AI、5G時代は、エッジ・コンピューティングの時代とも言われ、膨大な計算はクラウドのサーバー側だけでなく、スマホや自動車など端末側でも必要になる。端末を供給する企業にとっては、高性能半導体チップを素早く開発して自社端末に搭載することが競争力につながる。「今後、日本の企業が世界と互角に戦っていくためには、優れた半導体の設計・製造技術が必要であり、その技術基盤と産業のエコシステムを国内に保持しておく必要がある」と語るのは東京大学システムデザイン研究センター(d.lab)センター長の黒田忠広教授だ。産学連携の「先端システム技術研究組合(RaaS)」理事長でもある。黒田教授に、どのように日本の半導体技術を再生し保全するのか、戦略の詳細を聞いた。

世界の先頭集団に食らいついていく

──AI時代、5G時代に競争力を保つために、日本の企業は自前の半導体チップを作れることが重要だということですが、日本はこれからどんなロードマップを描き、何をどうすればいいのでしょうか?

黒田:少し謎解きのようになりますが、今ロードマップなき時代に入っています。

かつて半導体はロードマップがある産業でした。日の丸半導体が世界のトップだった時代は、半導体メーカーが周りの部材メーカーや製造装置メーカーに「10年後こうしますので皆さんよろしいですね、こうしてください」とロードマップを示してやってきました。日本が半導体を量産できたのは周囲に部材や製造装置を供給してくれる広大な産業エコシステムがあったためです。このエコシステムの中で、10年後のロードマップを共有し、これに合わせてみんなで足並みをそろえて2人3脚ならぬ100人101脚をしてきた。

ところが今は、ロードマップがない。なぜなら舞台が変わるからです。そして、どう変わるかわからない。こういう時って、本当は日本はわりと得意ではない時代です。これに対して動きが速いのは米国です。中国もそうです。得意なのは動きの速い人たちなんですよ。日本人はわりと慎重で良い仕事をじっくりしようとする。舞台を大きく回す時はわりと不得意なんです。

ですから、日本にとって重要なことは、世界の先頭集団に一生懸命付いていってから舞台からこぼれ落ちないことです。舞台が整ったら、そこから日本の強みを発揮すればいいと思っています。

日本の半導体産業の第1幕だってそうでした。1960年代から70年代にかけて半導体に関するいろいろな技術革新が米国を中心に起こり、日本はそこに一生懸命付いていってそこから強みを発揮したんです。

第1幕の最初の頃、日本人は何をしていたかというと、最先端の国際会議にみんなで行って英語がしゃべれないものだから何聞かれても答えず、一生懸命カメラでスライド写真を撮りノートに書き取って勉強して、まわりにいる海外の研究者・技術者からは気持ち悪いと言われて、あるいはずるいと言われて、それでも黙々と勉強した。そして、10年後、15年後に世界の最先端に躍り出た。これが日本人の得意な競争の仕方です。

今は世界中でAIとかポスト5G、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の大変革が起こっている。もちろん僕はそこで日本人が華々しく活躍する姿を是非見たいとは思うけれども、それよりも米国人や中国人のほうが動きが速いので先頭を行きます。僕らは一生懸命その先頭集団にくっついていく。それさえできれば何とか世界と戦える。でも、半導体技術の人材が枯渇した後にはもう難しいんじゃないだろうかと思っています。だから今しかないんです。今何とかつなぎ止めたいんです。

日本には、部材メーカー、製造装置メーカーなどを中心とする世界に誇る半導体産業のエコシステムが残っていると語る黒田教授。d.labとRaaSを中心に、新しい半導体技術を構築できれば、世界の最先端に付いていくことはできるという。ただ、この5年間が勝負の時であり、日本にとっては残された最後のチャンスだと黒田教授は見ている(写真:高山和良)