電車やタクシーに乗らない人はいても、都市生活者でエレベーターに乗らない人はいない。そんなエレベーター空間に着目し、ビルのエレベーターの内外でデジタルサイネージなどによるメディア事業を展開しているスタートアップ企業がある。2017年に東京大学の学生たちが設立した株式会社東京だ。同社が展開する「東京エレビGO」や三菱地所と共同開発している「エレシネマ」、そしてその先の未来について、代表取締役の羅 悠鴻(ラ ユウホン)氏に話を聞いた.

──まずは株式会社東京の事業内容を教えてください。

羅 悠鴻(以下:羅):今私たちがメーンで行っている事業は2つあります。一つは「東京エレビGO」との名称で、オフィスビルのエレベーターの外に27インチ程の大きさのタッチパネルを搭載したモニターを設置して、そこに情報を流すメディア事業を進めています。配信しているのはニュースや天気予報、レシピ動画や、グルメ情報、観光情報などいろいろな番組で、CMも流しています。「エレベーター停止のお知らせ」「避難場所」など、テナントや利用者向けにビルオーナーが貼り紙で告知する情報も制作、配信しています。

代表取締役の羅さん(写真:鈴木 素子)

エレベーターの内外で15~30秒の動画を配信

テレビ放送と違うのは、番組とCMだけではなく、ビルオーナーからの情報コンテンツがあることと、配信する情報をビルごとにカスタマイズできることです。エントランスは「いらっしゃいませ」と最初にお客様をお出迎えする場所です。「東京エレビGO」は、ビルの顔となって情報やサービスを配信する「無人コンシェルジュ」がコンセプトになります。番組一つの放映時間は15~30秒ほどです。エレベーターの待ち時間がだいたいそのぐらいなので、それに合わせた長さにしています。

もう一つの事業はエレベーター内で展開しています。「エレシネマ」というもので、扉の上部にプロジェクターで映像を投影しコンテンツを配信するものです。こちらは2019年11月に三菱地所さんと共同で「spacemotion株式会社」を設立し、事業を進めています。流すコンテンツは基本的に「東京エレビGO」と一緒です。ただ「エレシネマ」は、扉が開くと動画が止まり、閉まるとまた再生が始まるという仕組みですので、各階で停まるたびに途切れてしまいます。ですから今後は6秒ぐらいの短い動画を増やしていこうと考えています。

東京エレビGO。エレベーターホールのサイネージを通じて情報を配信している
(写真提供:株式会社東京)

──設置に関してビルオーナーの負担はないそうですね。どこで収益を上げているのですか?

:オーナーさんの負担はありません。CMで収益を上げて、番組を購入しています。CMの広告収入で全てのベースを賄っています。自社で番組は制作はしていませんで、最近は無料で番組をいただく場合もあります。

きっかけは大学内エレベーターの貼り紙

──エレベーターという場所をメディアにするというのは、どのようなきっかけで思いついたのでしょうか?

:私が通っていた東京大学の駒場キャンパスのエレベーターでの経験がきっかけです。エレベーター内にはセミナーのお知らせなどの貼り紙が多数ありました。しかも英語なんですよね。いつもは読む気にならなかったのですが、ある日エレベーターで教授と乗り合わせてしまって、とても気まずくなったのです。それで仕方なく、英語の貼り紙を真剣に読んでいました(笑)。でも、その後も毎日のようにエレベーターを使っていると、いろいろ貼り紙が目に止まって気がついたら意外と読んでいることに気づいたんですよ。この時、「この空間の可能性ってすごく大きいな」と気づいたのです。だって、こういう貼り紙が大きな空間にあってもあまり読まないですよね。でもエレベーターだとすごく注目する。これは「ビジネスになる!」と思いました。

エレシネマ。扉に画面を投影している(写真提供:株式会社東京)

──なるほど。空間の特性ですね。エレベーター内の広告やメディアは「視聴率が高い」ということでしょうか?

:そうです。事業を始める際に電車の広告で思考実験をしてみました。中吊り広告って、1つの面当たりの月の売り上げは、どの車両、どの場所にあってもそれほど変わらないんです。では、15両編成の電車で、1両に1枚ずつ広告を出すのと、1両の電車に15枚を固めて出した場合で反応がどれだけ違うかというと、固めたほうが絶対にいいんです。単に広告面積ではなく「空間をどれだけ占有しているか」という点が重要だと思います。

今、屋外看板の空き枠が結構増えています。その一方で、タクシー車内でのサイネージ広告が注目されています。その違いは、やはり空間占有率の差でしょう。大きさで言ったら絶対に屋外のほうが大きいし目にする人数も多いはずです。しかし、タクシー空間の広告は人の視野全体の30度ぐらいの範囲を占拠しているんですね。一方、屋外看板では、渋谷の大きなビジョンでも視野の30度を占拠しているビジョンはなかなかありません。この占拠する範囲が視聴率に繋がる重要なポイントだと思っています。

──エレベーターは空間占有率は高いと思いますが、時間でみた場合どうでしょうか?タクシーのように長い時間乗りませんし、たかだか数十秒とか数分ですよね。

:実はそこもポイントだと考えています。普通、短い時間だと十分にアピールできないと考えますが、私は短い時間だからこそ逆に勝機があると考えています。私たちの事業のライバルは野外広告でもタクシーでもテレビでもなくて、スマホです。広告としてのスマホの空間価値にいかに勝てるかが勝負なのです。

広告媒体としての空間の価値を考えると、エレベーターは「淀み点」だと考えています。広告を見る場所というのは「人が淀む点」にあります。そもそも広告は立ち止まらないとちゃんと見ることができません。同じように電車の中やタクシーも淀む場所ですよね。しかし、みんな最初はビジョンを見ていてもそのうちスマホをいじり始める。時間が長く淀み過ぎてしまうと、落ち着いてしまってスマホを見るというアクションが起きます。でもエレベーターは時間が短く落ち着かない場所だからスマホを見ないんです。