──エレベーターの場所と時間は、むしろちょうどいいというわけなのですね。

:そうなんです。しかもスマホの時代になって、YahooやLINE、中国ならバイドゥ(百度)、アリペイ(支付宝)といったアプリの会社はいま、可処分所得じゃなくて可処分時間の奪い合いをやっています。その観点で見ると、エレベーターの滞在時間というのは可処分時間の一つであり、しかもスマホを見ない絶好の時間です。また、オフィスビルのワーカーが1日で大体4回くらいエレベーターを使用するとすれば、月に100回は利用することになります。それだけの回数があればCMや番組をいろいろ見てもらえるように、いい塩梅に配信をコントロールすることも可能となります。

──エレベーターの他に着目している場所などありますか?

淀み点には、トイレや信号の待ち時間、オフィスの待合室などもありますね。今後はそういう淀み点を一つひとつ開拓することも視野に入れています。

(写真:鈴木 素子)

不動産としてのバリューアップにも繋がるオフィスビルのエレベーターメディア

──羅さんは創業当時、大学生でしたが、どうやってビジネスを始められたのですか?

:最初は、エレベーターをリニューアルする形で広告を出すというアイディアを思いつきました。例えば、飲料会社をスポンサーにして、エレベーター内を貼り紙によって全面アルプスの風景にするイメージです。そこで、さっそく営業してみました。意思決定が早そうなのは個人所有のビルオーナーさんだと考えて、オーナーさんが在中していそうなビルに飛び込み、アイディアを話しに回りました。アタックしたのは、最上階にビル名と同じ名前の会社が入っていたり、同じ名前の方が住んでいたりするビルです。

でも、学生で名刺もスーツもない状態ではどこにも相手にされませんでした(笑)。それで「ここを最後にしよう」と、たまたま河北新報さんのビルに飛び込んだら話を聞いてもらえたうえに、「それおもしろいね、ウチのコンテンツを出したい」と賛同してくれたのです。結局、そのビルは半月後に解体することになっていて実現できませんでしたが、これをきっかけに少し自信がつきました。

ただ、エレベーターごとにサイズがバラバラなので、広告を個別に貼ってリニューアルする形では、ビルを利用する限られた人だけのために広告を一つひとつ制作しているようなものです。効率が悪く、スケールしません。そこでパッケージ化・規格化できないだろうかと考えて、タブレットを思いついたんです。「ソフトを統一し、サービスの内容をパッケージ化すれば、いろいろなビルで使えるな」と。そして2017年に登場させたのが「東京エレビ」です。会社もこの年に創立しました。

──防犯カメラの機能が付いたサイネージですね。広告媒体として企画した「東京エレビ」が、途中から番組配信を始めたのはなぜですか?

:オーナーさんにとって広告費の一定の割合、それも数千円程度が入るだけでは、定性的なメリットはあまりありません。しかもオーナーさんからは「ビルの価値が下がるから、ちゃんとした広告を選んで欲しい」と要望されます。

すると、あるビルのオーナーから、「自社でやっているデジタルサイネージの運用方法に困っている。いろいろ開発したいけれど、サイネージでテナントさんの満足度が上がっても賃料アップに繋がるとは限らないから、なかなか着手できない。もし先行投資なしで、こちらがサイネージで実現したい世界観を実現してくれるようなプロダクトがあればすぐ導入したい」と言われたのです。「なるほど!それやってみよう」と思いました。

──ビルの「不動産としての価値向上」につなげていこうというわけですね。

:そうなんです。不動産(オフィスビル)の価値って、今まではオーナーとテナントというBtoBで考えられていたと思います。でも本来はオーナーとテナントと利用者・ワーカーの満足度、つまりBtoBtoCの関係ですよね。ビルの告知貼り紙のようなオーナーと利用者とのコミュニケーションや、防災情報のように利用者全員に向けた情報発信も必要になります。こうしたBtoBtoCのコミュニケーションを実現しつつ、広告もきっちり出して視聴率と利益を求めていかなければなりません。

「東京エレビ」を設置した時点では、弊社は資金の持ち出しとなり、そこから回収していくことになります。一方、ビルオーナーさんも設置した後の効果に一番関心があるので、お互いに価値を高めていく利害や時期が一致するんです。ですから「一緒に価値のあるコンテンツを作っていきましょう!」と手を取り合える関係になるわけです。

いまは避難場所を示した防災マップを弊社で作って配信したり、「台風に気をつけてください」とか「謹賀新年」などのメッセージを出したり、ワーカーとオーナーさんの距離が近づくようなサービスを提供することも多いです。ちなみに防災マップは、REIT(不動産投資信託)の運営会社さんに評価されていますね。実際に、これがあるかないかで、首都直下型地震が起きた際のビルにいた人たちの被害が大きく違ってくるはずです。普段、紙で配られても避難場所を覚える人はほとんどいないかもしれませんが、平時から配信していると無意識に覚えられる。だから重要視されているのだと思います。