「企業の独身社員に男女の出会いを取り持つ」というAI(人工知能)アプリが登場した。スタートアップのAILL(エール)がこの8月から提供開始した「Aill」は、AIが相性の良い相手や会話をナビゲート。2019年11月から2020年3月に11社の企業でトライアルを実施した際には、AIによるアシストでデートへの進展率やデートの受諾率が大幅に向上し、かつ全体の違反行為は0%だったという。「AIが人の幸せを支援する」──。そのような少し近未来的なサービスの姿を見てみよう。

良好なパートナーシップが人生を豊かにすることに異論はないだろう。少子高齢化やひとり親家庭の子育てといった社会課題も踏まえると、男女の良好なパートナーシップは様々な問題の“根っこ”である、とも言えそうだ。

そのようなパートナーシップに切り込もうというのが、スタートアップのAILL(エール、https://aill-navi.jp/)だ。2020年8月から、企業の独身社員に出会いを取り持つアプリサービス「Aill」の本格提供を開始した。2019年11月から2020年3月に11社の企業でトライアルを実施した際には、AIによるアシストでデートへの進展率やデートの受諾率が大幅に向上し、かつ全体の違反行為は0%だったという。

サービスの本格提供に当たり、Aillは福利厚生サービス大手のベネフィット・ワンと提携済み。ベネフィット・ワンは契約企業向けの福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」を運営している。ベネフィット・ステーションの利用企業に勤務しており、かつ福利厚生メニューにAillを組み入れている企業の独身社員が、Aillを利用できる。8月現在、NTTグループ、みずほグループなど、約20社の企業がAillの利用対象ユーザーとなっている。

Aillはサービス対象の企業群からユーザーを集め、その中で相性が良いと判断した相手を紹介する。アプリの核となるのは、異性のプロフィール情報を表示する機能や、チャット機能だ。Aillはキャッチコピーに「AI(人工知能)恋愛ナビゲーションアプリ」を掲げており、AIが異性をリコメンドしたり、画面を通じてチャット上における会話の勘所を教えたりしながら、関係の適切な進展をアシストする。

AIには深層学習のアルゴリズムを採用している。ユーザーの行動結果を学習しながら、効果的なマッチングやナビゲーションを実行できる仕組みにしているという。なお、AIの開発には、AI研究で多数の業績を持つはこだて未来大学の松原仁教授、北海道大学の川村秀憲教授、東京大学の鳥海不二夫准教授が協力しているという。

Aillのサービスの全体像(出所:AILL)
アプリの画面イメージ。AIを活用した各種の機能(ナビゲーション)を用意している。コンタクトを取る相手の選定や、デートに至る会話(チャット)のプロセスといった、複数の角度からユーザーをサポートする(出所:AILL)

なぜ、企業向けにこのような男女のマッチングサービスを企画したのか。着想に至った背景やサービスの内容について、同社の豊嶋千奈代表取締役に聞いた。

「女性幹部の98%が独身」、その現状に疑問を抱いた

──Aillを開発した背景を教えてください。

豊嶋氏(以下、敬称略):きっかけは起業前に働いていた製薬会社で直面した課題です。その会社では社員のエンゲージメント(筆者注:社員が自発的に抱く、会社に対する好感度や満足度、貢献意欲のこと)を高めるための様々な施策を実行していました。例えば女性社員を登用するダイバーシティ施策などです。しかしその結果、多くの社員が疲弊してしまっていました。

私はMR(医療情報担当者)として営業をしていたのですが、営業成績を高めた結果、29歳の時に幹部候補生に選ばれました。それは誇らしいことなのですが、同時に不安も感じました。というのは、当時、先輩の女性幹部の98%が独身だったからでした。

会社としては女性の活躍を推進しており、幹部の女性が多くいたのは素晴らしいことだと思います。ただその一方、生活が仕事中心になってしまったがために、幹部になった女性社員は恋愛や結婚をする余裕がなくなってしまっていたのです。責任が増えて仕事はとにかく大変そうでした。

そのような社内の状況を見て、社員の人生の幸福度が上がり、かつ会社も発展する、そのような理想的な姿はどうしたら実現できるのだろうかと、真剣に考えるようになりました。

AILLの豊嶋千奈社長
2009年同志社大学法学部を卒業し、大手製薬会社に入社。薬剤の営業、企画立案、地域戦略・マーケティングを担当。5年連続で社内表彰。3年実績伸長率1位。女性幹部候補生選出。2016年に退社し、前身となる企業gemfutureを設立。2017年に経営学修士(MBA)を取得。2018年にAILLに社名変更。2019年に「B Dash Camp」「IVS Launch Pad」「TechCrunch Tokyo」などの主要なベンチャーピッチ大会で入賞した(写真提供:AILL)