長年に渡る日本酒消費量の低下に加えて、新型コロナウイルスの影響で飲食店やイベント向けの出荷が激減、全国の酒蔵は厳しい時期を迎えている。しかし、この状況下に、日本酒の新しい楽しみ方と新市場の開拓を提案し、未来を語る20代の若者が現れた。「手軽に日本酒の素晴らしさを伝えたい」と始めたのは「缶入り日本酒」を広めるプロジェクト。地方の酒蔵が事業として安定的に存続できるよう、日本酒をめぐる市場環境を変えることを狙う。自らを「日本酒のゲームチェンジャー」と名乗り、海外を含めた日本酒の新展開を志す若者に取材した。

日本の伝統産業である日本酒。出荷量は1973年のピーク時には170万kL(キロリットル)を超えていたが、近年は50万kLを下回る水準である。下り坂が続き、生産者である酒蔵の数も1980年代前半の半分の1400程度となっている。

昨年から続くコロナ禍の影響はさらに追い討ちをかけた。飲食店、イベント業界の自粛や経営不振と連動して、日本酒の販売はさらに厳しさを増している。

しかし、そんな日本酒の先行きに明るい未来を感じさせるイノベーションが起きつつある。新技術を全国の酒蔵に広め、同時により幅広い層の人たちに気軽に手にとってもらえる仕組みを構想する若者が現れた。

イノベーションのポイントは、日本酒の缶詰である。従来の日本酒は主に瓶で販売されている。重くて持ち運びが難しく、冷蔵庫の場所を取るのが難点。一般家庭では扱いが難しかった。

筆者の周りでも、お中元やお歳暮で送られた一升瓶の扱いに困った経験をした人が少なくない。さらに日本酒は、太陽光に含まれる紫外線(UV)にあたると風味が損なわれてしまう問題がある。持ち運びがしやすいカップ酒もガラス瓶のため同様だ。

それに比べて、缶入りの日本酒は、軽く、持ち運びが容易だ。冷蔵庫の場所を取らず、アルミ缶であるためゴミ捨てが容易で、リサイクルも可能。しかも日本酒の大敵であるUVを完全にカットできるため、樽のままの鮮度で消費者に届き、缶ビールの手軽さで一般家庭でも楽しめる。日本酒缶自体は約60年前から商品化されているが、充填設備の都合、広まっていない現状があった。

缶入り日本酒の普及を進めるその若者とは、28歳の玄成秀(げん・せいしゅう)さん。日本で唯一の醸造学科を持ち、全国の酒蔵関係者の半分を輩出する名門、東京農業大学の大学院農学研究科に在籍しながら、2020年2月、株式会社Agnavi(アグナビ)を起業。「缶入り日本酒を広めれば、日本酒の未来は明るい」と、2020年10月に始めたのが「Ichi-Go-Can(いちごうかん)」プロジェクトだ。

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「Ichi-Go-Can(いちごうかん)」のWebサイトトップページより、タイトル画像部。缶の多様なパッケージデザインを押し出すことにより、日本酒の魅力を視覚的に訴えようとしている(出所:Agnavi)

世界初の「クラフトSAKE」の通販サイト、「Ichi-Go-Can(いちごうかん)」のホームページを筆者が初めて見た時に驚いたのは、その明るさとポップさだった。日本酒が入った缶は、デザイン雑貨のような可愛さで、お試し日本酒10缶セットが4100円で購入できる。飲みきりサイズで持ち運びがしやすい。家飲みやキャンプはもちろん、ギフトとして贈っても喜ばれると感じた。

玄さんにプロジェクトを始めた理由について尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「全国の個性的な日本酒を詰めた1合入りの缶を『クラフトSAKE』として広め、地方の歴史ある酒蔵が営利事業として安定的に存続できるようにするためのゲームチェンジャーとなりたい」

その言葉の響きには、青空のような爽やかさと説得力があった。