“人”の行動や状態を見える化する技術がいろいろと登場している。例えば画像認識がその一つ。混雑状況の把握や、群衆の中で起こった異常の検知といったことに利用できる。Beaconを使えば、人の所在を見える化し、災害時の避難誘導や人員確認に役立てることができる。活動量計、エネルギー使用量、レーダーによるセンシングなど、人の活動を見える化する手段は他にもある。今後、「安心・安全」な社会を築いていくうえで、ますます重要性を増しそうだ。

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顔認証をはじめとする映像監視・分析、モーションキャプチャー、ボディスキャナー、活動量計などのウエアラブルデバイスを使った身体状態の管理、ICカードやスマートフォンなどによる行動履歴分析、…。一口に「安心・安全」のための見える化と言っても、目的や仕組みは様々である。至るところに実装されたこれらの仕組みが連携し、街全体が人を見守る社会。これも未来の社会の一片だ。

群衆行動の見える化で「安全な街」を実現

リオデジャネイロ五輪でのテロ計画発覚、フランスでの大型トラックを使ったテロや2015年のパリ同時多発テロ、ベルギー首都ブリュッセルの空港と地下鉄での同時テロ、トルコのアタチュルク国際空港テロ、インドネシアでの爆弾テロ――世界にテロの脅威が広がっている。人が集まる場所での銃乱射事件も後を絶たない。もちろん、その他の犯罪は、世界中で常に発生している。

いつどこで発生するか分からないこれらの事件。未然に防ぐのは容易なことではない。ただ、人々の行動や街の変化を見える化しておけば、異変を察知しやすくなる。素早い対処や、水際でのテロ防止・防犯の可能性を高められる。そこで役立つのが映像監視・分析や、人体をスキャンするボディスキャナーといった仕組みだ。

一例が、東京都・豊島区が導入している「群衆行動解析」の仕組み。防犯カメラの映像から人の混雑度や群衆の流れを自動的に解析し、人の動きを見える化するシステムである(図1)。

(図1)群衆行動解析技術による混雑・滞留状況の異変検知。NECのホームページより引用

このシステムでは、個々の人ではなく群衆全体の動きを見える化するようになっている。「人の配置パターンから作られる模様」を解析することで、異常の発生を検知する。例えば混雑の中で人が倒れると、その人を見守るように人の集まりができ群衆の密度が変化して模様が変わる。それによって、その場所で「なにか異変が起こっているのでは」と判断される(図2)。また、逆に事件や事故が起きて周りにいる人々が一斉に逃げ出した、といった場合にも密度の変化によって模様が変わるので異変を検知できる。これによって、異常の発生場所や状況を即座に把握でき、素早い支援要請や情報発信が可能になる。

(図2)人の密度や流れを解析すれば、群衆の中で起こっている異常を素早く検知できる。NECのホームページより引用。

さらにこのシステムでは、防犯カメラから取得した大量のビックデータを解析することで、混雑や危険を事前に予測することもできる。例えば、複数のカメラで捉えた同一人物の映像からうかがえる移動履歴、それぞれの人の出で立ちや振る舞いを分析し、犯罪者に見られることが多い行動パターンと照らし合わせることで、不審な人物を見つけ出せる。これにボディスキャナーなどの仕組みを組み合わせれば、犯罪者を捉える機会が増えることになる。

セキュリティ大手のセコムは、「自律型飛行船を使って上空から街を見守る」という未来像を描く。複数台の高精細カメラ、熱画像カメラなどを使って地上をモニタリングし、映像を一元管理・分析する。飛行船を複数台飛ばして地上をくまなくモニタリングできるようにすれば、同一人物を様々な角度から捉えられる。

このシステムは、防犯以外の用途にも役立つ。映像の履歴を分析することで、しばらく前まで一緒に歩いていた人を見つけることもできる。服装などの特徴によるチェックも合わせれば、例えば人混みの中の迷子の捜索が容易になる。ほかにも、クルマや人の混雑状況の把握、混雑していない場所への誘導など、アイデア次第で使い方の幅はまだまだ広がりそうだ。

街の見守りに関して少し変わった例では、音を捉える仕組みもある。米国で導入されている銃発砲の検知システム「ShotSpotter」である。街頭に高感度マイクを多数設置し、発砲音を検知するとともに、捉えた音から発砲場所まで推測できるようになっている。もちろん、検知した情報は警察本部やパトロールカーなどに一斉同報される。

仕組みを提供しているのはSSTという企業である。2015年10月には米ゼネラルエレクトリック(GE)が同社と覚書(MoU)を締結。GE Lightingが提供するスマート街灯の仕組みと、ShotSpotterを連動させる方針を明らかにしている。スマート街灯は元々、人通りの有無などに合わせて街灯のオン/オフを制御するもの。これにShotSpotterの機能を加えることで、照らすこと“以外”の観点での街の見守り役としていこうというわけだ。

街の見守り役としては、上記のような積極的な監視・検知だけでなく、困ったときの“相談窓口”のような仕組みを設ける手もあるだろう。奈良県立医科大学附属病院が進めている「医学を中心とした街づくり」がそれに近い(関連記事)。同病院は、奈良県立医大のキャンパス移転に伴い、病院周辺の安心・安全な街づくりに取り組んでいる。飲料の自動販売機に監視カメラなどを取り付け、街の様子を監視する。コールセンターや病院とネットワークでつなぎ、急な体調異常を訴える人がいれば、場所を特定して現地まで迎えに行くといった仕組みも作ろうとしている。