未来コトハジメでは、毎週、メールマガジン「未来コトハジメNEWS」を配信しています。メールマガジンでは反響が大きかった記事や最新ランキングなどを紹介しながら、食やSDGs、スタートアップなどの専門家によるコラムを掲載しており、メルマガ読者に好評です。今回、お年玉特別企画として、コラム連載陣の一人であるミステリー作家の早坂吝さんが未来コトハジメの読者のために執筆した「AIのショートショート」3話をお届けします。ぜひ、お楽しみください。

■ショートショート 1
(メールマガジン「未来コトハジメNEWS」2020年10月29日配信号掲載)

 パチパチパチパチ
「どーもー、ハヤサカヤブサカでーす!」
「僕がハヤサカで」
「僕がヤブサカ」
「二人合わせてハヤサカヤブサカでやらせてもらってます、よろしくお願いしまーす!」
 パチパチパチパチ
「ところで最近『人を傷付けない笑い』っていうのが流行ってるらしいですね」
「人を傷付けない笑い? それって何ですのん」
「いやね、先輩批判じゃないですよ、先輩批判じゃないですけど、昔のお笑いとかギャグ漫画って正直、誰かを下げて作り出す笑いって多かったじゃないですか」
「あーまあ確かにね。一人ウザキャラ作ってそれをみんなで無視したりとかね」
「そういう笑いも上手くやれば面白いと思いますよ? 思いますけど、最近はそういう毒のある笑いから優しい笑いへと流行が移り変わっていってる。芸人のぺこぱさんとか優しいツッコミで話題になりましたけど」
「ああ、あのボケを否定しないって奴ね」
「それからあの少年ジャンプのギャグ漫画も『森林王者モリキング』『破壊神マグちゃん』『僕とロボコ』とかの優しい笑いが中心で」
「本来いじめっ子であるべきジャイアンポジションの男子が異常に優しかったりね」
「紙面の半分が優しさでできている、これはもう少年バファリンですよ」
「今のボケは二十五点くらいかな」
「いやん、僕にも優しくして」
「せやけど何でなんでしょうね、この流行は」
「やっぱり世の中嫌なことが多いですから。笑う時まで嫌なものを見たくないと」
「確かにストレス社会とか言われてますからね」
「あと最近の笑いと言えば、AIの漫才師が出て来始めたそうじゃないですか」
「仕事を取られるー、なんて言ってる芸人さんもいますよね」
「それでそのAI芸人がさっき言った『人を傷付けない笑い』が得意なんだそうです」
「へえ、それは初耳やわ。え、それは何でなん」
「ロボット三原則ってのがありましてね。それの第一条が『ロボットは人間に危害を加えてはならない』。だから必然的に人を傷付けない笑いになるんですって」
「なるほど、肉体的にだけじゃなくて精神的にも傷付けないと。さすがAIやね」
「まあ僕らがそのAI芸人なんですけどね」
「って今までの全部自慢かーい。もうええわ」
「ありがとうございました」

■ショートショート 2
(メールマガジン「未来コトハジメNEWS」2020年10月8日配信号掲載)

