魚の成長を早めれば漁業の生産性が上げる

好適環境水のメリットは、海の魚を育てられる環境を作れることだけではない。塩分が海水よりも低いため、魚が浸透圧を調整するために使うエネルギーを抑えることができる。それによって魚の成長が早くなり、しかも海中よりも大きく育つという。例えばバナメイエビの場合、通常なら出荷できる大きさにまで育てるのに4〜5カ月かかる。これが好適環境水では3カ月で済む。年間で4毛作という生産性の高い養殖が可能になわけだ。マグロも理論的には4毛作が可能だという(写真3)。

(写真3)好適環境水によって山で育ったマグロ
「現時点では21カ月かけて18kgの大きさに育っているが、いずれは300kgまで育ててマグロを家畜化したい」(山本氏)。撮影:小山 荘ニ

陸上養殖の中でも特に効率的に育てられるのはサーモン類だという(写真4)。「サーモン類は1kgまで成長させるのに必要な餌は1.05kgだけ。畜産の中では最も高効率とされる鶏でさえ、1kgの肉を得るのに餌が4kg必要になる。同じ魚類で比較すると、マグロは1kg得るのに15kgほど必要になる」(山本氏)。しかもサーモンは需要が大きい。日本国内では回転寿司で最もよく売れるタネの一つ。しかも、日本以外でも多くの国でサーモンを日常的に食べる習慣がある。

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(写真4)紅サケの水槽には体を大型化するために青い光を当てている
撮影:小山 荘ニ

養殖の生産性、利益率を高めるうえでのもう一つのポイントは、養殖する場所の選び方だ。魚にはそれぞれ育てるのに適した水温がある。「養殖する魚の種類に合わせて、適した気候や環境がある場所を選んだ方がよい」(山本氏)。例えばサーモンを育てるには、水温は20度以下に保つ必要がある。それなら北海道や信州など、涼しい場所を選んだほうがエネルギーコストが安く済む。エビの場合も、都市圏にある卸売り市場の地下でエビを生産すれば「水温を上げるためのエネルギーが、地上ほど必要にならない」(山本市)。加えて、需要が大きい地域にできるだけ近い場所で生産すれば、消費地への輸送コストがかからない分、小売り価格を下げられるメリットもある。

バイオテクノロジーが注目されるまで、日本では農業に関わる大学は定員割れ寸前だった。それが、バイオテクノロジーの実用化で農業に革命が起き、若い人も注目し始めた。農業革命の次は漁業革命だと山本氏は語る。「IoTの活用などによって餌の管理や水質モニターが自動化すれば、都心のビルの中でネクタイをしめたまま養殖に携われるかもしれない。そうすれば、若い人がもっと漁業に注目するようになるだろう」(山本氏)。

野菜と魚を一緒に育てるアクアポニックスは環境にもやさしい

閉鎖循環式陸上養殖では、生物ろ過や物理ろ過などによって水中の有害物を取り除く。また、水温を一定に保つために電気を使う。海面養殖よりも高効率な養殖が可能だが、それでもまだ大量のエネルギーを消費する。「こういったやり方は、未来の漁業の姿ではないと思う。魚によって汚された水を野菜に与える有機肥料として利用すれば、野菜も育つし水もきれいになる。太陽光発電を利用すればCO2も出さない」(山本氏)。これが、山本氏が考えるアクアポニックスだ。

通常、植物の栽培には窒素とリン酸、カリウムが肥料として必要になる。そこで、魚の排泄物に由来する飼育水中のリンと硝酸を、肥料として野菜に吸収させる。魚の有害物が取り除かれた水を、養殖に再利用する。既に、海水魚のクエの水槽と小松菜のプランターをつなげた実験によって、1kgのクエを育てると12〜13株の小松菜が収集できることがわかった。現在、クエの水槽につなげたプランターにトマトの苗を植えようとしている。

山本氏は、日本の農家でエビを作ることを推奨する。小規模な農家でも、1農家で100kg程度はエビを養殖できる。10農家が集まっている地域なら1トンのエビを生産できることになる。「土地代がほとんどかからない山奥の耕作放棄地などを活用してもいい。そうすれば、地方創生、限界集落の活性化につながっていくかもしれない」(山本氏)。

また、都心にある野菜工場はLEDを大量に使用するため、素子周辺や電源部などを電気を使って冷やさなけれなならない。その熱源を水槽内の水温を上げるために利用できれば、エネルギーを無駄なく活用できる。これによって、「野菜工場と魚工場が一緒になったプラントを都心に作ることも可能になるだろう」(山本氏)