」(十河氏)。将来は、日本での成功事例を海外に広げていく計画だ。

マルハニチロが進めていくのは、まずはサクラマスのブランド化だ。FRDジャパンのようにバクテリアだけの設備と比べて、ハイブリッドシステムは電気代などのコストがかかる。そこで、マルハニチロでは陸上養殖のコストを回収するために、日本固有の魚種であるサクラマスをブランド化して海外の市場に向けて輸出する。「サクラマスの陸上での養殖技術を確立させてから、サーモントラウトなどの陸上養殖についても検討する」(椎名氏)。

サーモン以外では、ウナギを陸上養殖でブランド化しているケースもある。倉敷市のタカハタは、バクテリアによるろ過システムによって、換水率5%以下の閉鎖循環式陸上養殖を実現(写真3)。水の透明度を保つために、MARS Japanが持つ飼育のノウハウが生かされている。「水道水と地下水による透明度の高い水と良質の餌を与えて育てれば、川魚特有のクセがない良質なウナギが安定して生産できる」(タカハタ 水産事業部 部長 松岡寿視氏)。

(写真3)倉敷市にあるウナギの閉鎖循環式陸上養殖設備では「倉敷うなぎ」をブランド化
(撮影:小山壮二)

海面養殖も宇宙技術とIoTで進化

実は従来型の海面養殖も、人工衛星による宇宙技術とIoTの活用によって進化しようとしている。JAXAで衛星開発のエンジニアだった藤原謙氏が立ち上げたウミトロンは、「水産養殖向け宇宙データサービス」の事業化を進めている。

ウミトロンは海面養殖事業者の悩みである「餌代の高騰」と「赤潮の発生」について、宇宙と海からアプローチする。宇宙からは人工衛星を使って海面温度やプラクトン分布を取得し、海からは生け簀内に設置した海中センサーから海洋環境や魚群行動のデータを直接取得する。これらのデータを組み合わせることによって、養殖魚に与える餌の量とタイミングを最適化するのだ。また、プランクトンが大量発生する赤潮の発生が発見された時には、餌やりの緊急停止を行う。

(図5)ウミトロンが提供する海中センサー(ウミガーデン)を活用した給餌システム

このシステムはスマホのアプリから遠隔操作できるので、別の作業をしながら餌の管理ができ、養殖業者にとっては労働効率が大幅に高まる。

水産養殖の進化はこれだけではない。後編では、陸上養殖によって農家で野菜と一緒に海水魚を生産するアクアポニックスへの取り組みについて紹介する。


後編につづく