ごみからエタノールを作り、古紙や廃木材から生分解性プラスチックを作る。再利用が難しいとされてきた廃棄物を資源へと再生するリサイクル技術が盛んになってきた。これらの手法が一般化すれば、有限な化石資源に依らないサステナブル(持続可能な)社会の道筋が見えてくる。やがては、資源を持たない国が未来を生き抜くための武器にもなるだろう。

欧州を中心としたバイオエコノミーの潮流が存在感を強めつつある。生物資源やバイオテクノロジーを活用して持続可能な成長を目指すもので、2018年には「第2回グローバルバイオエコノミーサミット」が独ベルリンで開催された。日本も「未来投資戦略2017」において、同様のビジョンとなる「バイオ・マテリアル革命」を打ち出している。

ごみからエタノール、鍵はガス化と微生物

こうした中、積水化学工業(以下、積水化学)では2017年12月にごみを丸ごとエタノールに変換する生産技術を世界で初めて開発。2019年度に実証プラントの建設開始を目指している。

本技術は、サステナブルな資源循環の考え方に基づく。高機能プラスチック製品の製造・販売を事業の柱とする同社は、プラスチック界のトップランナーでもある。ごみからエタノールを生み出し、その後に原料のエチレンに作り変えてプラスチックなどに再生する――このサイクルを実現することで、従来のペトロケミストリー(石油化学)を新しいバイオケミストリーに置き換えたいというのが大きな目標だ。

原料とするごみの種類は可燃ごみだ。国内で排出される可燃ごみ(一般廃棄物と産業廃棄物の合計)は年間約6000万トンとされ、カロリー換算で約200兆キロカロリー。これはプラスチックに使われる石油量の約1.3倍ほどのボリュームがある。この膨大な資源の再利用に着目し、2014年から3年間のパイロットプラントでの研究・開発を経て完成へとこぎつけた。

技術の内容を見ていこう。まずは収集した可燃ごみを丸ごとごみ処理施設で「ガス化」する。このステップでは意図的に酸素の量を少なくして、二酸化炭素ではなく一酸化炭素と水素に分解する。こうして生成したガスを微生物の餌として与えてエタノールを生産する。微生物は米国ランザテック社が開発したもので、原生微生物の10倍以上の反応速度でエタノールを生産できる進化型だ。

ごみからエタノールを生産する技術の概要(資料:積水化学)
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とはいえ相手はごみである。同社 コーポレート 経営戦略部で新事業推進プロジェクトの主席研究員を務める小間 聡氏は、「約400種類にも及ぶ夾雑物(きょうざつぶつ)を取り除くために、微生物に影響を与える物質の量をリアルタイムでモニタリングし、精製プロセスを効率化している」と語る。加えて、ごみ中の組成変動にあわせて微生物の動きを調整する培養コントロール技術を確立。「ごみ処理施設は予期せぬトラブルが多く、ガスが生成しない場合には微生物は死んでしまう。そこで人為的に仮死状態にすることができるようにした。これで安定的な生産量を確保することができるようになった」。

積水化学の小間氏(写真:小口正貴)
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埼玉県のパイロットプラントで行った開発では、事業化に向けた性能をすべて確認した。その結果、品質、生産効率、生産安定性のハードルをクリアし、従来ごみ焼却と比較してCO2を135%削減することに成功。今後は全国のごみ処理施設の更新タイミングをにらみながら、更新時にエタノール化施設を併設し、広く普及させていきたい構えだ。

「これまでのごみ焼却と比較してもCO2を削減でき、エタノール生産による新規産業創出もできるなど、自治体にとってもメリットが大きい。また、日本で技術とオペレーションを確立すれば、世界に輸出することも夢ではない。実際に欧州だけではなく、アジアやアフリカなどグローバル規模で問い合わせがある」(小間氏)

貴金属やレアメタルが含まれる携帯電話や家電製品の廃棄物を都市鉱山と呼ぶが、同社ではこの取り組みを都市油田と呼んでいる。そしてこの油田は、人間がごみを出す限り枯渇することはない。

「我々1社だけでは難しい部分も出てくる。オープンイノベーションの時代だけに、積極的に強みを持ち寄りながらパートナーを募っていきたい」と小間氏。1960年代、積水化学は水色のプラスチックゴミ容器「ポリペール」を東京都に普及させ、街に溢れるごみ問題を解決した。あれからおよそ半世紀を経て、今度はごみを味方につけて次世代へタスキをつなごうとしている。