ICカードを配布し災害時に安否確認、糸島市

ここまでは防犯を中心に見てきたが、防災の観点でも人の見える化は役立つ。地震だけでなく、台風や大雨など自然災害に悩まされる日本において、災害時に自治体が行う住民の安否確認はとても重要な仕事である。しかし、避難所で名簿を見ながら点呼していたのでは時間もかかるし、集計も大変だ。これをICTによる人の見える化で、だれがどこに避難しているのかを即座に把握しようとしている自治体がある。

福岡県糸島市では、九州大学が提供するICカード技術を活用した市民参加型の実証実験を行っている。糸島市は九州電力が持つ玄海原子力発電所から30km圏内にあり、緊急時防護措置準備区域(UPZ)に約1万5000人、5500世帯が居住している。そこで、約10万人の市民に対して2万5000人にICチップを埋め込んだ「いとゴンカード」を持たせ、災害時にはそのカードを避難所に置かれたリーダーにかざすだけで、どこの避難所に誰が避難しているのかがリアルタイムに防災センターで把握できる実証実験を行った(写真1)。災害を想定した避難訓練では、避難から人員点検までの時間を以前と比べて半減させることができたという。

(写真1)糸島市での実証実験の様子
避難所でいとゴンカードをかざせば、当人の避難状況が災害対策本部に報告される。写真上は糸島市で住民に配布されている、RFIDが内蔵された「いとゴンカード」。左下は避難所でカードリーダーにかざして登録している様子。右下はスマートフォン向けアプリの画面。避難者の集計も簡単に確認できる。写真はいずれも九州大学提供。

このシステムは現在も稼働を続けているが、災害はいつ起きるか誰にも予想できない。いざという時にICカードを家に置いたままでは全く役に立たなくなってしまう。そこで、糸島市では有事だけでなく平常時にもこのシステムを活用することで、普段から住民がICカードを持ち歩くよう習慣づけようとしている。そのために行っているのが、高齢者や児童の見守りだ。

いとゴンカードの中には、血液型やアレルギー、通院先、緊急連絡先などの情報が入れてある。高齢者が外出中に具合が悪くなり、救急隊員が駆け付けた時には専用のICカードリーダーでそれらの情報を読み取り、適切な処置ができるようになっている。また、糸島市では小学生にもいとゴンカードを持たせ、学校にICカードリーダーを組み込んだゲートを設置して、児童が登下校時にそのゲートをくぐると親にメールが届くような仕組みも作った(写真2)。

(写真2)児童の見守り用に置かれたゲート。写真は九州大学より提供。

今後はいとゴンカードをマイナンバーカードに融合させようとしている。これによって、「新たにICカードを作成することなく、全国どこでも見守りシステムが利用できることを目指している」(九州大学システムLSI研究センター客員准教授の石田浩二氏)。

Beaconを使い子供や高齢者の行動を見守り

人の行動を見える化する仕組みには、他にも様々なICT技術が活用されている。例えばBeacon(Bluetoothの信号を定期的に発信する発信機)とそれを受信するレシーバーを使った、人の位置情報把握である。JR西日本とHAMOLOは共同でサービスを提供している。

同サービスは、子供や高齢者の位置を、保護者や介護者などに知らせるもの(図3)。Beacon端末を持った子供や高齢者が、駅や学校などの施設に設置された「定点レシーバー」の近くを通過したり、Beaconを検知するアプリをインストールしたスマートフォンを持った人とすれ違ったりすると、同サービスのサーバーに通知メッセージが飛ぶ仕組みである。同様の仕組みでは、例えば靴に埋め込んだBeaconチップを使った認知症患者の見守りなどもある。

(図3)Beaconを活用した見守りシステムの画面。JR西日本の資料から引用。

室内における人の行動の見える化もある。これは、一人暮らしの高齢者の見守りに活用できる。離れて暮らしている高齢な親の様子を知りたいが、監視カメラを付けるのはお互いに気がとがめる。そんな時に役立つのが、行動の見える化である。この分野にもっとも早くから参入している企業の一つである、象印マホービンが提供する「みまもりほっとライン」では、無線通信機を内蔵した電気ポットを使う。利用者がポットを使うと、その情報が離れて暮らす家族のパソコンや携帯電話などに通知される。

他にも、電気やガスの利用状況から居住者の行動を見える化するサービスや、トイレのドアなどにセンサーを付けて行動を見える化するサービスなど、各種の見守りサービスが登場している。より詳しく居住者の行動を見える化するために、赤外線センサーなどを使って居住者のシルエットを解析するシステムも開発されている。これによって、高齢者のプライバシーを侵害することなく、転倒などといった屋内での事故についても検知して、家族に知らせられるようになる。

介護施設においても、入居者の状況の変化を検知し、職員の負担を減らすための見守りシステムが研究されている。パナソニックと富士通は、クラウド対応エアコンと非接触型生体センサーを融合した高齢者住宅向け見守りサービスの共同実証実験を、大阪府豊中市のサービス付き高齢者向け住宅にて行った。エアコンのセンサーから得られる温湿度といった住空間情報と、非接触型生体センサーによる入居者の睡眠状態、在・不在状態といった生活情報を検知。個人ごとの生活パターンに即したアラート通知(在室時の熱中症危険温度、睡眠中の高頻度な覚醒など)などを実現し、2016年度中のサービス提供を目指している(図4)。

(図4)パナソニックと富士通が提供する高齢者住宅向け見守りサービス。富士通のホームページより引用。

その他にも、人の行動を見える化することで様々なサービスの展開が考えられる。パナソニックは今秋から、Beaconを使って誤差3m以内の精度で補足できる屋内位置測位ソリューションを法人向けに提供する計画。このシステムとデジタルサイネージを組み合わせれば、今立っている場所に合わせた情報提供サービスを行うことが可能になる。さらに、GPS(全地球測位システム)とBeaconを組み合わせたシステムが、土木工事やプラント工事などの現場で、作業員がどこにいるかを確認する安全管理に活用されるなど、人の行動の見える化は幅広い分野で安心・安全のために重要になってきている。