チップ埋め込みで健康管理が誰でも手軽に

田村 今は健康についても情報がたくさんありすぎて、どれが正しいのかもよくわからない。溝口くんの言うような変化が起きたら、そういう情報も精査されて、良質なヘルスケアにみんなが到達できるようになるのかな?

溝口 たとえば、英会話の場合で考えてみると、淳さんの現在の英語力と将来的に到達したいレベル、勉強に使える可処分時間や予算といったものを複合的に分析することができれば、最適な教材や勉強方法がわかって、より楽に英語力のスキルアップができますよね。これは健康管理についても同じです。ただ、その個人に合わせた測定、分析がすごく難しいんです。たとえば、体重を減らそうとしても、炭水化物で太りやすい人と脂質で太りやすい人では当然変わってきますよね。これまでのメソッドはほとんどの場合、それを提唱する人の経験則や実体験に基づくもので、「私はこれでうまくいったから、あなたもやってみましょう」ということが前提でした。しかし、これからは個人に最適化したメソッドがすぐわかるようになります。「淳さんに最適な健康管理はこういうやり方ですよ」と。

田村 それはどうやって可能になるの?

溝口 イノベーションが起こるときは、高速化、小型化、省エネ化が実現することで、低コスト化が進んで一気にROIが高まるというパターンがあるんですけど、一例をあげればヘルスケアについては、マイクロチップの小型化が大きな役割を果たします。微小のマイクロチップを体内にインプラントすることで、体内のさまざまな情報をリアルタイムで把握することができるようになるんですね。それで、たとえばカレーを食べて一気に血糖値が跳ね上がるようなことがあるとアラートを出すとか、自分の体の状態を視覚化させていく。さらに「事前に食物繊維を取ることで血糖値の上昇を抑えましょう」とか、最適な情報を提供することで、自分自身も肌で健康について学習できるようになります。その積み重ねで自分にぴったり合った形の健康管理を調整する、少し突飛な話に聞こえるかもしれないですが、技術的には実現可能なのでこれからはそういう時代になっていくはずです。

田村 うわー、それってすごく楽しそうだな。日常生活の体内データが可視化されることで、自分の行動がどんどん変わって健康になっていく、と。今は医療費や社会保障費が増え続けて困ったことになっているから、国民みんなで健康になろうということで、どんどん推進したほうがいいよね。

溝口 医療費や社会保障費の問題も、健康管理の変革で変わってくると思います。たとえば、日常的に運動をしていて健康を維持しようとしている人には保険料を下げるというインセンティブが回るような制度設計をするとか。逆に暴飲暴食を繰り返すような人の保険料は安くならないようにする。あるいは、健康増進を阻害するような行動ばかりして病院に行く回数が多くなる人の保険料を上げてしまう。そんなふうに個人の健康状態のデータ収集とそれによる健康増進の行動に対して保険料を調整するような未来はいつか必ず来ると思います。それが5年後なのか、10年後なのか、そこまでは読めないんですけど、技術的にはもうそれは可能なんですよね。

田村 やっぱり、あとは倫理的な問題になるのかな。

溝口 そうですね。たとえば、保険料の問題だと、高齢者や持病がある人は、健康増進を心がけていても、やはり病院に行く回数はどうしても多くなってしまいます。こういう人たちの保険料が上がる設計になってしまうとやっぱり理解は得られない。ただ、そういった人たちをちゃんと救いながら、保険料にインセンティブが回る制度設計を作ることは十分にできるはずです。行政や保険の制度設計に関わっている人たちの中にテクノロジーへの理解がある人がいれば、どこかで妥協をするのではなく、本当にいい形での制度設計をして、病気がちの人を救いながら、社会をより良い方向に進められると思います。

田村 なるほど。ぜひそうなってほしいね。