講演とワークショップで白秋世代を理解

──研究所を立ち上げて間もないうえに、取り組みの初年度であるにも関わらず、既に35社が参加され、約70人の社員が研究員として取り組みを進めていると伺いました。いわゆる有名企業も複数、名を連ねています。どのようにして参加企業を募ったのですか。

廣岡:研究所のオーナーであるフェリシモの矢崎社長のご尽力が大きいですね。関西の大企業を中心に、研究所の趣旨に共感してくれそうな方に積極的にお声がけされました。それに加えて、石川さんのお知り合いや、私が前職でお付き合いさせていただいた企業などにお声がけしました。こちらはベンチャーや中小規模の企業など、小回りが利く企業が中心です。現状の構成としては、大企業が約7割、中小やベンチャーが約3割です。

ベンチャーや中小企業の場合、何か新しく始めたいことがあってもリソースが足りないという課題があります。一方、大企業はリソースはあるものの意志決定に時間がかかることが多いので、“出島”のような形で新規事業の開発や実験ができる場が歓迎されます。

白秋共同研究所は、いわば異なる両者が協力できる場です。このような場を用意すれば、ベンチャーや中小企業は信用度の高い大企業のプラットフォームを使えますし、大企業はベンチャーや中小企業の力を借りながら小回りの利いた活動が展開できます。いわばウィン-ウィンの関係になりやすいのです。

まだ詳細を詰める必要がありますが、オーナー企業であるフェリシモが持っている通販の枠組みを一部活用して、白秋共同研究所の活動を通じて開発した商品を販売するという枠組みも検討中です。また、参画企業の中にも白秋世代にアクセスしやすい商品流通網を備えている企業があり、こちらも別途、実現の可能性を探っています。

参画企業各社が備えているノウハウも白秋共同研究所の中でシェアしながら、白秋世代を盛り上げる商品やサービスを開発し、どんどんテストしていこうと考えています。

──昨年10月に初年度の活動を開始しましたが、参画の枠組みや活動の中身を教えてください。

廣岡:現状、各企業様には年間参加費をお支払いいただきまして、基本月1回の研究会に各社から2人が研究員として参加するという枠組みにしています。

研究会の中身は大きく講演とワークショップの2つで構成しています。講演は主に、石川さんによるウェルビーイングや白秋世代に関する講義や、参画企業による商品やサービスの事例研究などです。ワークショップでは白秋世代への理解を深めるための取り組みをしています。

各企業から参加いただく2人は、1人が白秋世代の方、もう1人が若い世代の方になるようにお願いしています。白秋世代がかっこいいと感じるものを若い世代に伝えること、そして若い世代が「自分たちも将来ああいうふうになりたい」と思えるかを検証できるからです。

──今後の活動目標などを聞かせてください。

廣岡:初年度である2020年度は「白秋定義期」と称して、まずは100人の白秋世代にリーチすることを目標としています。研究員の方々が、白秋世代の同僚や知人2人にアクセスしていただくというのが今年度の活動の目標です。参加企業35社で合計すれば、100人を超えます。身近にいるコアな白秋世代100人をトリガーにしながら、白秋世代の認知を広げていこうというのが趣旨です。

次の2021年度は「市場創出期」として活動する予定です。参加企業を50社に増やし、10万人をターゲットに設定して、具体的な商品やサービスを投入することを目標にしています。さらに次の2022年度は「市場拡大期」として、100社の参加、ターゲットを100万人に拡大することを目標にしています。

画一的に捉えず多様な選択肢を提供する

──白秋世代の実態や、商品やサービスに対するニーズは何か見えてきましたか。

廣岡:白秋期は従来の言葉だと「アクティブシニア」と言われる層に入ります。ただ、これまでの傾向を見ると、アクティブシニア向けに作られた商品が刺さっているか、というとそうではありません。実は、20~30代向けに開発された商品を、白秋世代が自分たちなりに解釈を加えて楽しんでいるというケースが多くあるのです。そこで例えば、白秋世代向けに新たに商品を開発するのではなく、既にある商品の見せ方や売り方を適切に変えることが、1つのアプローチとして考えられます。

