海洋プラスチックごみの問題がクローズアップされるなか、日本発の新たなエコアイテムとして最近注目を集めているのが、食べられる器「e-tray(イートレイ)」である。「料理だけでなく器まで食べてしまえばゴミはなくせる」という大胆な発想を形にした商品で、愛知県碧南市に本拠を置く丸繁製菓が開発・販売を進めている。e-trayはどのようにして生まれたのか。今後の市場戦略は。丸繁製菓に聞いた。

食べられる食器・e-tray(写真提供:丸繁製菓)

着想はイベント会場で見たゴミの山

「食べられる器を作ろうと思い立ったのは、今から10年ほど前のことです。当時流行っていたB級グルメやご当地グルメのイベント会場に行った時、ゴミとして処分される使い捨て容器の多さにびっくりしたんですよ。食にまつわるイベントなのに、会場のあちこちにゴミが積み重ねられている。印象が良くないですし、スタッフに聞くと2日間開催のイベントなら片付けにも2日はかかるという話でした。そのとき、料理だけでなく器までおいしく食べられるようになれば、ゴミの量はゼロにできるんじゃないかと考えたのです」

丸繁製菓の専務取締役、榊原勝彦さんはこのように語る。榊原さんは食べられる食器である「e-tray(イートレイ)」の開発に取り組んでいる。

e-trayのパッケージ。こちらは8枚入りのパーティーパックで、定価は600円(税別)(写真撮影:中島 有里子)

同社を創業したのは榊原さんの父で、昭和58年(1983年)。アイスクリームを包んだり挟んだりする皮(アイスコーン)を主に製造していた。そのため、可食容器を作るのに必要な材料や金型作りなどに関するノウハウは、すでに持ち合わせていた。

「われわれが作るアイスモナカの皮は、あくまでアイスクリームの脇役にすぎません。正直なところ、食べられる器に取り組んだのは、自分たちの作る商品を主役にしてあげたいという気持ちもあったのですよ」と榊原さんは笑う。

丸繁製菓の榊原勝彦専務取締役(写真撮影:中島 有里子)

耐水性に苦労、三河地方の伝統にヒントを得た

食べられる器の構想から約2年、2011年からe-trayの販売を開始することになったのだが、従来にまったくなかった新商品だけに、製品化までには数々の試行錯誤があったという。

最も苦労したのは耐水性の問題だった。

「アイスモナカの場合には、時間の経過で中身のアイスクリームの水分が多少コーン側に浸透しても問題はないですし、移らないようチョコレートでコーティングするなど、いろいろと工夫が施すこともできます。ところが、この従来型のアイスコーンで作った可食容器に料理や液体を直接盛ると、どうしても器は水分を吸収してふやけてしまう。おいしく食べられる食感を保ちながら、いかに耐水性を確保するかが製品化への大きなネックとなっていました」と榊原さんは説明する。

この問題を解決するため、榊原さんはe-trayの主原料をアイスコーンに使う小麦粉とコーンスターチではなく、馬鈴薯澱粉(ばれいしょでんぷん)を用いることにした。この馬鈴薯澱粉は、三河地方で100年以上の歴史をもつ銘菓「えびせんべい」の主原料である。丸繁製菓と取引のあるメーカーも何社かあるため、その製法に関するノウハウを、知り合いを通じて教えてもらうことができたのである。

こうしてe-trayは水を何時間入れておいても漏れ出さない耐水性と、せんべいのようにそのまま食べてもおいしい食感を両立した器として発売されることになった。

e-trayの盛り付け例。三河地方の伝統をヒントに、食材を盛っても水分が漏れ出さない耐水性を確保した(写真提供:丸繁製菓)

商品バリエーションには、丸形と角形の2つの形状、業務用と個人向けのパーティパックがあり、それぞれにえびせん、オニオン、紫いも、焼きもろこしという4種類の味が用意されている。また、イベントの特色や盛りつける料理に合わせ、カレーやイカスミ、抹茶といった特別な味付けのオーダーにも対応しているという。

紫いも味のトレイの焼成作業(写真提供:丸繁製菓)

ハワイの有名なかき氷屋でも採用

こうして発売されたe-trayは、ご当地グルメで地域活性化を図る「B-1グランプリ」などのイベントで盛んに利用されるようになっていった。ただし、最初から来場者が器まで残さず食べてくれたわけではない。大半の人は渡された器が食べられることに気づかず、料理を食べ終えると捨てられてしまうことがほとんどだったのだ。

「ところが発売から半年ほどたった頃、あるイベントの会場で小さな子どもたちがまるで煎餅でもかじるようにe-trayを食べながら、楽しそうに歩き回っていたんですよ。このシーンを見た時は本当にうれしかったですね」と榊原さんは打ち明ける。

食べられる器を一時的なブームで終わらせたくなかった榊原さんは、e-trayを提供するイベント会場に足を運んだり、そのときの様子をFacebookやインスタグラムにアップするなどして、食べられる器の魅力を地道に伝え続けた。榊原さんによるこうした「草の根の啓蒙活動」により、e-trayは徐々に知名度を上げてゆき、イベント以外でも使いたいという声が少しずつ聞こえてくるようになった。

そのひとつがハワイ・オアフ島のハレイワにある有名なかき氷店・マツモトシェイブアイスからのオーダーだった。この店は70年近く前に日系アメリカ人が開いた食料雑貨店で、日本から取り寄せた氷削機で作ったかき氷(シェイブアイス)を提供するや大人気となり、現在も1年中行列ができる店として有名だ。ハワイに日本のかき氷を根付かせただけでなく、地元の人にも、観光客にも非常に人気が高く、1日の売り上げは1000食にも達するという。榊原さんによると、マツモトシェイブアイスから「e-trayを使いたい」という話が舞い込んだのは4年前のことだった。

「この店の奥さんが関西出身の日本人で、小さな頃、お菓子のモナカの皮にかき氷をいれて食べていたと言うんですよ。ハワイのお店で毎日捨てられるプラスチック容器の多さに困っていた彼女は、そのことを思い出して、e-trayを使ってみようということになったようです」と榊原さんは話す。

e-trayに盛られたマツモトシェイブアイスのかき氷(写真提供:丸繁製菓)

このほか、榊原さんが思いもよらない方法でe-trayを使う人も現れているという。

「最近は公園のゴミ箱が撤去され、食べ物や飲み物の容器は持って帰らないとダメですよね。そこであるお母さんは、子どもの遠足のお弁当を2枚のe-trayで包むことにしたそうです。弁当を食べたあと、器も食べてしまえば帰りの荷物は少なくなるし、お母さんも家で弁当箱を洗わないで済む。しかも、食べられる器の弁当箱は子どもたちの間でものすごい人気になり、一石三鳥の効果だったそうですよ」と榊原さんは笑う。