イラストの自動生成や画像の高解像度化にディープラーニングを適用し、煩雑なクリエイティブ作業を一気に自動化するツールを提供するスタートアップがある。我々の生活にとってデジタルコンテンツが切っても切り離せない存在となったいま、ユーザー視点ではなく制作者からの視点で最先端技術を活用し、クリエイティブ現場にイノベーションを起こそうとしている。目標に掲げるのはソフトウエア版“インテル入ってる”の世界観だ。

ディープラーニングが世界に一つだけの顔アイコンを生成

ゲーム、アニメ、漫画、動画。これらに関するデジタルコンテンツは、いまや我々の日常生活に欠かせない文化的な栄養素であり、たくさんの人びとが日々“摂取”している。しかしこれだけ技術が発達したいまでも、作り手側には人力に頼らざるを得ない作業が多数発生する。

例えばゲームのイラストを作成する場合、最初に制作指示書をディレクターが起こし、イラストレーターがラフを作成する。その後、ラフをもとに線画作成、着彩と続く。結果、クライアントのフィードバックや修正反映を含めると、1枚のイラストを納品するまでに80時間以上かかると言われる。ゼロからイチを生み出す工程は一筋縄ではいかない。センスの塊とも言えるクリエイティブの世界ではなおさらだ。表面上は華やかに見えるが、こうした泥臭い努力によって支えられているのが現実である。

そこで東京のスタートアップ、ラディウス・ファイブはAIをクリエイティブ現場の“非クリエイティブ作業”に適用しようと考えた。自動化できる作業はAIに任せ、より高度な領域で創造性を発揮してもらいたい――その思いからデザイナーやクリエイターの作業内容を飛躍的に改善する「cre8tive(クリエイティブ) AI」が誕生した。

cre8tive AIは多様なAIクリエイティブツールが集合するプラットフォームの形をとっており、現在、いくつかのサービスが稼働している。その1つが、イラスト描画の自動化を実現する「クリエイティブAI 彩(さい)ちゃん」だ。ディープラーニング技術を用いて独自開発した生成モデルである「Refine GAN」を用いて、この世に存在しない顔アイコンのオリジナルイラストをわずか1分以内で描くことができる。その種類はじつに100万通り以上。

具体的な流れはこうだ。登録後、サービス画面で「彩ちゃんに依頼する」のバナーをクリック。3つのイラスト候補が示されるので、そこから任意の1つを選択する。続けてランダムにイラストが多数表示され、自分の好きなテイストのキャラクターを選んでいく。この作業を繰り返し、最終的に気に入った作品にたどり着いたら確定して保存する。ともすれば、どこかから集めてきたイラストを選んでいるような錯覚に陥るが、イラストを選ぶたびに利用者の好みを学習し、オリジナルの絵を自動で生成している。ここで活躍するのが前述したRefine GANとなる。

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クリエイティブAI 彩ちゃんのサービス画面。ここで「彩ちゃんに依頼する」をクリック(出所:ラディウス・ファイブ)
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自分好みのキャラクターを任意に選択していき、最終的に確定。オリジナルの顔イラストが完成する(出所:ラディウス・ファイブ)
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クリエイティブAI 彩ちゃんの仕組み。独自開発した生成モデル、Refine GANを用いて自動生成している(出所:ラディウス・ファイブ)

もう1つの柱が「Photo Refiner」。写真やイラストなどの画素数を縦、横4倍の16倍まで拡大できる高解像度化AIだ。従来の画像拡大技術はニアレストネイバー法、バイリニア法、バイキュービック法が主流だが、これらは元の画像を引き伸ばして中間を補間するもの。対してPhoto Refinerは大量の低解像度画像と高解像度画像の両方をAIが学習し、低解像度から高解像度に至るまでにどのような差があるのかを推測。これにより、仮に元画像が粗くてもキレイな画像に拡大できる。

Photo RefinerによってAIが高解像度画像を推測。クリアな画像に変換される(出所:ラディウス・ファイブ)

こちらもクリエイティブAI 彩ちゃん同様のシンプルな操作性を貫き、Webブラウザーに元画像をドラッグ&ドロップするだけで自動で高解像度化が完了する。双方のサービスは1枚単位(彩ちゃんは240円/1枚、Photo Refinerは480円/1枚)のエントリープランに加え、用途に応じてライト(月額4800円)からメガ(月額8万円)までのサブスクリプションプランが用意され、ゲームやエンタメ業界、印刷会社や広告代理店はもちろんのこと、SNSなどのアイコンに使いたい個人ユーザーの利用も多いという。

そこから派生して開発したのがアニメ向けの高解像度化AI「AnimeRefiner」で、これから本格展開を予定する。HD(1280×720ピクセル)なら4Kサイズ以上、フルHD(1920×1080ピクセル)なら8KサイズにAIで変換可能。むろん4K/8Kコンテンツが主流となる今後を見据えたものであり、従来の制作方法を維持したままで高解像度化を実現することで、慢性的な人材不足に悩むアニメ制作現場の業務負荷削減に大きく貢献する。さらに、配信やブルーレイ化に向けて過去作品を高解像度化する際にも役立つ。

AnimeRefinerによるアニメの自動高解像度化。サンプル写真は480×270ピクセルからフルHDに変換した際の比較(出所:ラディウス・ファイブ)