えねこや――。「エネ小屋」つまり「エネルギーの小屋」。一般社団法人えねこや(東京都調布市)が考案した「自然エネルギーだけで心地よく過ごせる小さな建築」を指す。えねこやの普及を目指し、自らの事務所(アトリエ六曜舎)を電力会社の電線を引かないオフグリッド住宅にリノベーションするとともに、移動式えねこや(トレーラーハウス)を製作して普及活動を始めた建築家の湯浅剛代表理事に話を聞いた。

――「えねこや」を考案したきっかけを教えてください。

一般社団法人えねこや代表理事の湯浅剛(ゆあさ・つよし)氏。1965年大阪府生まれ 。京都工芸繊維大学工芸学部建築学科卒業後、一色建築設計事務所勤務を経て、英国グリニッジ大学ランドスケープ学科を卒業。1995年、妻・景子とアトリエ六曜舎を設立。2016年、仲間とえねこやを設立し、太陽光発電による完全独立電源(=オフグリッド)の小さな事務所を建設。2019年、ワークショップで移動式えねこやを製作し、再エネや省エネの普及活動を行なっている(写真:三上 美絵)
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湯浅 僕はもともと地産地消で国産材や自然素材を使った木造住宅の設計を手掛けていたものの、エネルギーのことはそれほど考えていませんでした。東日本大震災の福島第一原発事故のときに、初めていろいろなことに気が付いたんです。それで、電力会社に頼るだけではなく、自分たちでエネルギーを自給できる社会に近づけられないものかと活動を始めました。

仕事柄、送電系統とつながらない「オフグリッドシステム」をたまたま知り、まずは自分の事務所でやってみようと、「自エネ組」のシステムを入れることにしました。太陽光発電パネルと鉛蓄電池をつなぐアナログなシステムです。

自エネ組とは「自給エネルギーチーム」で、岡山市におられる建築家の大塚尚幹さんが中心になって全国にネットワークをつくり、個人でできるエネルギー自給のノウハウを広めています。このアトリエ六曜舎の事務所をオフグリッドに改築したときも、彼に来てもらって一緒にシステムを組みました。

空き家を高断熱・高気密化してオフグリッド住宅に

――六曜舎の事務所が、えねこやの第1号なのですね。

湯浅 そうです。自宅の隣家が空き家になったのを購入して改修しました。太陽光パネルを載せるために、切妻だった屋根をズバッと切って片流れ屋根に変更し、基礎と骨組みを残してスケルトンリフォームで減築(編集部注:既存建物の規模を小さくすること)しました。現在は、一部2階建てで広さは約46m2です。

元は築40年ぐらいの住宅で、基礎に鉄筋が入っていなかったし、断熱材も入っていなかったので、耐震補強と温熱改修は必須でした。まず、耐震性を向上させるために、筋交いや金物を入れ、基礎も補強しました。

温熱環境は、高気密・高断熱にして性能を上げています。基礎断熱方式(編集部注:住宅の外気に面している基礎部分で断熱する方法)にして、床下に外気を入れず、換気パイプを通して熱を空気で床下から2階まで循環させることで、冬でも足元が冷えないようにしています。屋根と壁には、気密性を確保した上で高性能な断熱材を設置し、窓にはトリプルガラスのサッシを採用しました。

――オフグリッド化に必要な設備はどのようなものだったのでしょうか。

湯浅 太陽光発電パネルと蓄電池、そしてこれらをつなぐ充電コントローラーと、直流を交流に変換するインバーターが最低限必要です。ここではその他、屋根に真空管タイプ・容量190lの太陽熱温水器を設置しています。僕は毎日、ここで風呂に入ったりシャワーを浴びたりしていて、給湯器がなくてもお湯はほぼ間に合っています。

水道だけは公共のインフラを引いています。ワークショップの参加者たちと井戸も掘ってみましたが、残念ながら水質が飲み水には適しませんでした。水道以外は、電気もガスも引いていません。冬の暖房には、ペレットストーブを使っています。

えねこや第1号として空き家をリノベーションしたアトリエ六曜舎の事務所。太陽光発電パネルと太陽熱温水器を載せるために、切妻屋根を切って片流れに変更した(写真:大槻 茂)
アトリエ六曜舎の内観。国産の木材を多用している(写真:大槻 茂)

――こちらの事務所で生活しているのですか?

湯浅 妻と娘と犬、猫は隣の自宅にいて、僕は朝8時ぐらいから夜の12時、1時まで、食事に帰る以外はほとんどここで仕事をして過ごします。日中は他に、スタッフ1人と黒猫が1匹。改修してから3年たちましたが、このメンバーで使うエネルギーは十分、賄えています。

そこの壁にモニターがあるでしょう。100という数字は、蓄電池の容量が今、100%蓄電されているということです。今、オンタイムで電力を使っているのは、スタッフのパソコンと冷蔵庫ぐらいなので、電力消費量が168Wと表示されていますね。蓄電が100%になると、太陽光発電パネルからの電気を直接使うようになっていて、それでも余ってしまうときは、充電コントローラーが自動的に発電量を減らす。今はその状態です。

太陽光発電の電力がバッテリーにどのくらい蓄電されているかを示すモニター。赤で表示された数字がパーセンテージで、この写真のときは98%。これが100%になると、発電した電力が直接電気製品に流れ、必要量のみを発電する(写真:大槻 茂)

――太陽光発電は曇りや雨の日は発電できないので、生活に使う電力をすべて賄うのは大変だろうと思っていましたが、余るとは意外です。

湯浅 曇りに強い太陽光発電パネルを採用しているので、本当に暗くない限り発電してくれるんです。パネルごとに特徴があって、発電効率を優先しているものもあれば、日陰に強いものもある。オフグリッドの場合、曇っていても発電できるパネルを使うのがポイントです。改修から3年たちましたが、電気が足りなくなりそうだったのは、年間に1日ずつぐらいです。

ただ、雨が続いたときなど、ピンチになることはあります。ここと同じシステムを採用している仲間がたくさんいますが、子どもがいる家族の住宅では、バックアップとして電力会社の系統につないでいるところも多いです。切り替え式にして、普段は太陽光を使い、年間に何日か、ピンチのときだけ電力会社の電気を買う。ここは事務所なので必要ないと思い、完全にオフグリッドにしましたけど、どちらでもいいと僕は思っています。

――ここにはエアコンも設置してありますね。

湯浅 夏はほとんどエアコンをかけっぱなしです。暑いときは太陽光がガンガン発電してくれるので、エアコンを思う存分使っても大丈夫なんです。温水洗浄便座もつけていますよ(笑)。

冬も、晴れていればエアコンで暖房をします。ただ冬は太陽の高度が下がるので、発電量も夏に比べると少なくなる。天気の悪いときは、エアコンを使うと他の電気が不足するかもしれないので、ペレットストーブを使っています。

ペレットストーブは、間伐材などを粉砕・乾燥させた「木質ペレット」を燃料とするストーブです。原料となる木材は、成長時にCO2を吸収しているので、燃やしても相殺されて「CO2排出ゼロ」とされる再生可能エネルギーです。ペレットは袋入りで販売されているので、運搬や保管が容易で、煙も出にくい。市街地の住宅に向いています。長野に住む知人が開発した無電力のペレットストーブを採用しました。

長野県のパイプ屋本舗製のペレットストーブ。熱を対流させるファンがないこと、ペレットを重力によって供給することから、電力を使わない。薪ストーブとしても使える(写真:大槻 茂)