バイオミメティクスに関しては、個々の製品や素材への適用を超えて、環境を含んだ大きなスケールで捉えようとする動きが盛んになってきている。そのために必要なのが、求める機能から、適する模倣技術を見つけ出せるデータベース。それも、生物には縁遠い分野でも使える「辞書」のような体裁であるべきだ。日本のバイオミメティクス最前線で尽力する研究者の言葉から、次世代モノづくりの可能性と未来を探る。

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「バイオミメティクスでは、生物がどんな形態なのかを知る必要がある。でも、よほどの生物オタクでない限り、学名を言われても混乱するばかり。日本の場合、数学が大嫌いで生物学者になった人たちと、虫などゾッとするという気持ちから工学系に進んだ人たちがたくさんいて、とても会話ができない」。日本におけるバイオミメティクスのリーダー的存在である、千歳科学技術大学理工学部 応用化学生物学科の下村正嗣教授は、こう話す。

バイオミメティクス研究の第一人者である下村氏

2012年から文部科学省の新学術領域研究「生物多様性を規範とする革新的材料技術」において指揮を執っている下村氏は、これまで「生物模倣工学」と訳されてきたバイオミメティクスを新たに「生物規範工学」と位置づけた。技術的側面のみならず、環境・資源・エネルギー課題解決の手段といった社会的側面も含んだ広い枠組みでこの学問を捉えていこうとする考え方だ。

言うなればバイオミメティクスが次のフェーズに突入した形だが、ここで必要になるのが自然史学、生物学、農学、材料科学、機械工学、環境科学などの「学際連携」である。そこで下村氏はバイオミメティクスのさらなる発展を目指し、異なる研究分野をつなぐ辞書づくりに尽力している。

仮に企業がビジネスシーズを探したい場合でも、現状では一体どの生物の何に着目すればいいのか、その手がかりをつかむことすら難しい。そこでシソーラス(類義語辞典)を作ることにした。ここではオントロジー(言語の概念体系)を用いる。例えば「撥水性」という言葉を検索した場合、生物学的アプローチからは「ハスの葉」が挙がり、工学的アプローチからは「表面コーティング」が挙がる。このようにして、両者のアイデアが円滑に結びつくようにする。

この動きは、バイオミメティクスの国際標準化委員会「ISO/TC266 Biomimetics」とも連動する。2012年からスタートした同委員会の中で、日本は「データベース」ワーキンググループの議長国を務める。

バイオミメティクスを新たなイノベーションプラットフォームに

下村氏らはデータベースとして、シソーラス、精度の高い類似画像検索システム、TRIZ(トゥリーズ)と呼ばれるアイデア創出法の3つを組み合わせたものを想定している。「この3ステージを活用して、テクノロジートランスフォーメーションに役立ててもらいたい。企業のニーズさえはっきりしていれば、しっかりした検索の仕組みとデータベースを利用することで、必ず何らかのアイデアが出てくる」(下村氏)。

一口に生物といっても植物、動物、昆虫があり、何か対象をすぐに思いつくわけではない。そこでイノベーションを起こせるのは境界領域。だからこそ、極端にかけ離れているバイオミメティクスは新しいイノベーションのプラットフォームになり得る。加えて環境に優しい技術になる可能性も秘めている。