別の例としては、フェリシモLXで50歳代以上の女性向けに開発してヒットしたという黒のノースリーブのドレスがあります。白秋世代の女性にはドレスを持っている人が多くいらっしゃいますが、ファッション業界では「40代向け以上の女性は腕を出すのを嫌う」とされており、ノースリーブのドレスがありません。一方で若い人向けのノースリーブのドレスは、白秋世代が好むものよりも素材がチープなんです。

そこで高級な素材でノースリーブのドレスを作ったところ、大人の女性たちにヒットしました。この例からも、「白秋世代は20~30代の流行に敏感であり、それを踏まえた上で自分たちに合ったものを身に着けたい」と考えていることが分かります。

一方で、白秋世代を画一的に捉えることはできない、ということも強く感じています。これまで産業界ひいては日本社会は、白秋世代に当たる人々について画一的に捉える傾向がありました。しかし、そうした画一的な捉え方はほぼ機能していないと言って良いでしょう。

白秋共同研究所に参画してくださっている方々はおしなべて、消費者としても、また事業の企画者の立場としても、そうした実態に薄々感づいている方が多い。だからこそ、白秋共同研究所の活動趣旨やビジョンに賛同して参画していただいているわけです。白秋共同研究所で白秋世代を画一的に捉えようとしたら、また同じことになってしまいます。

──傾向はあるが、画一的には捉えられない。難しいですね。

廣岡:モデルケースはありませんし、こう言っては何ですが、何をやっても(単一の明快な)答えというものは出ないでしょう。ですので、参画してくださっている研究員の皆さんには、「分かろうとするのではなく、作ろうとしてください」とお伝えしています。新しいものを作るチャンスと捉え、白秋世代の自分自身がやりたいことを思い切りやって開花させるという姿勢が重要だと思います。

それに加えて私からは「自分たちの『欲しい』という気持ちにとことん正直になってください」とも申し上げています。例えば、これまでの研究会のワークショップでは、ご自身の引退後の生活のハイライトを考えることや、理想的な生活スタイルをビジュアルイメージにまとめることに取り組んでいただきました。

なぜそのようなワークに取り組んでいただいているのかと言いますと、白秋世代、あるいは白秋世代予備軍である自分自身をマーケティングで言う「n=1」と見なして向き合うことでこそ、本当に白秋世代が欲しいものの姿が見えてくると考えているからです。そもそも、これまでに存在しない新しい市場ですから、どんなに細かく市場調査をしたとしても、白秋世代が求めるものは見えてきません。

また、商品やサービスを具現化するうえでも、自分の「欲しい」という気持ちが重要です。私が前職で経営コンサルタントをしていたとき、良い商品やサービスの案が現場から出てきても、社内の様々な壁に突き当たってなかなか具現化しない、という姿を見てきました。それでも具現化する案の背後には、考え出した社員の「私はこれが欲しいのだ」という熱い思いがあります。この白秋共同研究所の活動を通じて、研究員の皆さんが持っておられる思いを掘り起こしたいと考えています。

将来の日本に「かっこいい大人」を増やす

──人口の約半分が50歳以上というのは、まさに未経験の社会です。絶対に避けられない未来なのであれば、楽しく暮らせる社会にしたいですよね。

廣岡:所長の石川さんは、「白秋世代は今後大きな葛藤を抱えるだろう」とおっしゃっています。その理由は、白秋世代の生き方のモデルが明確になっていないからです。誰もが未経験ですから、政府や会社がそのモデルをうまく示せるとは限りません。

だからこそ、白秋世代の方々の主体的な活動が欠かせません。従来のアクティブシニアや高齢者という枠にはまらない、自分たちが幸せで楽しいと感じられる生き方のモデルを見いだし、発信していただきたいのです。

このテーマは私たち後続の世代にとっても、人ごとではありません。例えば私の親は白秋世代です。親にはかっこよく、そして元気に生きてほしい。また、私たちも近い将来、白秋世代になります。「かっこいい大人」が増えるよう支援する活動は、自分たちの未来を創ることにもつながります。

私がお付き合いしてきた起業家やベンチャー企業の人々は、「自分たちが信じる世界を作っていこう」という考えを持ち続け、青臭くやっています。白秋世代、あるいは白秋世代予備軍である研究員の皆さんが、ご自身が信じる世界を創造するのを支援していきたいと考えています。