レストランでも手ぶらで食事

キャッシュレス決済の究極は、Amazon Goのようにレジすら必要としない店舗の普及だろう。ただ、現時点のAmazon Goでは、入店時にスマートフォンで利用者を認証する。そこも、生体認証で人が意識しないうちにクレジットカード情報とひも付けられれば、街を歩いていてふらっと足を踏み入れた店でも、気に入った商品をそのまま持って帰るという、新しいショッピングスタイルが可能になる。店舗の形をとらなくても、例えば駅の構内で急いで乗り換える際、歩きながら通路に陳列されている商品をつかんで持っていくだけ、といった買い物も可能になるかもしれない。

日本よりもキャッシュレス社会への移行が急ピッチに進んでいる中国では、顔認証によって精算の手間をなくしたレストランが誕生している。浙江省杭州市でケンタッキーフライドチキンが運営するレストランKProである。事前にアリババグループが運営する決済サービスAlipayのIDと顔認証情報のひも付けが終わっていれば、オーダーも精算も簡単に済ませられる。入店時に入口にある大型のタッチパネルでメニューを選択して、空いている座席表から席を選択するだけ(写真3)。そのまま席で待っていればスタッフが料理が運んできてくれる。食べ終わったらそのまま帰ればよい。

(写真3)ケンタッキーフライドチキンが運営するレストランの顔認証決済(アリババグループのYouTube動画より引用)
(写真3)ケンタッキーフライドチキンが運営するレストランの顔認証決済(アリババグループのYouTube動画より引用)

現時点では、顔認証による支払いはタッチパネルで選択してカメラを見つめる必要がある。しかし、カメラの性能向上や人工知能(AI)の活用によって、いずれはメニューを選んでいる間に本人に意識されずに顔を認証することもできるようになるかもしれない。食事用の席の映像も捉えられるようになれば、誰がどこに座ったかも映像から認識できるようになる。そうなれば、利用客はよりスムーズに食事を楽しめる。

頭で考えただけで注文から決済まで終了

このように、生体認証はクレジットカードやスマートフォンも使わないキャッシュレス決済を実現する、必要不可欠な要素技術になる。そのため、より盗まれにくく偽造しにくい生体情報を使った認証方式の研究が進んでいる。

金沢工業大学が研究しているのが、脳波を使った生体認証だ(写真4)。人間の脳は、ある特定の画像を見るなど何らかの刺激を与えた際、毎回決まった波のパターンが現れる。この脳波のパターンが人によって異なるため、それをあらかじめ登録して認証時に比較すれば、決済に利用できる。脳波は身体の外部に露出されない内部情報であり、専用の機器を装着する必要があることから、盗まれる可能性は低い。

(写真4)金沢工業大学で実験中の脳波による生体認証(金沢工業大学のWebページより引用)
(写真4)金沢工業大学で実験中の脳波による生体認証(金沢工業大学のWebページより引用)

実は脳波には、他の生体情報には見られない大きな特徴がある。それは、与える刺激を変える(見る画像を変えるなど)ことで、認証のためのパターンを変えられるということだ。この特徴を生かせば、万が一ある脳波のパターンが盗まれても、認証用の刺激を変えることで別のパターンを使用できる。

この特徴を認証以外にも生かせば、あらかじめよく利用するレストランなどで料理の写真ごとに脳波のパターンを登録しておき、来店時は食べたい料理の写真を見るだけで注文と決済が終わっているという、新しいサービスも可能になるかもしれない。