田村淳さんの連載対談企画、今回のお相手はパナソニックの石橋健作さん。石橋さんは同社の環境経営推進部でサーキュラーエコノミーに関わるコーポレート活動の推進リーダーを務めています。パナソニックが推進するサーキュラーエコノミーとはどういったものなのか、そしてその目指すところは──。環境問題にも強い興味を持っている田村さんが石橋さんに聞きます。

石橋 今日はお忙しいところ、ありがとうございます。

田村 こちらこそ、今日はよろしくお願いします。

石橋 今回は淳さんと“サーキュラーエコノミー”についてお話したいと考えています。淳さんはこの言葉を聞いたことがありますか?

田村 初めて聞きました。どういうものなんですか。

石橋 サーキュラーエコノミーとは、“循環型経済”を意味する新しい経済モデルのことなんです。まずはサーキュラーエコノミーという考え方が生まれた経緯と背景から簡単に説明させてください。この数十年の間、世界的な人口拡大と経済発展にともなって、資源の有効活用が重要な課題となり、さまざまな議論がされてきました。それでもなかなか新しい取り組みや政策が出てこなかったのですが、2015年に欧州委員会が経済の持続可能な成長と資源の循環を実現させる経済政策として、サーキュラーエコノミーというキーワードを打ち出したのです。これが今、世界的に広がりを見せているんですね。

パナソニック環境経営推進部の石橋健作さん(右)。当日は、東京にいる田村さんと、大阪の石橋さんがリモートで対談した
パナソニック環境経営推進部の石橋健作さん(右)。当日は、東京にいる田村さんと、大阪の石橋さんがリモートで対談した

田村 それは具体的にはどういう経済モデルなんでしょう。

石橋 これまでは、資源を採掘して、それで製品を生産し、最後は廃棄するという直線的な経済モデルで資源が消費されてきました。サーキュラーエコノミーでは、資源を新たに採掘するのではなく、すでにある資源を回収、再生、再利用して、資源の消費に依存しない経済成長を目指します。資源を直線的ではなく、循環させて活用するということです。

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これはコンサルティング会社のアクセンチュアが提唱していることなのですが、サーキュラーエコノミーによって「モノ・コト・資産等の“無駄”を“富”に変革し、新たな価値を創出する」ことができます。たとえばヨーロッパでは自動車の稼働率は10%程度といわれています。つまり、大量にある自動車のうち、約9割が駐車場に停まっている状態なんですね。この利用されていない自動車をカーシェアリングなどで稼働させることができれば、ここに新たな価値が生まれることになります。このような取り組みをさまざまな分野で拡大していくことで資源を循環させ、資源の廃棄問題を根本的に解決することも、サーキュラーエコノミーの目的なのです。

工場排出物の素材とデザインを活かしたユニークな商品展開

田村 なるほど。パナソニックでは石橋さんがそういったサーキュラーエコノミーの取り組みを推進しているわけですね。

石橋 私はもともと半導体開発の技術者だったのですが、10年ほど前から環境分野の仕事をすることになりまして、今はサーキュラーエコノミーに関わるコーポレート活動の推進リーダーとして、今回のように社内外でいろいろと活動をしています。

田村 たとえばパナソニックではどのような取り組みをしているんでしょう。

石橋 代表的なところですと、プラスチック循環の取り組みですね。回収したプラスチックから製造する再生樹脂の利用拡大を進めています。さらに、プラスチックの利用そのものを削減するために、植物由来のセルロースファイバーをプラスチックに混ぜ込む複合加工技術を開発しました。この技術を使って、食品廃棄物からでもセルロースを抽出することができるようになったのです。アサヒビールさんと共同で、コーヒー豆の残滓やビールを作るときの副産物である麦芽糖などから抽出したセルロースファイバー複合プラスチックのリユースカップを開発しています。こうした資源の循環技術は、私たちの製品にもどんどん取り入れていきたいと思っていますね。

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田村 プラスチックごみ問題が世界的にも深刻な課題になっていることは知っています。サーキュラーエコノミー的な取り組みでプラスチック削減に貢献するということですね。

石橋 はい。それから私たちメーカーでは、製品の製造過程でわずかな傷や加工不良による工場排出物がどうしても生じます。そういったものをエネルギーやコストをかけてリサイクルに回すのではなく、そのまま素材としてのデザインを活かし、新しい製品にする「アップサイクルプロダクツ」という取り組みを展開しています。例えば、炊飯器の内釜をランプシェードにしたペンダント照明やアイロンのプレス部分を使用したブックエンドなどを制作していて、これらも排出物に新しい価値を創出しようとする試みです。

アサヒビールと共同開発したセルロースファイバー複合プラスチックのリユースカップ(左)と、アイロンを再利用したブックエンド(右)
アサヒビールと共同開発したセルロースファイバー複合プラスチックのリユースカップ(左)と、アイロンを再利用したブックエンド(右)

田村 炊飯器の内釜を使った照明は撮影のときに見ましたよ。ユニークなデザインで面白いですね。

石橋 ありがとうございます。こうした取り組みを進めていくのと同時に、より根幹的な転換についても社内で議論を進めています。つまり、どのようにして私たちの事業を従来の直線的な経済モデルから循環するサーキュラーエコノミーへ転換させていくのかという課題です。コロナ禍のためにオンラインではありますが、この1年間に社内で有志のメンバーを募って、未来の私たちのビジネスや暮らしの変化、必要なテクノロジーについてワークショップを開催して議論をしているところです。