出口戦略は企業の事業展開につなげること

──RaaSやd.labへの参加要件と出口戦略について教えてください。

黒田:経営者の方はRaaSに対してギリギリの判断をして、よし、もうひと頑張りしようといったところから入ってきてもらっています。会社としてバックアップして資金を出し、人材も出している。組合員になれるのは法人で、組合員の法人に属する人がRaaSに参加します。d.labは東京大学としてRaaSに参加しています。組合員の企業・法人にとっての出口戦略は、それぞれの戦略に沿って、RaaSで開発した技術やツール、あるいは設計データや試作チップ、ノウハウなどを自社に持ち帰り、自分たちの事業に展開することになります。

一方で、d.lab協賛事業のほうは、RaaSに比べると協賛のために必要な金額が2桁安く非常に敷居が低い。RaaSに参加するためには年間数億円で最低3年間の参加が必要ですが、d.lab協賛事業は1年ごとの契約で数百万円です。その代わりオープンで自由で、秘密の会合はしません。世の中でオープンになった情報を持ってきて、それをきちんと使えるようにd.labが料理をして皆さんの前に展開するので、皆さんそれを味わってみたり試してみたりしてください、というような場所です。

ただ、いつまでもお勉強していてそれで世の中回るわけではないので、やはり出口戦略、つまり卒業があります。d.labに協賛してもらっている企業の協賛事業の出口は、そこで自分たちがやるべき研究なりプロジェクトを見つけて、そしてRaaSに移ってもらう。あるいは、東大や協賛会員同士の共同研究なりに進んでもらうのが出口になります。

──かつての超エル・エス・アイ技術研究組合※があった時代の濃密な空気感というか、技術者、研究者同士の情報交流によっていろいろなものが生まれてきたという話があります。RaaSとd.labで大きな成果を出すためには、こうした濃密なコミュニケーションや空気感を出すように火を付ける仕掛けが必要だと思いますが、そこに関してはいかがですか?

※ 超エル・エス・アイ技術研究組合とは、1976年から1980年にかけて、官民の合同によるLSI分野の協同研究組織。大学や当時の工業技術院電子技術総合研究所(電総研)の研究者、企業の技術者・研究者が協働しながら半導体技術の研究・開発に取り組み、LSI製造技術や製造装置などの早期国産化につなげ、いわゆる「日の丸半導体」発展の礎となった。技術研究組合の成功例とされる。

黒田:まさにそこが核心だと思っています。

技術研究組合とか、CIPと言っても生ぬるい後ろずさりをしている時のものはダメです。もうこれが本当に最後だと追い詰められていない時に、国から少し援助してもらって、生命維持装置を付けてもらっても、いずれまた生命維持装置を付けることになります。それを繰り返したくはないですし、まったくそのつもりはありません。

では、何が重要なのか、どうしたらいいかというと、2つあって1つは切羽詰まっているということです。これはもう、皆さん認識している。だからいいでしょう。まさに瀬戸際で、経営者がギリギリの判断でよしもう一度やろうという時期です。これが終わったら後がない。だからRaaSに集まって下さるリーダーの皆さんも、帰るところがないという気持ちで来ている。

もう1つは冷静な戦略です。気合いは絶対必要だけども気合いだけでは上手くいきません。それがシリコンコンパイラでありアジャイル設計であり、3Dの半導体技術です。それに日本が今も持っている、実装技術の強さ、部材メーカーや装置メーカーなどエコシステムの強さを掛け合わせる。この部分は3D積層の新しい技術体系、製造体系を作る時の基礎になるものです。

設計技術のほうで何とか先頭集団にくらいついていき、開発効率を今の10倍に上げる。そして、もう一方の柱である3D積層、3D実装の技術でエネルギー効率を10倍に上げる。こちらは世界をリードできる可能性がある。この2つの柱があれば世界のトップ集団と十分戦えます。

気合いのほうも、RaaSの組合員の企業の方はどこも決してお付き合い程度の気持ちじゃない。本気なんです。彼らは社内で当然厳しく追及されていて、何億円かこっちに投資した分、彼らの社内では何億円かは、他はつぶされているわけです。極めて厳しくその成果はどうなんだと追及されている。決してお付き合いなんていう人は一人もいません。綿密な事業計画まで立てています。

さらに言うならば、かつての半導体戦士たちと若い力の融合です。d.labとRaaSのある場所は東京大学の国際寮がある場所にあります。寮には800人くらいいます。次世代の若い優秀な学生たちが何をやっているんだろうと興味を持ってもらえる場所でやっている。ドミトリー(学生寮)のdがd.labのdなんです。最終的にはこういう若い人たちにバトンタッチしなくてはいけない。そのためにもこの5年間、シニアの優れた人材にもう一働きしてもらいたいということです。

RaaSとd.labの研究・開発拠点となっている東京大学目白インターナショナルビレッジ。RaaSとd.labはこの1階のフロアを広く活用している(写真:高山和良)
RaaSとd.labの研究・開発拠点となっている東京大学目白インターナショナルビレッジ。RaaSとd.labはこの1階のフロアを広く活用している(写真:高山和良)