シリコン技術の民主化が地球を救う

──最後に、今、コロナ禍で世界も日本も大変な状況にあります。こういう状況下で、もしくはWithコロナ、Afterコロナに対して、d.lab、RaaSの仕掛けをどうしていくのか、今後の展望を含めて教えてください。

黒田:5G・ビッグデータ・AI・IoTなどを活用したDXがコロナ禍で加速しました。今後、加速度を増しながら進むでしょう。

一方で、それに伴ってデータ処理量と電力消費が急増しています。このまま省エネ対策が進まなければ、IT機器だけで、2030年には現在の総電力の2倍を消費するだろうと予測されています。さらに、2050年には約200倍になるとの試算もあります。

今後は、通信機器やコンピュータのエネルギー効率を桁違いに改善していかないと、社会の持続可能な成長は望めません。そして、消費エネルギー急増の原因は半導体にありますし、解決のカギも半導体が握っています。

この改革は、半導体チップの市場のみならず、それを中核としたハードやシステム、それをベースにした様々なジャンルのサービス、インフラ面でも基地局の物理的な設置、製造、部材、世界のあらゆる産業に対する波及効果があり、想像も付かない規模の伸び代があります。次世代半導体の開発を中心としたデジタル革新は、地球規模で行われるAI時代、5G時代のニューディール政策と言えるのではないでしょうか。そのことがコロナ禍で加速され、浮かび上がり、多くの人たちが認識し始めています。

コロナ禍によってRaaSやd.labの研究開発活動が停滞することを心配する人も確かにおられますが、極論を言えば設計技術に関して言えば問題はありません。研究開発の拠点と自宅をすべてオンラインで結び、すべての当事者が在宅で協調連携しながら進めることができますし、実際、この半年間はそのようにして進めてきています。むしろ効率が上がっていると思っていますし、セキュリティの管理もしやすい。サイバー上のリスクはないわけではないですが、少なくとも技術管理はしやすくなっています。

半導体の国際会議も今年はリモート開催になりました。3000人規模で集まる世界最大の半導体技術の国際会議「IEDM」(International Electron Devices Meeting)も、日本が主導するIEDMに匹敵する国際会議「VLSIシンポジウム」もオンラインになりました。技術者・研究者の間では、「実際に集まらなくてもできるじゃないか、国際会議をオンラインで開くというパンドラの箱を空けてしまったね」という笑い話もあるくらいです。

ただ、コロナ禍によって背中を押されたものがある一方で、どうしても忘れてはいけないことがあります。それは、同じ所にみんなで集まって、共通の目標に向かっていく思いの部分、精神的な熱量をどのようにどれだけ届けられるかです。

RaaSとd.labの研究・開発の拠点や関連する企業、半導体の産業エコシステムの各拠点は日本の中に広く点在しています。それぞれをひとつなぎにして未来を描く作業が必要です。そもそも技術は土着的なものというのが僕の持論です。その場所で長年培われてきたものがあります。人やノウハウはもちろんですが、技術を育み継承していく文化や空気感のようなもの、これらをつむぎ合わせ組み合わせていくことが必要になります。

今後、エコにDXを進めていくためには、技術革新と新しいビジネスが不可欠です。「Society5.0」と呼ばれる社会を実現するためにDXは必然ですし、そのためには半導体が不可欠です。市場原理主義のすき間を突くようなデジタルビジネスはこれからは成立しません。それでは単なるデジタル専制主義になってしまいます。それで持続可能な社会の成長は望めません。

これを転換して、地球に住むすべての人たちが多様性を持ちながら誰もが公平に暮らせるような社会を目指すインクルーシブな成長と、地球環境を保てるようなグリーンリカバリーを実現する方向性に向けなければならないと考えています。このためには、誰でも自前の半導体チップを開発できるようになること、つまり「シリコン技術の民主化」が必要なのです。