「ビューティーテック」。美容業界のみならず、ITや家電の世界も巻き込んだこの新しいトレンドは、ウィズコロナの時代にあって個別最適化やオンライン化などの新しい動きを見せている。今後は男性向け分野でも大いに盛り上がりそうだ。機能性、芸術性、商業性など多様な要素を併せ持つビューティーテックの動向を概括しつつ、ネットとリアルの融合に向かう新しい美容の世界を読み解く。

ここ最近、美容業界で無視できない大きな流れとなっているのが「ビューティーテック」(Beauty Tech)だ。ビューティーテックとは、スキンケアやメイクといった美容分野にデジタル技術やIT、スマートフォン(スマホ)や家電製品、デジタルガジェットを組み合わせた製品・サービスなどを指す。特に個別最適化(パーソナライズ)を図るという点が注目されている。

2010年代後半、デジタル技術やIoT(モノのインターネット)技術の浸透領域が広がるにつれて、これらの技術によって既存産業を新産業化する「○○テック」という言葉が一気に広がった。「フィンテック」や「アグリテック」「スポーツテック」「アドテック」「フードテック」などで、ビューティーテックもその一種だ。米国で毎年開催されるコンシューマーエレクトロニクス関連の展示会「CES 2016」でビューティーテックを冠するコーナーが設けられたことで知名度が高まったとされる。化粧品クチコミサイトなどを展開するアイスタイルは、日本のビューティーテック元年を2018年としている。

美容業界と言えば、きめ細かな接客を展開する百貨店の美容カウンターやエステ、感性に訴えかける大規模な広告戦略、芸術的な作品を生み出すメーキャップアーティストなど、アナログでアートな業界に見える。一方で、スキンケアは皮膚生理学に基づくものであり、化粧品メーカーは化学工業品メーカーとして多くの化学系・生理学系の研究者や技術者を抱えて日々研究や技術開発を進めている。そのため、元々テクノロジーとの親和性は高い業界とも言える。従来、製品開発や製造など消費者に見えにくい部分に様々なテクノロジーを駆使していたのが、ビューティーテックによって、より消費者に近いサイドでもテクノロジーを導入するようになったとも言えるだろう。

化粧品業界では製品そのものの開発はもちろん、容器や広告ビジュアル、接客などにも積極的な投資が行われており、こうした投資の一環としてテクノロジーが導入されやすい環境にあるとも考えられる。ちなみに、日本人が化粧品に費やすコストは決して少なくない。日本の化粧品市場規模は米国、中国に次ぐ世界第3位で、矢野経済研究所は2019年度で2兆7200億円と予測する(矢野経済研究所のプレスリリース)。日本はビューティーテックにとって期待の市場なのだ。

製品系と販促系、2つのビューティーテック

ビューティーテックは大きく2つに分けられる。1つはそれ自体が商品である製品系、もう1つは商品を販売するための販売促進系(販促系)だ。製品系の代表例はいわゆる美容家電で、“美容に各種技術を用いる”という広い意味では2000年代中頃から盛り上がり始めた。国内メーカーではヤーマンやパナソニックなどが代表格である。ヤーマンはサロン向け美容機器を手がけていたが、通販などによって一般消費者向け製品へと拡大を図り、今や家電量販でもおなじみとなった。パナソニックは水分を多く含む微粒子イオンを活用したヘアドライヤー「ナノケア」(初代発売は2005年6月)で高額ドライヤー市場を確立、現在はフェイスケアからボディケアまで、多様な美容家電を展開する。2020年11月には、温冷ミストに加えて手持ちの化粧水を利用できる「化粧水ミスト」を搭載したフェイス用スチーマーを新発売するなど、継続的な新製品投入にも積極的だ。

美容皮膚科やエステが広く普及する中、日常的に機器を活用してスキンケアの効果を高めたいという要望が高まり、こうした美容家電が多く登場することになったとされる。例えば、2009年5月に発売された「保湿サポート器 ハダクリエ」(当時は日立リビングサプライ、現・日立グローバルライフソリューションズ)は美容皮膚科やエステなどで行われるイオン導入に着想を得た製品で、美顔器市場の拡大を推し進めた。多くの製品はイオンや超音波、LED(特定波長の光線や紫外線、赤外線など)、RF(Radio Frequency :高周波)、EMS(Electrical Muscle Stimulation)、マイクロカレント(微弱電流)などの技術が活用されているのが特徴だ。

さらに最近では「パーソナライズ」をキーワードとして、機器をスマホ経由でネットに接続して皮膚の状態や手入れ状況を記録・管理したり、その人の状態を細かく把握したりすることで、より効果的な使い方を指南するといった製品が登場している。化粧品メーカーが美容家電との併用を提案する例も多く出てきた。こうした状況の中、資生堂が中国市場戦略の一環としてヤーマンと合弁会社設立に向けて2020年8月に合弁契約を締結した。このように美容家電メーカーと化粧品メーカーの関係は今後、より密な状態になっていくとみられる。