新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がりは、まだまだ収まる気配を見せない。人類の存亡をも脅かす可能性すら感じてしまうこの小さな敵に対して、現在、医学や生物学、化学などさまざまな科学分野から拡散を阻止し、治療に繋がる方法が模索されている。これら以外の最新テクノロジー分野からも、新型コロナウイルス感染症の治療に直接貢献するわけではないが、この危機を少しでも緩和させようとさまざまなアプローチが行われている。

医療用資材を製造する3Dプリンター

高機能化と低価格化が進んだ3Dプリンターは材料や生産性の課題も改善され、製造業では試作用途から最終製品の製造まで活用が広がっている。現在、各国でさまざまな製造メーカーが、金型などを必要とせず短期間で安価にものが製造できる3Dプリンターの特徴を生かして、新型コロナウイルス感染症対策に向けた医療用資材などを製造しようとしている。

自動車メーカーでは、トヨタが4月7日に医療用フェイスシールド(防護マスク)の生産を開始すると発表した。トヨタ自動車貞宝工場にて、試作型による医療用フェイスシールドの生産準備を進め、週500~600個程度から生産を開始する予定。トヨタは日本国内だけでなく、アメリカやヨーロッパでも3Dプリンターによる医療用フェイスシールドの生産準備を進めている。

海外ではメルセデスベンツが3月27日に、毎年最大15万個のプラスチックと金属部品を製造している3Dプリンターを使用して、ステレオリソグラフィー(SLA)、選択的レーザー焼結(SLS)、溶融堆積モデリング(FDM)、選択的レーザー溶融(SLM)などの3D印刷プロセスを、医療用資材の生産に使用すると発表している(写真1)。フォルクスワーゲンも4月2日に、3Dプリンターを使ってフェイスシールド用ホルダーの生産を開始したことを発表している。

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(写真1)3Dプリンターを使って部品を製造するメルセデスベンツの工場(メルセデスベンツのホームページより引用)

人工呼吸器に関しては、ゼネラル・モーターズが3月20日に人工呼吸器メーカーのベンテック・ライフ・システムズと、フォード・モーターが3月30日に人工呼吸器メーカーのGEヘルスケアとそれぞれ協力して製造すると発表している。

自動車メーカー以外でも、3Dプリンターを活用して医療用資材や検査キットなどを製造しようとしている企業は多いが、本来これらの製品には、安全面や衛生面などを考慮した厳密な基準が定められている。各国で製造が許されている医療関連メーカー以外のメーカーが3Dプリンターで製造する製品は、それらの基準が満たされているかどうかの検証を行う時間もないほど、今は事態が逼迫している。したがって、これらのメーカーが製造する医療用資材や検査キットなどは、本来の製品の製造が整うまでの時間稼ぎのために作られる製品と捉えられているようだ。

AIで新型コロナウイルス感染症を診断

人工知能(AI)を、新型コロナウイルス感染症の診療などに役立てようとする動きもいろいろとある。新型コロナウイルス感染症では、重症化すると重度の肺炎を患って死亡するリスクが非常に高い。そのため、新型コロナウイルス感染症に罹患している可能性がある患者に対しては、コンピュータ断層撮影装置(CT)やX線画像検査によって肺の映像を見て診断している。

だが、人がモニター画面を見て診断するのは時間がかかるし、医師の経験不足などによって誤診が発生する問題もある。そこで、AI技術をCTやX線画像検査で利用し、診断時間を短縮したり感染拡大を抑えようとしたりするツールの開発が進められている。オープンソースでのプログラム開発を支援するGitHubでは、新型コロナウイルス感染症検査用のAIツールを協働開発するプロジェクト「COVIDネット(COVID-Net)」などが公開されている。。

GitHubによると、初期の段階で新型コロナウイルス感染症に罹患した患者は、胸部X線撮影画像に異常を示すことが判明(写真2)。そこで、胸部X線撮影画像を使用して、新型コロナウイルス感染症の患者を検出するAIシステムがいくつか提案され、検出精度が非常に高いことが示された。ところが、こうしたAIシステムはクローズドソースであり、自由に研究コミュニティが利用することはできない。

オープンソースのCOVID-Netは、一般に公開されている胸部X線撮影画像から新型コロナウイルス感染症の症例を検出するために設計されている。COVID-Netのトレーニングに使われる胸部X線撮影データセットも用意されている。

(写真2)COVID-Net を活用するツール「GSInquire」によって特定された、2人の異なる患者の新型コロナウイルス感染症例の胸部X線撮影画像例。関連する重要な要素を赤で強調してある(GitHubのホームページより引用)