汎用チップから専用チップへのゲームチェンジ

黒田:このように、AI、5G、ポスト5Gの進展に従ってビッグデータのやり取りがとんでもなく増えていく中で、中核になるはずの半導体チップを従来のやり方で作っていると消費電力が律速してしまい、十分なパフォーマンスを出せなくなってきているのが実態です。

これまではインテルや米クアルコムのプロセッサ、サムスンやマイクロンのDRAMとかフラッシュメモリーの組み合わせでいろいろなものが実現できました。ですが、先ほどフォン・ノイマン・ボトルネックと言いましたが、約50年間続いてきたこれまでの組み合わせでは、そろそろ限界なんです。

それで今、期待されているのが、従来の組み合わせではない、もっとエネルギー効率の高い半導体チップを作ろうということです。それは、汎用チップのように何でもできるものではない代わりに、決まったことをやらせたら10倍エネルギーの使い方が少ないという超高性能の専用チップです。

AI時代は、従来の半導体チップ、つまり汎用チップでは性能を出せる限界に来ている。新しい技術を使って作られた専用チップの時代になろうとしている(ビジュアル提供:黒田忠広教授)
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AI時代は、従来の半導体チップ、つまり汎用チップでは性能を出せる限界に来ている。新しい技術を使って作られた専用チップの時代になろうとしている(ビジュアル提供:黒田忠広教授)

──これからの日本が取り組むべきは、エッジ用の専用チップということですね。

黒田:そうです。今まさにゲームチェンジが起こっていて、汎用チップから専用チップの時代に移ろうとしています。だからGAFAは世界中の設計者を高給で雇い、ものすごい額の投資をして自分たちで専用チップを作っている。彼らは従来の汎用チップの組み合わせでは満足できず、DXの競争に勝つためにはもっと計算能力を上げたいと考えています。そのためにはエネルギー効率を上げた専用チップがほしいということで莫大な投資をしているのです。

米国も中国もその重要性がわかっているから国を挙げて投資競争をしているわけです。そんな時に、GDP世界第3位にいる日本だけ、位相がずれている。先ほど申し上げた経営者の悩みに戻るんです。われわれはもう半導体では負けた、資本競争には負けた、だからソフトに舵を切った、デジタルサービスに舵を切ったと……。

そこまではいいんですが、じゃあどうやって戦うかといった時にハードウエアをどうするかというところに戻ってくる。いや、戻ってきてしまっているんです。これからはどうしても外から半導体チップを買ってくるのでは足りない。実は皆さん、そのことを肌で感じている。

だから、皆さん一生懸命ギリギリのところで悩まれて、そこは重要なので一緒にやりましょうと決断してRaaSに入ってこられた。その方々が今のRaaSの組合員の企業です。その10倍くらいの数の企業が、やはり悩みながらも、今はコロナ禍で厳しいのでちょっと投資は難しいということで参加されなかった。

日本に残された時間は5年

──今、日本はどのくらい追い込まれているのでしょうか?

黒田:強い危機感があります。専用チップの開発競争は、5年後にはもう終わっているだろうと思っています。つまり、日本は今、手を打たなければ決定的に世界に後れを取り、周回遅れになります。なぜかというと、今はまだ残っている半導体技術の人材が5年後にはさすがに枯渇するからです。

かつての半導体を作っていた日本のメーカー会社は資本競争、投資競争で傷ついて、経営者がDXやソフトウエアへと舵を切りました。ですが、半導体技術の人材はまだ日本の中に残っているんです。

この分野の日本の人材は素晴らしいんですよ。かつて世界一になった経験をした人材ですから。国産半導体が世界を席巻していた頃に、優秀な学生たちがみんな「自分もあそこに行って半導体の最先端の技術をやりたい」という思いで国内半導体メーカーに入ってきた。私も大学で20年間教えましたけれども、優秀な学生がみんな半導体メーカーに行きました。そして今どうなっているかというと、誰も力を発揮できずにいる。

「うちの会社は半導体をやらなくなった」ということで、海外に行ける人は海外に行きました。若くて優秀な人たちが会社を飛び出していった。でも、そういう人はごく一部です。日本のメーカー各社にはまだ、50代くらいの、あと5年もすれば定年を迎える、しかし、20~30年くらい経験を積んだ非常に技術力の高い、ものがわかっているリーダーが各社にたくさんいるんですよ。日本の多くのメーカーはまだ終身雇用の文化がありますから、各社グループの中で散らばって半導体とは別の仕事をしている。海外に飛び出していった人はごく少数なんです。

実にもったいないことです。その人たちがいる間はまだいろいろできるんだけれども、もしその人たちがいなくなったら、半導体をもう一回やろうといった時にゼロから動かすのは本当に大変だろうと感じています。

ですからこういう人たちの力を借りつつ、そこに今の若い人たちの力を組み合わせる。日本は人材不足、人手不足と言われますが、半導体技術の世界はそうではないんです。

ちょうど今、社会も産業も技術も舞台が大きく回ろうとしている50年に1度の大転換の時代です。日本が次の舞台でも良いパフォーマンスを発揮できるように、舞台の上にいてほしいと思うものですから、今が大切なんです。

(黒田教授が描く、日本の半導体復活と日本の競争力再生のシナリオとは? 後編に続く)