「ロケットは宇宙に行くためのトラック」「ロケットのレースが実現すれば、技術やアイデアも広がる」――。田村淳さんと植松電機の植松努社長によるロケットの未来をテーマにした対談の前編では、最新技術の話や未来の可能性で盛り上がりました。後編では、技術者の人材育成、日本の課題、夢との向き合い方にまで話題が広がります。植松社長が来年4月から始める新しい挑戦には、田村さんもあらためて励まされたようです(前編はこちら)。

田村 植松さんは、今後、ロケットはどのように進化していくと考えていますか。

植松 ロケットは本体の性能向上ではなく、その遠隔操作や自動制御の方向で進化していくと思います。たとえば、日本のJAXAが運用しているイプシロンというロケットは、人間ではなく本体が自動点検を行い、打ち上げのオペレーションも従来に比べてぐっと少ない人数で行うことができるようになっています。これを突き詰めていけば、無人での打ち上げもできるようになるでしょう。いずれはロケットの製造自体をロボットが無人で行い、さらに燃料注入から打ち上げの各種設定、点検まですべて自動・自律的にできるようになる可能性だってあります。

田村 どこかに宇宙基地みたいなものを作って、そこで無人で創られたロケットがいろんな星に向かってどんどん飛んでいくような未来が来るかもしれない、と。すごい話ですね。そういった遠隔操作に、「みちびき」の誤差1センチレベルという高精度の衛星測位システムが使えるんじゃないかと思います(編集部注:「みちびき」については前編を参照ください)。実際のところ、すでにそのように応用されているんですか。それがどんどん進めば、「宇宙産業の技術開発における日本のポジション確立」という意味でも未来を感じられますよね。

植松 「みちびき」には素晴らしい可能性があると思うのですが、残念ながら現状ではローカルな話でしかなく、国内での応用例もほとんどない状態です。日本では研究開発にかかる費用はたいてい国が予算をつけるのですが、その場合「新規性があること」が第一条件なんですよ。「みちびき」は既存の衛星測位システムを発展させたもので、あまり予算が出ないんですね。いろいろな可能性を持つ技術があるのに、なかなか実用化されない。これも日本の大きな問題だと思います。

田村 うーん、すごくもったいない話ですね。日本の技術を世界に示せるチャンスが失われてしまっている……。

植松 新しい技術の実用化は第一段階として、自動車に使ってもらえるのが一番いいんですね。市場が大きくて生産台数が多いので、それだけ応用例が増えることになりますから。ただ、日本の自動車メーカーはコスト意識が非常に高いために、実は先進技術をあまり使いたがらないんです。しかし、「みちびき」がもたらす技術は、たとえば現在、世界中の自動車メーカーが研究・開発を進めている自動運転技術にもすごく重要な役割を果たすことができると思います。例えば、自動運転でハードルになっているのは、雪道です。雪が積もっていたら人間でさえ標識なんか全然見えないですよね。つまり、どれだけ良いカメラを搭載しても、豪雪地帯ではあまり意味がなくなってしまうんです。

田村 なるほど! 誤差1センチレベルで位置情報が得られれば、カメラがなくても自動で安全な走行ができそうですね。

植松 この北海道なら環境的にそういった雪道自動運転の試験走行とかもできるはずなのですが、それでも自動車メーカーは乗り気にならないんです。市場的に“マイノリティ”になってしまうから。

田村 それくらいの雪が降る地域は限られているので、コストはかけられないということですか。それはもどかしいですね。特殊に見える環境でも、そこに応用することで新しい技術が前に進むきっかけになるかもしれないのに。

植松 そうなんですよ。日本でそんなに雪が降り積もる地域が限られるとしても、北海道の雪道を安全に自動運転できる自動車であれば、例えば、ロシアや北欧、カナダなんかの雪道だって安全に走れます。もっと広い視点の発想があれば、コストについての判断も変わるという気もするんですよね。

技術発展を妨げる規制と教育システムの弊害

田村 実際に自動車メーカーの人たちと、そうした話をすることはあるんですか。

植松 自動車メーカーの技術系の方々とお話をさせてもらう機会は多いです。一緒にお酒を飲みにいくとすごく楽しいですよ、愚痴なんかもいっぱい聞けて(笑)。やはり、みなさんは「もっとできることがあるはずだ」という思いを抱えていますね。

田村 第一線で仕事をされている技術者の方々もやきもきしているところがあるんでしょうね。そもそも、世界に誇れるすごい技術が日本にもいっぱいあることが、あまり知られていないですよね。

植松 自動車産業にせよ、航空宇宙産業にせよ、もっとメーカーが乱立すればいいと思いますね。今は制約や規制が多くて、新規参入するのが非常に大変な状態になっているんです。グローバル化や働き方改革を促進するというなら、この制約や規制をまずどうにかするべきじゃないか、と。数年前からは。クラウドファンディングなど民間がお金を集める仕組みもいろいろ整いつつあるので、この動きがどんどん進んでいけば、日本でも新しくて面白い技術の実用化がもっと増えるのかなという気がします。

田村 日本の優秀な技術者たちが力を発揮できる環境を作ることができれば、日本の技術力はもっと前進できるということですよね。そのときに引っかかるのは、やっぱり法律とか規制の問題でしょうか。

植松 その問題が大きいですね。それこそ何十年も前に作られたような規制に引きずられています。当時は存在しなかった新しい素材の扱いも、昔から残っている規制に従わなくてはいけなかったりするのです。そんな規制が技術発展の足を引っ張っているところがかなりあるんですよ。

田村 規制が時代に追いついていないわけですか。それは技術界隈だけじゃなくて、日本のいろんなところにある問題ですね。僕なんかが普段の生活をしている中でも、「このルールって、なんか時代に合ってないんじゃないの?」って感じることはよくありますから。