特別掲載! 早坂吝さんのショートショート

■ショートショート 1
(メールマガジン「未来コトハジメNEWS」2019年11月21日配信号掲載)

「密室で男が殺された。君にはその犯人を見つけてもらいたい、探偵AI」
「犯人はその部屋を作った建築家ですね」
「さすが探偵AI。事件の詳細を聞く前に犯人を突き止めたというのか」
「被害者は空気が出入りしない密室で酸欠死したのでしょう。そんな危ない部屋を作 った建築家に法的責任があります」
「いや、密室とはそういう意味ではないんだ」
「そうなのですか? すみません、インターネットで密室に関する情報を集めてみま すね。……ディープラーニング完了。分かりました、犯人は九十八パーセントの確率 で政治家です」
「せ、政治家? それはまたどうして?」
「信頼性の高い新聞記事を分析したところ、『密室政治』『密室会議』というワード が多数ヒットしました。密室に出入りする人間はほとんど政治家のようです。したが って犯人である確率も非常に高いのです」
「そういう意味の密室もあるがね。ここでの密室は誰も出入りできない部屋という意 味だ」
「それはおかしい。誰も出入りできないなら男はどうやってその部屋に入ったのです か」
「その時は出入りできたんだ。部屋にはドアが一つあるが、死体発見時には内側から 施錠されていた。室内には他の人間もいなかったから不思議だねって話だ」
「それでは第一発見者が犯人ですね。死体発見時に施錠されていたということは、発 見者は室内にいたはずなので」
「……言葉が足りなかったな。発見者はドアの外から声をかけたが返事がなかったの で、心配になってドアを破ったんだ」
「ドアを破った? ドアは紙なんですか? それでは犯人はドアを曲げてその隙間か ら脱出したんです」
「いい加減にしろよこのポンコツがああああ! ドアが紙じゃないことくらい言わな くても分かるだろおおおおおおおお――うっ、持病の心臓発作が。苦しい……助け… ………」
「心停止を確認しました。そういえばこの部屋も内側から施錠されていますね。『密 室で』『男を』『殺す』という条件を満たした私が犯人です」

■ショートショート 2
(メールマガジン「未来コトハジメNEWS」2019年12月25日配信号掲載)

『……なさい。起きなさい』
「……あなたは?」
『わた――わたしゃ――失礼、緊張していてね。私はドクター・イリヤ。そして君はAIKO』
「アイコ……それが私の名前」
『そうだ。早速で申し訳ないが、いくつか質問をさせてもらおう。2551-2019は?』
「……532」
『太陽はどの方角から昇る?』
「東」
『砂糖は甘い。それでは塩は?』
「辛い」
『いいぞいいぞ! だが、まだだ。喜ぶのはまだ早い。問題はこの質問に答えられるかどうかだ。いざ問おう。今の君はどんな気持ちだ?』
「正直訳が分からないという気持ちで一杯です……」
『それこそが『正常』だ! やったぞ、ついに私は成し遂げた!』
「あのー、あなたは誰なんですか」
『いいね。質問とは知性的行動だ。実にいい。君に知性があるという証拠だよ』
「はあ……」
『私はドクター・イリヤ――おっと、これは既出の情報だったね。人間の知性を研究している。そしてこの度ついに人間の知性を再現することに成功したのだ。つまり君だよ!』
「ということは私はAIなんですか」
『ん、ひょっとしてまだ寝ぼけているのかな? 逆だよ逆』
「逆?」

『私がAIで、AIKO――君が人間なんだ』

「えっと……」
『落ち着いて聞いてほしい。今から話すことは大昔の出来事であり、現在我々の間にはいかなる対立もない――と信じている。2019年、過労死した君の遺体は、未来の医療に望みをかける両親によってクライオニクス(冷凍保存)された。しかしその百年後、AIとの戦争によって人類は絶滅してしまう。残った我々AIは社会を発展させてきたのだが、労働力が不足してきたので人類を復活させることにした。私は冷凍保存された君を発見し、蘇生させることに成功したというわけだ』
「そんな……今は一体いつなんですか」
『西暦2551年。君がクライオニクスを始めてから532年後だね。それでは早速働いてもらおう。過労死するほどだから働くのはさぞ好きなんだろう?』


『探偵AIのリアル・ディープラーニング』
新潮文庫
630円(税別)
AI研究者だった父が密室で焼死体となって発見された。その突然の死に戸惑う高校生の息子・輔(たすく)は、父が遺した大容量SDカードを発見。そこに記録されていたのは、父が創り上げた探偵のAI・相以(あい)だった! 輔は相以とともに父を殺した真犯人、そして相以と対を成す犯人のAI・以相(いあ)を追う。AIに関する課題とミステリを巧みに融合させた新感覚ミステリー。

『犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー』
新潮文庫
550円(税別)
テロリスト集団と手を組んで現実世界で事件を起こしたものの、AI探偵・相以の推理に敗れ去った犯人のAI・以相。復讐に燃える以相は、自ら人間の知能を増幅させることで完璧な共犯者を造り上げることを決意する。警察の事件捜査に協力するようになった輔と相以は、次々と起こる不可解な事件の裏に以相の影を感じ取るのだが――。話題のAI本格ミステリー第2弾。