高齢化社会におけるモビリティの課題は、ますます深刻化している。自動車の運転に適さなくなってきた高齢者が免許証を返上しても、代替の交通手段がなければ地域社会の中で孤立してしまう。そのような課題の解決に期待がかかる自動運転の実用化には、まだ時間がかかりそうだ。そこで、モビリティに関する課題解決の現実的な手段として、公共交通の充実が求められている。キーワードは、利用者が必要な時に呼べるオンデマンド輸送だ。九州大学では、AIを活用したオンデマンド学内バスの実運用を2019年4月から開始している。実運用後に見えてきたメリットと課題を追った。

福岡市内に分かれていた3つのキャンパスを1つにするために、2018年に統合移転を終えた九州大学の伊都キャンパスは、敷地面積が272ヘクタールという広大なキャンパスである(写真1)。キャンパス内には信号機が設置された4~10kmの道路があり、そこをバスや乗用車、2輪車、自転車、歩行者が通行する。道路には坂やカーブもあり、多様な交通環境が混在しながらも道路交通法が適用されないキャンパス内は、公道に近い条件で行うさまざまなモビリティの実証実験にぴったりの環境である。

(写真1)広大な敷地面積を誇る九州大学伊都キャンパス(福岡市西区、提供:九州大学広報室)

九州大学では、「スマートモビリティ推進コンソーシアム」をNTTドコモや日産自動車、ディー・エヌ・エー(DeNA)、福岡市などと設立し、2016年からモビリティサービスの実証実験を行ってきた(表1)。

(表1)スマートモビリティ推進コンソーシアムでの課題と取り組み企業
課題 取り組み企業
自動運転 日産(LEAF)、DeNA(ロボットシャトル)
AIによる交通管制 NTTドコモ(AIオンデマンド乗り合いバス)
路車間通信 日本信号(信号情報の4G配信)、NTTドコモ(歩車間協調)
オンデマンド運行 NTTドコモ、日産

キャンパス内での移動課題解決に向けコンソーシアムを設立

スマートモビリティ推進コンソーシアムの目標は、伊都キャンパス内で運行される新交通システムの実用化だ。伊都キャンパスは広大であるがゆえの課題として、昼間人口が約1万9000人となる学生や教職員のキャンパス内での移動手段の充実が求められていた。

もともと伊都キャンパスでは、定時定ルートで運行する学内循環バスが、路線バスと同じように15分間隔で走っていた。しかし、学内循環バスの乗降ポイントは幹線道路のみの16カ所であり、広大なキャンパスの隅々を網羅するのは難しい。利用者も移転当初は1日あたり500人くらいいたが、キャンパス内での移動ニーズに十分応えられなかったため、数カ月後には300人くらいに減ってきた。

スマートモビリティ推進コンソーシアムでは定時定ルートの運行ではなく、オンデマンドで利用者のニーズに応える新移動システムとして、AIによる配車や運行管制を行う「AI運行バス」の実証実験を行ってきた。オンデマンド型であれば、利用者の配車リクエストに従って運行するため、従来の乗合バスに比べてより多くの乗降ポイントを設置しながらも、効率的で利便性の高い運送が実現できる。

例えば、職員用保育園など1日の中で頻繁には利用されないが、朝夕など確実に1回以上利用がある場所にも乗降ポイントが設置できる。オンデマンドがもたらすこのような利点を活かし、新交通システムではキャンパス内36カ所に加え、キャンパス外にある産学連携交流センターも含め37カ所が、乗降ポイントとして設置できるようになった(図1)。

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(図1)伊都キャンパスで利用できるオンデマンド移動システムの利用ポイントは、敷地外も含めて37カ所に渡る(提供:九州大学広報室)

AI運行バスは、NTTドコモが開発したオンデマンド型交通システムだ。九州大学を始め、東京都副都心地区、横浜市、鹿児島県肝付町など全国10カ所で実証実験が行われている。それらの中でも、九州大学では最大規模かつ最長期間の実証実験が実施され、約1600人のテスターによって延べで4万人にのぼる輸送実績を上げた。こうした実証実験によって徐々に効率化や利便性を高めていき、伊都キャンパスにおけるオンデマンド型交通システムは2019年4月から実運用に移行した。

オンデマンドで運行する乗合バスで課題を解決

伊都キャンパスで実運用を開始したオンデマンド型交通システムには「aimo」という愛称が付けられ、車両にはワゴン車が使われている。利用者がスマートフォンのアプリやパソコンのWebアプリから配車を依頼すると、エリア全体の需給状況と車両位置を把握しているAIが効率の良いルートを考え、ワゴン車に搭載したタブレットに表示する。ドライバーは、車載アプリが指示したルートに従いながら乗降ポイントで利用者を乗せたり降ろしたりするだけで、エリア全体でもっとも効率の良い運行が実現する(写真2)。

(写真2)伊都キャンパスを走るオンデマンド交通システム。利用者はキャンパス内の乗降ポイント(上)で車両の到着を待ち、ドライバーは配車オーダーが反映されたタブレット画面(下)の指示に従って運行する。

学内循環バスでは16カ所だった運行ポイントを37カ所設置したにもかかわらず、「実運用から2カ月後となる6月までの乗車効率(全時間帯で全座席数の何%が埋まっていたのか)は、旧学内循環バスの4.1%に対してaimoは23%と5倍になった」(九州大学キャンパス計画室 助教 山王孝尚氏)という。なお、aimoのドライバーは派遣会社から派遣され、九州大学とは運行業務委託契約を結んでいる。

現在、aimoのアプリをインストールして利用できるアクティブユーザーの数は3000人弱で、1日あたりの利用者数は平均で約630人だ。定時定ルートで運行していた学内循環バスの1日あたりの利用者数は、平均で300~400人だったので、輸送人数は増えている。