ベンチャー企業と個宅を結ぶ新事業に応用

──そうした販売チャネルに着目した新事業「ことむすび」について教えてください。

西原:日本でも近年、SDGs(国連による持続可能な開発目標)が話題になっています。そうした潮流の延長線上で、生産者の支援など多面的な意味も含めた「良質な生産品」を売りたいというベンチャー企業が登場してきています。ただ、彼らがいきなりものを売ろうとしても、ベンチャー企業では扱ってくれるチャネルを確保しにくい。ネットで売る場合でも、専用の販売ノウハウが必要となりなかなか売れないのが現状です。

そこで、私たち牛乳配達事業者の販売ネットワークを通じてテスト販売する「ベンチャー企業の営業支援サービス」を試みました。牛乳配達というビジネスは元々、空き瓶を回収してリユースするモデルなので、SDGsとは親和性があるとも言えます。

この3月に実施したパイロットプロジェクトでは、参加を希望する有志の牛乳配達事業者が集まって取り組みました。千葉、茨城、埼玉、長野、福島など、合計で約7万軒のお客様を対象に商品をテスト販売しました。この結果を受け、今後の実行プランに反映させていく予定です。

──牛乳配達事業者側が取り組むメリットは何ですか?

西原:商品販売を通じた利益に加え、ベンチャー企業側から広告宣伝費もいただきます。商品販売による利益を頂戴するのは従来の牛乳配達事業者のビジネスと同じですが、広告宣伝費やマーケティング費という点が今までになかった新しい収益モデルですね。

ただ、それ以上に「思いのあるベンチャー企業の加速を支援する」という役割を担いながらお金をいただくのは、これからの牛乳配達事業者にとって大きな意味があると思うのです。もちろんお客様の目線は忘れません。あくまで私たちの顧客層に役立つであろう商品を選択して提供することは重要です。

──実際にはどんな商品を販売したのでしょう。

西原:いわゆるソーシャルベンチャーと言われるベンチャー企業3社の商品です。一つは、信州大学発のベンチャーであるウェルナスの商品で、ナスから得られる成分のサプリメントです。ほかにもルワンダのスペシャリティコーヒーやミャンマーのハーブティーを作っている会社の商品を扱いました。商品単価は2000円から3000円です。各社には1商品だけ出してもらいました。

※ ウェルナスのサプリメント「wellnas(ウェルナス)」は信州大学農学部の研究成果に基づいた製品で、ナス由来成分のコリンエステルが含まれている。神経伝達物質であるコリンエステルには交感神経活動抑制作用があり、血圧上昇の抑制、およびリラックス効果が期待できる。必要以上に摂取した際には酵素により分解されるため安全性も高いとしている。

これらの企業はいずれもSDGsの観点を持ち合わせており、特にコーヒーやハーブティーについては品質はもちろん、生産農家のQOL(生活の質)向上を支援することを重視した製品です。ただ、こうした商品は機能性や味が良かったとしても、販売活動まで手が回らず、なかなか売れないことが多々あります。

──そうした会社とはどこでつながったのですか。

西原:いずれも、私が加わっている白秋共同研究所という業種・業界横断型の研究コミュニティを通じたつながりです

※ 白秋共同研究所は、神戸市に本拠を置く大手ダイレクトマーケティング会社のフェリシモがオーナーとなって活動している業種・業界横断型の研究グループ。50歳から75歳未満を「白秋世代」と位置づけ、新たな市場を開拓するのが目的。所長は予防医学者の石川善樹氏で、「健康寿命」や「100年人生」を提唱したことで知られる。

主な販売ツールはチラシですね。今回はSDGsの話を含め、商品の裏側にあるストーリーをそこでお伝えするようにしました。農作物の廃棄に貢献できるとか、生産国の生活支援につながります、といった内容です。各ベンチャーと打ち合わせしてチラシのデザインを制作し、そのデータをLINEで他の牛乳宅配事業者と共有して印刷し、各家庭に配布しました。

──そもそも「ことむすび」を企画するに至ったきっかけは何だったのでしょうか。

西原:私たち牛乳宅配事業者は懇意にしてくださる地域のお客様がいて、そうしたお客様との関係性から恩恵を受けています。しかし現状として、やはり牛乳とヨーグルトしか届けられていないという問題意識があります。そうした中で2020年から新型コロナウイルスが流行し始めました。どの事業者さんも不安で、もう宅配できないんじゃないかという危機感をお持ちでした。

ことむすびは明治クッカー単体でも進めていたかもしれませんが、やはり複数の事業者で協働したほうがより多くのお客様のフィードバックが得られます。そこで当社が主導して、2020年の夏頃に、コロナ禍に入ってから悩んでいる事業者さんをオンラインでつないで、今困っていることや不安に思っていることを出し合う機会を設けた結果、60数名の社長が集まりました。「本当に私たちは牛乳やヨーグルトだけ配達していて今後もやっていけるのか?」「このままの事業スタイルで存続できるのか?」という声が改めて出てきたのです。

コロナ禍が始まった2020年の春頃、生協(生活協同組合)さんがすごく売り上げを伸ばしていたのを私たち牛乳配達事業者は横から見ていました。生協は生活用品を全て扱っていますし、乳製品も扱っていますから。実際、経営者に話を聞くと、一部のお客様がそちらに流れてしまったという声もありました。そうした実体験も「ことむすび」への参加を決める判断に大きく影響したと思います。