誤差1センチレベルで位置情報が取得可能に

田村 今日の植松さんのお話を聞いて、僕は改めて元気をもらっています(笑)。僕の個人的な話もいろいろ聞いてもらいたいのですが、今日はロケット業界の現状や展望といったところのお話もおうかがいしたいと思っています。多くの人にはあまり馴染みがなくてわかりづらい業界だと思うのですが、現状はどういう感じなんでしょうか。

植松 ロケット業界はここしばらくちょっとした“バブル状態”になっていた感がありますね。宇宙開発事業が投資先として注目されるようになって、具体的な内容が定まってもいない計画に出資が集まってお金だけがグルグル動いているというような。それが少し過熱して、あまりよくない状況が続いていました。ただ、今回の世界的な新型コロナウイルスの感染拡大で冷水をかぶせられた形になって、ちょっと落ち着いてきたように思います。

田村 実際に新しい技術やサービス開発に挑んでいる人たちと、そこに投資する人たちの思いがうまくリンクしていないような状態になっていたんですね。植松電機の宇宙関連事業はどうだったのですか。僕が植松さんと初めてお会いしてから、もう8年ぐらい経っていますが。

植松 その間、植松電機に実験や研究に来る技術者はどんどん多くなっていて、宇宙関連事業のニーズはさらに高まっている状況です。うちはロケットを作っているだけじゃなくて、微小重力環境や真空状態での実験や試験ができる装置がありますから、さまざまな異分野の技術者が来てくれて、私自身すごく学ぶことが多くてありがたいですね。業界全体としても宇宙関連事業は今後間違いなく伸びていく分野だと思います。というのも、今回の新型コロナウイルス騒動でも明らかになりましたが、さまざまな作業の遠隔操作や自動制御のニーズは今後さらに高まっていくでしょう。そこで宇宙関連事業が培ってきた技術が、とても重要な役割を果たすことになるはずなんですよ。

微小重力実験の施設「COSMOTORRE(コスモトーレ)」の外観。この施設において、カプセルを高さ50mから自由落下させることで、カプセルの中が約3秒間の微小重力環境になる(写真提供:植松電機)
微小重力実験の施設「COSMOTORRE(コスモトーレ)」の外観。この施設において、カプセルを高さ50mから自由落下させることで、カプセルの中が約3秒間の微小重力環境になる(写真提供:植松電機)

田村 植松電機もそういった新しい技術に挑戦されているんですか?

植松 たとえば、植松電機では数年前からJAXAが打ち上げた準天頂衛星「みちびき」のデータを使用できるようになりました。「みちびき」はアメリカのGPSと一体運用されている衛星で、これによってとても高精度で安定した衛星測位が可能になります。現在、うちの会社の半径3キロ以内であれば誤差1センチ程度の位置情報を得ることができるんですよ。

田村 ええ、そんな細かく! それはどういうことに応用できるんですか。

植松 これまでGPSなどの衛星測位システムは移動体の制御誘導に使用されることがほとんどでしたが、ここまで精度が高くなると歯医者の治療や外科医の手術なんかにも応用できる可能性が出てくるんですね。

田村 そうか。遠く離れた場所から何かしらの器具を使って治療とかができるようになるかもしないってことですね。カーナビなんかとはまるで違うレベルの使い方がいろいろ考えられる、と。すごく夢のある話ですね。

植松 そうなってくると、宇宙関連事業はさまざまな分野をまたいで大きく広がる可能性があることになりますよね。ロケットの技術をさらに高めていくというのではなく、そういった新しい方向で宇宙関連事業は伸びていくと思います。そもそも、ロケットというものは「宇宙に行くためのトラック」のようなもので、ロケットそのものは今後そこまで革新的な変化をすることはないと思っているんですよ。

田村 宇宙に積み荷を運んでいくトラックとしての役割のロケットは、ある意味、もう完成されているということですか。

植松 そうです。たとえば、ロシアでは、人類初の有人宇宙飛行を実現したガガーリンが乗っていたロケットと基本的に同じものが今でも使われているぐらいですから。

田村 ええ! そうだったんですか。

植松 宇宙探査であるとか、人工衛星の打ち上げといった用途だけを考えたら、ロシアのやり方は合理的です。その用途に合う性能のロケットはすでにできあがっているわけですから新しいものをわざわざ作る必要はありません。もともと、かつてのロケット開発が進んだのは米ソの軍事技術の競い合いが背景にあったわけですが、今後そんな状況になることはないでしょう。そういう意味では、この業界に民間がどんどん参入して、いろいろと条件を設定したうえでロケットのレースみたいなものができると面白いんじゃないかと思います。そうすると、発展途上国も含めたいろんな国が技術力次第でどんどん業界に参入してきて、そこで新しいアイデアがまた生まれてくるんじゃないか、と。

田村 車の性能を競うF1みたいにロケット技術の性能を競うレースですか。確かにそんなことができたら、すごく面白そうですね。もし、それが実現したらロケットのあり方もどんどん変わっていくんだろうな。個性豊かなロケットがいろいろ出てくるところを想像するとワクワクしますね。

(後編に続く)