自分のサービスで“死”をポップに語れるものにしたい

──田村さんはご自身でもサービスの開発を進められていると聞きましたが、こちらはどのような内容なのでしょう。

田村 以前からずっと作りたいと考えていた「itakoto(イタコト)」という遺言動画サービスで、大学院に入ったのも、このサービスを社会実装するために必要なことを学ぶためなんです。「itakoto」は、元気なうちに自分の死に方についてのメッセージを大切な人に向けて動画で残しておくためのサービス。これを作りたいと思ったきっかけは僕の母ちゃんの言葉なんですよ。

僕が誕生日に「おめでとう」というと、母ちゃんは毎回毎回「ありがとう、私がいざというときは延命治療とかしないでね」と言うんですよ。最初はとくに気に留めてなかったんですけど、本当に毎回いってくるので「なんでいつも言うの?」と聞いてみたら、「ちゃんと言っておかないと、何かあったときにあなたがジャッジできないから」と言われて。確かに、今もし母ちゃんに何かあって医者から「延命治療をするか」と問われたときに、僕は迷わずあの世に行かせてあげるというジャッジができます。それはずっと母ちゃんがメッセージを伝えてきてくれたから。でも、これって結構、稀だよなと。メッセージがちゃんと残っていないと、死人に口なしになっちゃうので。

──確かにそういう問題に直面している人は数多くいそうです。

田村 “死”ってなかなか日常会話で出てこない話題じゃないですか。むしろ話したくないから、話さなきゃいけないときでも先送りにしちゃう。それでちゃんと話せていないから、いざというときに残された人たちが困っちゃうんですよね。そういうところで「itakoto」は、死んでいく人と残された人、両方の憂いを取れるサービスになるんじゃないか、と。実際、もともとの自分の意志と関係なく、延命治療で意識がないまま生かされている人ってすごく多いだろうし、それはどんどん膨れ上がる社会保障費の問題にもつながってきます。こういった状況をどうにかするためにも、若い人を含めてみんながもっとポップに死について話せるようになって、自分のこととして考える機会があったほうがいいですよね。そんな“死”についてのとらえ方を変えるサービスを作りたいんです。

思考停止した日本を打破する若者を応援

──田村さんご自身も、世の中の概念をガラリと変えるサービスの開発を目指しているのですね。田村さんは旧来のルールや常識、固定観念にとらわれない考え方をされる方だと思うのですが、やはり日本の現状に問題意識のようなものをもっているのでしょうか。

田村 日本はいろいろな面ですごく思考停止しているように見えるんですよ。もちろん、進んでいる面もありますけど、みんな自分で物事を考えてない。ただ、与えられたものをこなしているだけで。そういうのがイヤなんです。

数年前に初めてシリコンバレーに行ったとき、日本とはあらゆることが全然違うと感じました。GoogleやApple、Facebookとかのオフィス見学をさせてもらったんですが、みんなそもそも決まったデスクもないし、立ったまま仕事をしている人もいて。「座りたかったら座って仕事するし、立ちたいときは立って仕事をするよ」と。日本は「仕事は座ってするもの」っていう固定観念すら振りほどけてない。その時点で自由な発想がないなって思うんですよ。会議も向こうは2~3人の決定権をもった人たちが敷地内の公園を散歩しながら決めて、それを部下に伝える。そのほうが絶対に効率も生産性も高いですよね。日本では頭でそういうことがわかっても、旧来のルールとか常識に縛られて、新しいことができない。

──新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワーク、在宅勤務といったワーキングスタイルが急速に普及しています。これを機に日本でもさまざまな変化があるかもしれません。

田村 気づいてほしいですよね。それで変わってほしいと思いますけど、日本ではなかなか難しいかもしれない。なんといっても50年以上も思考停止したまま女の子にブルマを履かせ続けた国ですからね(笑)。僕は小学生のときから「おかしい」と言い続けてきたんですけど、誰も賛同してくれなかったですよ。「これを履きなさい」と言われたら、言われた通りに黙って履く。それが当たり前。そういう日本の特殊な空気は今でも残り続けていると感じます。

──そういった日本人のメンタリティや風潮が、変化の早い現代ではいろんな弊害をもたらしているのかもしれませんね。

田村 いろんな新しい試みが、行政の凝り固まったルールとか、忖度文化とか、決定の遅さとか、くだらないことでつぶされちゃう。新しい未来を作るためにせっかく日本の若い子たちが頑張っているのに、旧来のルールや固定観念に邪魔されて、なかなか前に進めないという状況がすごく多くなっています。僕がベンチャー企業に投資や出資するのも、そういう若い子を応援して助けたいという気持ちがあるからです。別に食べるのに困っているわけじゃないし、今は銀行にお金を預けていても死んだお金になるだけなので、それなら自分と価値観が合う若手企業家に僕のお金を活用してもらったほうがいいと思って。だから、僕は先ほど話した「BASE」のように自分が「これは良い」と感じて納得したものにしか投資や出資をしません。僕が投資することで宣伝にもなりますし。むしろ、芸能人とかタレントはCMよりもこういうインフルエンサーとしての投資を主流にすればいいのにと思いますよ。そもそも自分で使ってもいない商品を宣伝するCMってすごく不自然なことですから。

──田村さんはあまりCMに出ている印象がなかったのですが、そういう理由があったのですね。

田村 いや、それは単純に僕のイメージが悪いからCMの仕事が来ないだけなんですけど(笑)。

──とはいえ、田村さんは政治や社会問題についても積極的に発信して強い影響力をお持ちです。政治家へのオファーも多くあったのではないかと思うのですが、その気は……。

田村 確かによく「政治家にならないのですか」って言われることはあるんですけど、なりたくないですよ。だって、政治家になって自分の理想とする社会とか思いを投影できる社会を達成しようとしても、結局は他のいろんな意見を調整して、譲歩しなきゃいけない。そういうところで、僕ひとりができることなんてほとんど何もないと思うし、戦い方、勝ち筋がまったく見えて来ないので。だから政治家になりたいとは思いません。

ただ、日本社会のいろいろな問題を解決すべき人たちが、逃げ切り世代になっていて全然、手をつけていなくて、それで若い人たちが苦しむようなことになっている今の日本の状況は本当にダメだなと思います。だから、自分の力で社会を変えるみたいな高い志はないですけど、日本で生きていく中で自分なりに気づいたこと、気になるものは、これまで同じように自分の感覚で発信し続けていきたいなとは思っています。