これも時代か──アキオは内心で嘆いた。
 今日は一人息子の結婚式。漆黒のタキシードでビシッと決めた息子の大きな背中を見ると、いつの間にかこんなに大人になっていたんだなあと目頭が熱くなる。問題は花嫁の方だ。
 息子と向き合う形で、純白のウェディングドレスを着た花嫁が立っている。手を伸ばせば届く距離──しかしその手が届くことはない。なぜなら巨大なスクリーンが二人を隔てているからだ。
 大きな瞳。青いツインテール。完全に別次元の存在だ。はっきり言ってどこがいいのか分からないが、当然はっきり言わないくらいの分別は持ち合わせている。
「死が二人を分かつまで、夫を愛し貞節を守ることを誓いますか」
「誓います」
 牧師の言葉にアニメ声で答える花嫁だが、死の前にまずスクリーンで分かたれているだろうとツッコみたい。
「それでは誓いのキスを」
 いよいよ問題の局面に来たが、一体どのように進行するのか。
 まず息子がベールを脱がす動作をする。するとスクリーンの向こうで花嫁が自らベールを脱ぐ。そして二人の顔が近付いていく。
 このままだとスクリーンに唇が付いてしまう、汚いぞ!
 アキオは思わず叫び出しそうになったが、さすがの息子もそこまではせずキスのふりだけに留めた。
 そりゃそうだよな。そんな不衛生をするならわざわざスクリーンで仕切っている意味もなくなってしまう。
 すべてはホロナ対策のためなのだ。
 三十年前に突如出現したホロナウイルスは、各国の対策も空しく猛威を振るい続け、今や全人類の七割が感染した。必然的に警戒態勢は最高レベルに達し、大勢が一堂に会する時は「AIで自動制御するスクリーン」で一人一人を隔離する決まりとなっていた。アキオの四方もドローンで吊ったスクリーンに囲まれている。その向こうに見えるのは映像などではなく生身の人間だが、触れ合うことはできない。
 未来の結婚式がこんな寂しいものになるとは想像したこともなかった──アキオは内心で嘆いた。

■ショートショート 3
(メールマガジン「未来コトハジメNEWS」2020年9月3日配信号掲載)

 大きな鏡台に二人の女性が映っている。椅子に座っているのが、国民の半数に知られている辣腕政治家。側に立っているのが、寡黙な専属スタイリスト。政治家が意見を求めた。

「スーパーカジュアルボブはどうかしら?」
「オススメしかねます」と冷淡な返事。
「なぜ? 今年の流行でしょ」
「確かに本年、スーパーカジュアルボブは幅広い年齢層に分布しています。しかしこの髪型を選択した女性の年齢が高ければ高いほど、男性からの好感度が下がるという傾向があります。支持者の32パーセントが男性であることを鑑みて……」
「分かった分かった、若作りはやめろってことね」
「その通りです」
「はっきり言ってくれるじゃない。それで? あなたの意見は?」
「ネオジャパンポンパドールを提案します。なるべく分厚いレンズの丸眼鏡と紫の口紅を組み合わせてください。テーマは『在りし日の国会議事堂を偲んで』」
「了解、そうしてちょうだい」

 政治家に言われてスタイリストは黙々と手を動かした。そしてすべての仕事を終え、部屋を出ていく時、心の中で独りごちた。

(ああ、今日も一言も意見を求められることがなかった)

 大量のファッション誌やインターネットの書き込みをディープラーニングし、ファッションチェックをするAIスタイリスト。その登場により、人間のスタイリストはAIの提案 を実行するだけの存在に成り下がった。先程のやり取りも、政治家は終始彼女ではなく、パソコンの中のAIに意見を求めていたのである。

(しかしあのファッションはさすがに……?)

 違和感を覚えたスタイリストは踵を返しかけた――が思い留まった。それはもはや彼女の領分ではないのだ。

 だが彼女の直感は正しかった。政治家は選挙で大敗した。AIが稀に起こすバグにより、人間もどきが嫌悪感を呼ぶ「不気味の谷」現象が発生し、支持率も谷底まで急落したのだった。

『探偵AIのリアル・ディープラーニング』
新潮文庫
630円(税別)
AI研究者だった父が密室で焼死体となって発見された。その突然の死に戸惑う高校生の息子・輔(たすく)は、父が遺した大容量SDカードを発見。そこに記録されていたのは、父が創り上げた探偵のAI・相以(あい)だった! 輔は相以とともに父を殺した真犯人、そして相以と対を成す犯人のAI・以相(いあ)を追う。AIに関する課題とミステリを巧みに融合させた新感覚ミステリー。

『犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー』
新潮文庫
550円(税別)
テロリスト集団と手を組んで現実世界で事件を起こしたものの、AI探偵・相以の推理に敗れ去った犯人のAI・以相。復讐に燃える以相は、自ら人間の知能を増幅させることで完璧な共犯者を造り上げることを決意する。警察の事件捜査に協力するようになった輔と相以は、次々と起こる不可解な事件の裏に以相の影を感じ取るのだが――。話題のAI本格ミステリー第2弾。